第134話:美姫②
「勿論我が希望の塔が中身がカラッポだなんて言わせるわけにはいかない」
しっかりとした目的を持つことが大事であることは金成も重々理解している。
「遺憾、圧力、制裁、財政政策、金融緩和、物価目標値とかそんな言葉が欲しいわけではなく、結果というわけか」
早い話が保育園料はいつからどれぐらい安くなるんかって話をされたほうが、まだ理解を得やすいというわけである。
「しかし監視カメラの数も多いな」
「不自然な動きをすると行動をチェックされる可能性があるな」
各電信柱にそれぞれ配備されている。特に通学路には不審者が多い。
人通りの少ない路上での露出魔もいれば、通勤電車の中で体液をかける変質者もいるという。
東京産業自動車がまるで大規模リコール問題に発展し、店舗に懸念の声が上がっているかのような慌ただしさと納車に対する返答を待つかのように4人はひっそりと息を殺した。
「出てきたぞ」
北海国が仮想通貨の詐取を行い、それを資金調達しているかの如く、足を忍ばせてやり過ごすことなど阿修羅にとっては朝飯前である。
美姫と乙姫の2人が歩いている最中、テレポートで一瞬にして背後に回り、そして二人を金成の元へ連れてきた。
「え?ちょ何?今の?阿修羅あんた生きてたの?」
美姫は戸惑った。現状の把握がまだ出来ないようだ。
だが乙姫は至って冷静で、金成の顔を見るなり指をさす。
「あ~、あの時のお兄ちゃんだ!」
「え?」
「よお」
金成も乙姫を見て思い出した。ただ複雑な心境であった。
実は自分は知らない間に王直属の戦士と接触していたことに全く気付いていなかったことだ。
「あれ!?あんた、やっぱりあの時のあんたなのかい?指名手配された写真どっかで見たことあるなと思ったんだけど、まさかあんただったとは」
「まあここで話すのもなんだし、ちょっとこの場から離れないか?いつ見回りのロボットがこの辺りを巡回しにくるかわからないからな」
「それもそうね。ただし、私の家にしてくれない?乙姫を一人で置いておけない」
「分かっている」
とりあえずタクシーで移動することにした。中央区にとってはタクシー会社にとって金さえ手に入れば犯罪者でも運んでくれる便利屋だからだ。
「それで私に何の用?」
「単刀直入に言おう。俺たちの立ち上げる希望の塔に入ってくれ。秋葉王の政権交代を促すべく力になってくれ」
「つまり秋葉王を討伐することに加担しろってこと?私が死んだら乙姫はどうするの?それに今の戦力じゃ圧倒的に秋葉王サイドの方が上よ。いくら私が抜けたからと言っても王最強の盾3人の牙城は崩せないわ」
「確かにあいつらは皆Sランク級の危険人物だが、ようは数で圧倒すればいい。ランチェスター戦略に基づいてな」
「ランチェスター戦略?」
「まあいくら相手が強くてもたった1人で10人相手にするのは無理。どんな剣道の達人でも鉄バットを持ったヤンキー10人の前では2~3人は倒せても残り7人に袋叩きにされるってわけ」
「その2~3人やられる役は誰が請け負うのよ?」
「勿論俺と阿修羅と目黒!」
「おいちょっと待て何で俺なんだよ?俺は戦力にならん。この大男にしとけよ囮なら」
「まあそういうなって、意外とサイコメトリー能力が戦場では役に立つってもんだぜ」
「立たねえよ・・・未来が視えるお前の目とは違って過去なんだからよ」
目黒が渋りだす。
「まだ戦力が足りてないってわけ?私を入れてもまだ5人、これじゃあ途方に暮れることになるわよ」
「まあ焦らずじっくりだな」
「じっくりだなんてそんな悠長なことを言ってられないわよ。秋葉王の政策は次の段階に来ている」
「何だ新しい政策って?」
「・・・」
「んん?」
「憲法90条の改正よ」
「え?」
「このままでは戦争になるわ。各国との陣取り作戦よ」
「ついこないだ千葉国と和平条約結んだばかりだというのに?」
「一気に北を攻め落とす気でいるわ。このまま北海国の核実験を繰り返させるわけにはいかないらしい。北海国は既に7回目の核実験をやろうとしている。核が世界に飛び出せばいくら我々の魔法や科学力を駆使しても全てが焼き尽くされてしまうわ」
「まあそれだけに核は恐ろしいからな」
「ならば俺達希望の塔が目指すのは核の撤廃、原子力発電ゼロを目指すべきだな!」
「原子力発電全部ストップすると今度は光熱費の高騰が懸念されるぞ?」
「でも火や電気だけでも人類は画期的に目まぐるしい成長を遂げたわけじゃん?その火ですらも先日のある国での武器庫爆発で30万人以上の避難者を出したんだぜ?ましてや原子力なんて人間の手に終える代物じゃないだろ。それこそ神に対する冒涜行為じゃね?どれだけの負債を後世に残せと言うのだ」
「まあ言いたいことも分かるが、核には核で対抗する以外術はないだろうな。とりあえず今は核よりも秋葉王の政策、アキバミクスを阻止することに集中すべきだな」
「まだまだ人員が足りないな。兵力は数で決まる、新たなる即戦力となる中途社員の採用が必要だな。企業風に言えば」
「まあそんなところだな」
「ほかに誰か宛はあるのか?」
「ないこともないが、一人足取りをたどってほしい奴がいる」
金成は目黒を指名した。
「借りを返してもらおうと思ってな。目黒、捜索に協力願う」
「ふむ…」
金成率いる希望の塔の仲間探しがまだまだ続いた。
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