第4話:渋谷

「金成、こっちこっち」

渋谷が金成を引き連れて、木の陰に隠れる。

金成は渋谷が何かを企んでいるなと考えていた。

「あの子、店員さん。名前は若菜ちゃん。あの子とぜひデートしたいんだ。お前なんとか掛け合ってくれよ」

金成はなるほど、と頷いた。

「じゃああの子ともしお前がデート出来たらスキルの件は了承してくれるんだな?」

「当たり前だ。しっかりと頼むぜ、へへへ」

「よし、俺に任せておけ」


神出鬼没な天命を負ってきた金成に於いて、カップル成立など些かの躊躇もないぐらい容易く、地合いを込めて彼女に近づいて行った。

問題があるとすれば、きっかけであった。何かないものではないかとそう感じた。

しかし自分の今までの人生の中で偶然なれど必然、いわば運否天賦はここぞという時に発揮されることは屡あった。今回もそれが上手くいくかはどうかは分からないが、時が全てを成就するものであるとそう確信し、この身を削りて尚、スキルに執念を燃やした。

「あの~すいません」

「はい、どうしましたか?」

若菜はにっこりと笑顔で振り向いた。

「えっとですね~」

その時であった。近くに座っていた黒ニット帽の黒サングラス、全身黒色の服を着た男が突然立ち上がり、若菜の首に腕を回してナイフを突きつけた。

「動くんじゃねえ、この女をぶっ殺すぞ」


店内は悲鳴が鳴り響く。

白テーブルが倒れ、コーヒーカップが床に落ち、割れた。

渋谷は焦る。(おいおい、なんだよ強盗か?しかし何でこんな時に・・・金成、頼むぜ)

渋谷は物陰に身を潜めるようにして店内を見ていた。

「この店の売上金、今すぐこのバッグに詰めて持って来い。でなきゃこの女をぶっ殺すぞ」

近くにいた別の女性店員が急いでそのバッグを手に取り、店内奥に入っていく。

若菜は恐怖のあまり、涙が溢れていた。

金成は近くでそれを見ていた。(まさかこんな結末でイベント発生かよ、でも好機だな。この子を救う)

「おいそこのお前、何そこで突っ立ってんだ?ぶっ殺されてえのか?」

金成を男は睨みつけ、怒鳴った。しかし金成は微動だにしない。

「おい聞いてんのかてめえ?」

次の瞬間、金成は一瞬にして間合いを詰めた。そして右手に持つナイフを意識しながらも確実に右手首関節を捻るかの如く、右手首を90度押しのけた。合気道の護身術のようにゆっくりと相手の頬にナイフの刃先が向くような感覚、決して若菜を傷つけない。

「いてえ・・・」

黒装束の男はナイフを床に落とした。それと同時に金成は男の胸倉をつかみ取り、そのまま近くの冷ケースに男を叩きつけ、そのまま投げ飛ばし、金成は宙を舞い、右蹴りを入れる。男の背中は勢いよく、冷ケースに衝撃を与えて、ガラスは粉々に砕けた。そのまま少し跳ね返ってきたところを金成は右足でかかと落としを相手の頭上に叩き込み、相手は床に顔を打ち、血を流した。そのまま意識を失った。その時に男は歯を2、3本失ったことは言うまでもないだろう。


あまりの一瞬の出来事に店内は閑散したかのような静まり返りだ。渋谷もぽかーんとしていた。若菜は恐怖のあまり動けなかったが、自然と涙は止まっていた。

「もう大丈夫だ、悪い奴は俺が退治した」

にっこりと笑顔を見せた金成。若菜は涙を拭い

「助けてくれてありがとう」

感謝の言葉を述べた。

まもなく警察が到着した。


犯人の身柄は拘束され、そのまま連行された。金成や若菜にも事情徴収されたが、金成の行動は至ってまとも。当初、金成は冷ケースの破損を弁償すると言ったが、店長並びに警察が弁償はいいということで特に損金を食らうことは無かった。むしろ警察から表彰されるぐらいのものであった。

しかし金成はそれを断った。当然のことをしたまで、そう言い残して若菜のところに向かった。

「あの、すいません。私、なんとお礼をしたらいいか・・・」

「お礼ならいいよ、当たり前のことをしたまでだからね」

「でもせめてお茶ぐらい・・・」

「分かった、そうまでいうなら俺のお願いを聞いてくれないか?」

「なんでしょう?」

「あそこの物陰に隠れている男とデートをしてくれないかな?ちょっと頼まれていて、お茶なら俺の代わりにあいつとしてくれよ」

「あなたじゃだめなのですか?」

「うん、俺よりあいつとしてくれ。俺のためにもな」

そう言って金成は手招きして、渋谷を呼んだ。

無事に若菜と渋谷はデートにこじつけた。


それから3時間後のことだった。

金成は近くの畔でボーっとしていた。やはり身体能力だけでは限度あるかな~っと。

「もしやるとしたらもっと光の速さで動けるぐらいの力がいるな。あの程度の素人犯罪者なら俺の護身術で軽くいなすことは出来るけど、もし相手も能力者ならこうは簡単にはいかないだろうな」

考えているうちに、渋谷が1人で戻ってきた。目には涙が浮かんでいた。

「・・・どうした?」

「若菜の奴、若菜の奴、彼氏いるんだってよー!!」

金成の頭をぽかぽかと殴る。

「おい、やめろ。何で俺を殴るんだよ」

「うるせえ、お前のせいだ。このやろう」

「男ならめそめそせず、次に賭けろ。そして自分でやれ」

そう喝を入れても渋谷は聞く耳持たずであった。


ほとぼりが冷めた頃、金成は渋谷に言った。

「じゃあ例の件、頼むぜ。一応約束は果たしたんだからよ」

「ああ分かっているよ。俺の能力は「炎」、もちろん自分の魔力で出すことも出来るが、前にも言ったように着火した方が燃費はいい。炎ならば規模に関わらず自在に操れる。実力次第だが、家一軒分の炎を操ることも可能だ。火事などの際、炎の抜け道を作る時なんかもかなり便利だぜ。以前消防活動に参加して、表彰されたこともあるんだ」

「よし、ならばその能力記録させてもらうぜ」

お互い握手を交わした。

相手の望むものを叶え、能力について聞き、相手と握手を交わすことで相手の能力をコピーすることができる。これこそ金成のスキルマスター能力。

金成のスキルマスターの旅、そして日本をいずれ統治する旅が始まった。

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