第88話:交通違反

「はいそこの車、左に寄って」

「ちっ」

 金成は法定速度40㎞のところを64㎞出していた。違反切符として15,000円を支払う羽目になったのだ。

「誘導するからついてきて」

 白バイの警察官に誘導されながら、脇道に逸れていく。

「免許証は?」

「これ」

「勤務先の名前は書く?書かなくてもいいよ」

「はい」

 学校の名前を出すのは恥ずかしいので、無記入に収めたのだ。

「出頭してくださいの券は1週間以内に振り込みがなかったらってだけで、この振り込みを銀行で納付してくれれば特に出頭しなくていいからね。また個人情報が記載されているから、もしこれを金成さんが捨てる場合はビリビリに破って捨ててくださいね」

「わかりました。お手間お掛けします」

「いや~こちらこそすんません。事故が起こらないように注意をしてね」

「はい、わかりました」

 金成にとって人生初のスピード違反であった。しかし金成はお金よりも心配していたものがあった。それは約束の時間までに間に合うかどうかということであった。確かに15,000円はでかい、しかしこれは金成自身にも不備があったことで警察官は特に悪いことはしていない。市民の安全を守るためにしていることであること、これはちょっとした授業料なのかどうかと考えなければいけない。しかし当然納得いかない者も多いとは思う。

 しかし、だからといって警察官と言い争っても結果として罰金は免れない。2か月間無事故であれば点数自体は2点ひかれることはなく、ただ次の免許の書き換えでゴールド免許から通常に戻ってしまうのは痛手であるが、ただそれだけの話である。何も言い争いを起さなければ、お金を失うだけであって時間までも失うことはなく、もしそこで無駄な言い争いをすればお金だけでなく、時間も失い、そして約束の時間に遅れ、信頼も失うところである。3つ失うところを1つ失った、それだけの話だ。

 金成は学校に向かった。


「浅草、ついにお前婚約か?」

「ええ、そうよ」

 生徒会室でもこの話題で持ちきりだ。生徒会長の浅草が同級生と婚約を結んだということだ。

「相手はどんな人?」

「一言でいうなら真面目?いや山の王とでもいうべきかしらね。彼の家は山奥だそう」

「ということは浅草、お前」

「ええ、生徒会を退くことになるわね」

 高校生での婚約というものは珍しいものでもないのが不思議な世界である。しかしこうしてデキ婚をしないだけ全うであると考えるべきものかもしれない。右翼側は高校生同士が性行為をすることによって、妊娠や性病が起きる際に「猿同士お幸せに」と皮肉な言葉を投げかける世間もしばしばだ。いわゆる底辺扱いというものである。だが実態は社会の隔離がひどく、それは所謂人口減少を推進するのも然りだ。


「敵襲だー」

 校内で響くアナウンス。サイレンが鳴りやまないほどである。

「どうした?」

「サイバー攻撃が入り、パソコンおよび電子機器全て使えません。外部との連絡がシャットダウンされています」

「これはどういう状態だ?」

「犯人の要求は?」

「東京銀行にクーデターを起こした男を出せとのことです。その前に腹いせに仮想通貨3000程を収めよとのこと」

「そんなものはないと伝えよ。敵は何人だ?」

「2人です……」

「たった2人で我が校に挑んできたというのか?」

「しかしあの2人は……王直属の戦士と思われます!」

「何だと!?」


 秋葉王の差し出した通り、伊弉諾と伊弉冉の2人が東高校に攻めてきたのである。

「ねえ伊弉諾、あんたがもし電車に乗っている時に痴漢だって騒ぐ女がいたらどうする?」

「そりゃあもう確実に容疑者扱いだからさ、線路走って逃げるよ」

「へえ、それは何で?あんた死にたいの?」

「だってもし本当に痴漢していて捕まったら人生終わりじゃん?冤罪でも人生終わりじゃん?だったら死ぬよ」

「何も死ななくてもいいんじゃないの?」

「いや死んで『この人痴漢です!』の女を生き地獄にさらしてやるんだ。お前のせいで死んだんだぞって殺人犯じゃないにしても、命が失われた重みを感じさせてやる。だから線路走ったりビルから落ちたりして死んでやる。きっとその女は後悔して夜も眠れないだろう」

「あんたさ、性格悪すぎ!」

「ああ俺は悪い奴、だからさ。ここの学校の奴ら全員殺そう。そしたら東京銀行で派手に暴れた少年は『お前のせいで皆死んだんだぞ!』って後悔して夜も眠れず、きっと自殺するわな」

「ははは、それいいね!まあその前にもし名乗り出てきたら教育勅語唱和させてやるわ!」


 金成は交通違反の為、約束の時間ぎりぎりにつくことになる。その前にこの2人が既に学校に乗り込んできたわけである。戦いの火ぶたがきられようとしているわけである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る