第42話:過熱

序盤から巻き起こす旋風に続き、戦争は加速度を増すばかり。次第に過熱感も高まり、兵は次々と前進を余儀なくされ、命を落とす。

金成一行も徐々に東門近くに迫りつつあるが、その距離はまだ幾分にも遠く感じる。

既に3時間が経過され、敵兵も徐々に死の行進を続けては倒れを繰り返す。

「敵も馬鹿ではない」

金成が呟いた。これだけの兵士の命を落とすことは国家の軍事費用に直結し、今後の戦争では戦闘員の空洞化が起こり、たちまち国は他国に於いて侵略戦争を担うことになるだろう。そうなると次々と兵士が送られてくるのは相手に余力という余力を見せつけ、そこから主戦力が迂回路に周り、一気に王を叩くための布石である可能性もある。

よって将棋で例えるならば序盤に戦闘に赴くものは基本的に「歩兵」、敵陣地に入り次第「と金」となるべく、相手の指揮を落とすための司令塔を叩きさえすれば陣地は確保できるものと考えられる。

だとすれば今来ている兵士達はいくらでも補給のきく、いわば給料の安い「従業員」といったところか。


「命を、侮辱している。人の人生を何だと思っている」


金成はイラついた。

東京国も東京国ならば他国も他国。これが政治や内閣、王制度というものならば虫唾が走る。さっさと戦争を終わらせたいが、どうも歩兵の死の行進が鳴りやまない。

遠くから攻撃をするスナイパー組は「香」、戦車などを用いるものは「銀」、そして能力者達は「桂」という人海戦術であろうか。

戦いを好む金成にとってもいざこういう戦場での「惨い」経験をすると、彼の倫理に駆られることはよくあることであった。

だからこそこの戦争には是が非でも参戦すべく、後方から状況を確認しつつ一気に攻め立ててはいるものの、あまりにも駒の無駄遣いを互いの凡庸な指し手達のやり方に水を差したいぐらいの不敬罪に値する心境であった。愚は骨頂に致して、命運は己が悲哀に塗れる思慮に来していた。


「金成、そろそろ目前に王直属の戦士十戒の誰かがいてもおかしくないぞ。このまま進むか?」

「今は互いの利は一致している。協同は出来ないが、相手も敵兵を倒すのに必死のハズだ。手薄い今こそ相手国の侵略を一気にものとする好機であると伺えるべしだ」

金成に迷いはない。迷いは戦場にて「油断」を引き起こす。

常に正しきは自分の理論で考え、そして判断しなければ少しの油断も一瞬で命取りになる。

詰将棋に於いては一手も悪手は許されないのであった。

「一気に攻めると言えど、此方はたった4人だからな。フォーメーションもそこまで意識して行えるものでもなければ、本来4人の中に回復役は本来必須。RPGでも勇者、戦士、魔法使い、僧侶のフォーメーションで医療関係に携わるものが1人加わるとミッション成功率と帰還率は大幅アップも計れるんだが・・・」

「まあそういうな池袋。確かに回復はいない。だから俺たちは誰もここで戦死するわけにはいかない。常に成功することだけ考えればいい。戦争とは情けと迷いが命取りになる」

金成はそれ以上言わなかった。いざという時は自らの「雷」の力をもってして皆を守ろうという腹であったからだ。


千葉国側に新たな動きが見受けられる。

「どうやら俺たちは今戦場にいるらしい」

「ほお、それで敵はどいつだ?」

2人の男がその場に君臨する。場所は東門から既に2㎞地点のところを悠々と歩いてきている。

地点的には金成一行と真正面からぶつかる位置。そしてその先に君臨するのは王直属の戦士十戒の一人「伊弉諾」であった。

「刺客がいる。前方より2か所」

男がつぶやいた。

「どっちが強い?」

「どちらも只ならぬ妖気。右辺は1人の男から漲る妖気、左辺は4人。うち一人から只ならぬ妖気」

「へえ、面白そうじゃん。なら俺左いくわ。4人相手とかウォーミングアップさせてもらいたいしよ」

「なら俺は右の強そうなやつ1名と対峙しよう」

この二人は千葉国きっての門番「富里」と「香取」であった。

「各門番達も既に東京国に潜入成功してるんかいな?」

「まあおそらく潜入しているでしょう。佐倉と習志野はおそらく東門付近で待機し、東京国の潜入を阻止しているはず。浦安と成田、勝浦と鴨川は既に我々と共に同行しているはず。落ち合う場所は中央区の東京国の牙城と言ったところ。そこまで我々は12時間以内に到達すれば問題ないというわけである」

「このまま行けば楽勝だなおい」

「まあ相手もそろそろ王直属の戦士十戒を配置しているわけだから、そろそろ直面するよ。油断しないように」

「誰に言ってんだボケ」

「ではそろそろターニングポイントといきますか」

「じゃあ後でな」

2人はそのまま別れた。


既に6人の刺客が東京国にそれぞれ潜入されているわけである。

兵の群衆に紛れ、突破口を許してしまったのは秋葉王の誤算ではあるが、それでも具合はそれぞれ十戒との直接対決にまで持ち込めているわけである。もしこれが十戒を潜り抜けて、鳳凰との対峙を余儀なくされ、その難関をもクリアしてしまうと、手薄の居城を狙われ、秋葉王は「王手」を掛けられる羽目になる。しかしここで予想していないのは金成達の行動である。偶然にも伊弉諾相手に富里と香取の2人をぶつけるはずが、香取が先に妖気をキャッチし、それを富里に伝え、役割を分断したことにある。

しかし伊弉諾と香取はともかく、金成達4人組で果たして千葉国きっての戦闘員「富里」を相手に無事でいられるかどうかであった。


その時がきた。


「よお」

4人は足を止めた。

でかい。4人は一斉にそう感じた。

富里は千葉国の中でも巨兵であった。身長にして3m以上はある。

イノシシの皮のダウンジャケットのような羽衣1枚を纏い、それでいてこの真冬の寒さを一切感じさせない猟師のような姿であった。

黒い長靴は安全靴でありながらもそれは底が分厚く、多少のナイフならば逆に刃こぼれしてしまうぐらいの強靭さを誇っている見た目に、相手のオーラを感じ取った4人は多少身震いした。

「餓鬼4人が相手かよ。んでどいつが一番強い?」

「俺が相手だ」

金成が真っ先に突っ込んでいった。


スキルマスター発動:ウォーターフール


手から極限状態の水を浴びせた。

「目くらましのつもりかよ?」

水を薙ぎ払う富里であるが、水が切れた瞬間に炎が飛ぶ。

「炎に焼かれな」

渋谷が金成の後に続き、炎を繰り広げた。しかしそれを富里は華麗に交わす。

「いいね連携プレイ」

辺りが突然闇に包まれた。

「ほお?なんだこりゃ」

「俺のナイトメアさ」

原宿が刀を突きつけながら、能力を発動した。


スキルマスター発動:スイミング


金成は相手の視界の悪さを利用し、富里の足を掴み、動きを取れなくした。

「誰かが俺の足を掴んでいるのか?」

富里は動くことが出来ない。そこに札が4枚飛んできた。

それぞれ富里の両腕両足に1枚ずつであった。

「正義こそが全てを語る。捕獲完了だ」

眼鏡を持ち上げながら池袋が勝利宣言をする。金成も地面から出てきた。

「エクセレントだ」

富里が微笑している。池袋のジャスティスによって四肢は捥がれた如く動くことが出来ないのであった。

「さてこいつどうする?」

「死なない程度に痛めつけておくさ」

「おおおう?小僧粋がってるな」

「そんな状態じゃ何もできまい?」

「どうだろうな?」

ハッタリをかましているだけかどうかは不明だが、身動きが取れないのは言うまでもないだろう。


スキルマスター発動:ライジングサンダー


「喰らいな」

金成が高速で攻撃をしようとした。

しかしその時であった。突然、カウンターを喰らった。

富里の体は全身に棘を纏っていた。

金成は頬を霞めた程度であった。雷の力のおかげでダメージと瞬発力でカウンター技を跳ね除けた。

「あーあ、惜しいなあ。目を抉ってやろうと思ったのによ」

「何だ今のは?」

鉄の棘が形を変え、鋏に変身している。四肢の札をその鋏が切り刻んだ。

「ふう、これで動けるわな」

富里の体から鉄の鋏が消えた。

「なんだこいつは」

「俺は錬金術師。武器を錬成することが出来るんだぜ。鉄の武器をな」

「なかなかやるな」

「まあお前ら十戒じゃなさそうだが、そこそこ腕は立つようだな。餓鬼のくせにな。でもまあ千葉国きっての門番、この富里様の手にかかりゃ赤子の手を捻るも同然よ」

「金成、こいつ千葉国の門番。てことは十戒並みの実力者だぞ」

「未知数だな、こいつは錬金術を使ってくるのか。もしかするとまだ魔法や科学兵器も隠しているかもしれん。油断できんぞ」

「相手が何であろうと叩きのめすまでだ。極力死なない程度にな」

「まあ相手は俺らより格上だろ。殺す程度で丁度よさそうだな」

耳をポリポリ掻きながら富里は上辺の空になっている。

「雑談はそれぐらいでそろそろ第2ラウンドと行こうか。4人がかりで掛かってきな」

「行くぞみんな」


金成達の死闘が続く。

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