第121話:秋葉王④

 金成がまだスキルマスターを目指す前の事であった。

一人のクラスメイトに一目惚れしていた頃、彼女は「大島」と呼ばれていた。大島はセミロングでモデル顔、足も細く、いつも制服スカートを短くしていた。そんな彼女に一目惚れした金成は中々勇気を出せず、告白のタイミングをうかがえなかった。いつも彼女の周りには友達が群がり、4人行動を取っていた。

 特にメールのやり取りもしていないし、会話もそんなにしたことはない。でもお付き合いしたい、その一心で下駄箱に手紙を置こう、思いを伝えてみようと考えた。そして下駄箱にラブレターを置き、帰るとメールが届いた。大島本人ではなく、その友達からのメールだった。

「大島のことが好きなの?それだったら次学校来た時に直接告白してみてはどうだろうか?」と大島の一番の親友の女の子からの助言であった。

 結果はお互いほとんど会話もすることなく、告白の機会は得られなかった。避けられることはないにしても、あまりに顔を合わせることはもうほとんどしないことにしていたのだ。

 金成にとっては日本統治をしなければいけない理由の一つとして、認められたい存在になりたいものが一心不乱として存在する、唯一の絶対価値であった。


 アキバミクス第2の矢は金成を苦しめた。男である以上、女を求めることは当然、生物学上♂は必ず♀を求める。この自然法則を利用したのが第2の矢「性欲」とも取れる禁断の愛であった。

「頭がおかしくなりそうだ。これが宗教で行われてる経の一つなのか?信者になりそうなぐらいの頭の蟀谷に痛みが走る」

 金成は頭を抱え、膝から崩れ去る。

「苦しそうだな金成、さあ金が欲しくないなら愛を欲するがいい。将来独身なのは不安だろう?結婚はいいぞ、今まさに出生率や結婚したがらない若者が増えている。別に拘らなくてもいい、だが自分の子孫を持たないのは人間としてではなくて生物として恥だぞ。世間の目ではない、自分の命としてだ」

「うるさい…だまれ…」


 昨今の日本国全体で結婚ブームは到来せず代わりに外来種とも呼べる虫が繁殖をし始めた。「インスタバエ」と呼ばれる蠅が夜のプール及びスイーツに群がると聞く。結婚をするか蠅になるかの二者択一である。要するにどういう形で「見栄」を張るのかということであった。

 金成は蠅に興味はなく、結婚に意識を向けている。だが、現実は厳しい。婚活ババアと呼ばれる悪魔がパーティーでは年収400万の20代男性を蹴りまくる。取捨選択している場合ではないにも関わらず、選びたがる。選べる側ではない、選ばれる側であることを自覚せず、ズルズルと30代40代と引きずり、今の日本国全体の出生率は100万人以下へと低下した要因になったのだ。


「金成、冷静に保て。お前は今日秋葉王を討つのだろ?」

 阿修羅が戦いながら問いかける。

「私との戦いの最中によそ見するとはいい度胸ですな。阿修羅」

 グングニルを構えた。

「しまった」

 オーディーンの突きは絣さえしても致命的である。攻撃範囲が広い故、体の根まで傷が届き、致命傷を負わせる。

 阿修羅の身体から血が噴き出た。

「テレポートが少し間に合わなかったようですね」

「はあはあ」

 執事と阿修羅との戦いでは執事が圧倒的優位に立っている。その差はランクからしても歴然としていた。


「愛情が欲しい…誰かに愛されたい…」

 金成にとって別の感情が生まれている。日本統治は本当はしたくはない、でも誰も愛してくれない。ならば自分が支配したい、この退屈な世界を何とかしたい。秋葉王を討伐することにより認められたい、理由は様々だ。だがここにきて、愛情の深さを再認識させられる。

「結婚…」

「さあ、いい女の子を紹介してあげよう。だから俺の傍らに来い」

 秋葉王は金成を誘った。金成も今回ばかりは応じるしかないのか。

近づいていく。

「金成ー!お前が以前言っていた自持思想論第13小節の内容を思い出せー!」

 渋谷が遠くから叫んだ。

「ああ?自持思想論だ?」

 秋葉王は渋谷を睨んだ。

「自持思想論第13小節…?」

 金成はぼーっとしながらも思い返した。以前渋谷に話した自持思想論第13小節を。


 自持思想論第13小節には「女性の誘惑により貶められる日本人男性の危機」について記されている。不倫、美人局、痴漢、売春、風俗、結婚詐欺、そして女性を巡る殺人まで。

 金成は再度頭を悩まされていた。このまま秋葉王から紹介のあった女性と結婚してこれは幸せなのだろうか?ただのお見合い?親からの勧めのお見合いと何が違う?結婚相談所?アドバイザー?秋葉王がアドバイザー?

 いや違う、これはただ権力行使。飴と鞭と同じ、何も変わらない上司が部下を奴隷のようにするための儀式、教祖が信者に聖水を掛けるのと何も変わらない仁義の交わし方、これはもう個人の自由ではなく、ただのビジネスだ。

 金成に迷いが無くなった。


「秋葉王」

「ん?」

「結婚はする」

「うん?」

「だが、それは俺が日本統治してからだ!」

「え?」


スキルマスター発動:ライジングサンダー


「あんた雷の速度がどれほどの重みがあるか知ってるか?」

「なんだと!?」

 渾身の一撃を秋葉王に打ち込んだ。金成はアキバミクス第1の矢だけでなく、第2の矢にも屈しない信仰心を持ち合わせていたのだ。



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