第155話:因果の理法

 冬は必ず春になり、夏へと変わる。しかしそれが逆再生されるということはない。何故その結果が生まれたのか、それには過去に自分が行った決定打「原因」が存在しうることを意味する。

 金成と昴流は互いに雷で戦い続けている。

長引くのは不利、既に天照月読戦で体力を消耗している。それに連戦は厳しい。

しかも相手は3名ともSランク以上、既にチーム以上の強敵をいきなり相手にしなければいけない状態である。

 金成の得意能力も相手と同じイリュージョンによる変身能力で同じような状態でぶつけられたのでは最も戦いづらい相手へと変わる。

 仮に変身したものが過去の自分ならまだしも、現在進行形で昴流のイリュージョンは進化し続けている。

 因果の理法にもあるようにやってしまったことはもう元に戻すことはできず、ただ真っ直ぐに進んでいくだけでしかないわけである。

 イリュージョンが元に戻ることはなく、自身のタネを明かせば明かす程に昴流は強くなっていくシステムである。


「力に支配されたものは結局自身を制御できない。お金のようにな。君のそのスキルマスター、相手に真似されるなんてことは考えてもいないだろう?だから今の結果が生じたんだ。君の過去の出来事が原因でね」

「まるで戦略を真似すれば勝てるような言い草だな。では何故周りの家電量販店はみな経営赤字を繰り広げる?所詮は通販には勝てないのと同じ道理ではないか」

「そこも違う。既に行われたものを元に戻すことはできない。だが、そこからOTC医薬品のように後発者は先発者よりも優位に立つことができる。それには新薬開発の研究費用を払うことなく、同じ成分で発売することができるからだ。後は店頭MDを活用するだけだ」

「口で言っても意味がないようだな。単なるエゴにも程がある。所詮は真似碁のようなものだろう。オリジナルの自分が何故三流戦士に負けなければいけない?」

「それを強がりというのだ。お前はAランク以下、俺はSランク以上。つまり人間の価値が違うのだよ。ホームレスと大手企業の社長の命の価値は違うのだよ」

「命に高いも安いも存在しない。値段で測れば、それは力にのめり込まれることになる。秋葉王のようにな。目に見えるものにだけ価値を追随すれば、それは己が大切なものを削ることになる、身体ではなく心を削るようにな」

「もう言ってることわかんねえ、とりあえずお前は今すぐ死ね。それでこのめんどくせえ話は終いだ」

「そうだな、ならまずお前があの世へ逝ってお釈迦様にでも拝んでこい」

「残念、うちの宗教は神のみぞ知る」


 金成がお金に支配されない理由は自持思想論~2つの世界第14小節「お金の浪費癖は人格そのものを変えてしまう」と説かれていることから、アキバミクスをも跳ねのけている。

 大発会で株価が700円超えようとも、一時の祭りに身を投じることなく、また仮想通貨で爆上げしていようとも手を出さない。

 ハイリターンの前に「ハイリスク」これでは話にならない。

金成がもし手を出すならば必ず前提に「ローリスク」が来なければ手を出さない。

つまりは仮想通貨を無料同然で手にし、2年後に価値ある状態で売り、確定申告を行うことが一番の理想、既に過熱した市場のコインに興味はなく、過熱する前のコインに投機をする。そうすれば失敗したとしても、損害など特に何もなく、いつもの生活にただ戻るだけである。

「レバレッジは必ず行わない」

 存在しないものの価値は計り知れない。それが自持思想におけるもう一つの世界「見えない世界」である。宗教によっては「お天道様が見ている」だとか「神の見えざる手」などと表現しているが、表現はどんなことでも構わない。

 それを意識しなければいずれ力に支配されてしまう。お金、女性、酒、薬など、誘惑は数知れずだ。


「どんな見えない世界でもお前の持つこの未来の眼なら見えるんだよ、失敗しないんだよ。これで姿の見えない牟田を攻撃できたんだろ?お前の素早い攻撃も先が視えれば怖くはないものだ。お互いに未来を見据えていても経験値が全てを物語る。いい加減にお前は俺に殺されてしまえよ、お前にもはや勝ち目はない」

「どんなに世界に見えないものが存在していようと、真似をしていようとな。決して物事というものは全て自然の摂理で行われている。光が当たる処に影が存在するようにそれを消すことは決してできない。それは自然による重力はや科学などが存在するように、魔法も同じことを言える」

「これでお前を殺す」

 昴流はライジングとアルティメットの両立、金成の得意のダブルで攻めてきた。

「お前はお金と時間どっちが大事だ?」

 金成は昴流に問う。

「金に決まってる。金さえあれば時間はいくらでも買えるからな。金で人を雇えばいい、掃除も飯も車での送迎もみんな金さ。金で女も酒も薬も権力もなんでも手に入る。金こそがすべてだ」

「魔の3禁を侵す罪は重いぞ。金は所詮人間の創りしものでしかない。既に執着しすぎているようだな。これだから今の王国の戦士は皆、狂ってしまっている」

「余興は終わりだ。死ね」


 わずか一瞬の出来事であった。

昴流が大量に血を吹き出した。

「な…ん…で…?」

 フェニックスを使おうにも発動前に息絶えてしまった。

わずか一瞬での出来事であった。

「俺の答えがまだだったな。お前は金が大事と言ったが俺は時間が大事と説いておく。この世で誰もが所持しており最も資産性の高いものは時間。24時間という時間をどのように使うかでその人の人生は決まる。」


 お金ではなく、時間を制した金成の勝利がここに刻まれた。

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