第78話:浪速王③
大阪国の浪速王の特集が報道された。
この回の放送は毎回視聴率は低いものの、一部の支持者によって持ち上げられるネタ的要素を持ち得ている。
しかし言っていることは本当なのかどうか、正しい情報というものはいつも時代錯誤偏見してある。
彼が注目すべきは人間を阻む壁、その壁について再度言及している。
「もはやネタになっているのですが、この日本を区切る壁を消すことが出来るのでしょうか?」
「ああ、出来るとも!相手の王を倒したらな!」
「つまり王を倒せば壁が消えて領土が拡がると?」
「そういうことだな!」
「いまいち意味が分かりません。私はその壁が消えるところを見たことがありませんので・・・」
「それは神があんたら国民の記憶を改ざんしているからじゃない?」
「はあ・・・」
浪速王はもっともなことを話しているつもりである。
しかし肝心の国民にその意志は存在しない。あるのは時の狭間でそれらを干渉できる金成と一部の人間のみであった。
いくら浪速王が壁は消せると真実を口にしても、誰も耳を傾けようとはしなかったのだ。
「でもなあリポーターさんよ、あんた、この壁はまだいい方だぜ」
「どういうことでしょうか?」
「だって遮っているのが目に見えて分かりやすいじゃねえの。ここからは壁が邪魔して進めませんよってはっきりと目に映って分かるじゃん?」
「それはそうですけど、どの壁を言っているんですか?」
「見えない壁だよ」
「見えない壁・・・ですか?何ですかそれは?」
浪速王はがっくしきそうになる。
しかし大勢を直しながら答える。
「例えば距離があいていることなどだな。人間の間に。パーソナルスペースともいうのか?よく大学などでがらがらの教室があるだろ?そこになんとなしに1人でそこにポツンと座ってみな。次来た2人目の人間は絶対にそいつの隣には座らないぜ。赤の他人であればな」
「まあ喫茶店や飲食店、図書館などいってもそういう光景は見ますね」
「これは壁というかまあ絶対領域ならざる近づいてはいけない空間だろうな。心理的にも段階を経て、その距離ってのは近づいていけるものだ。しかしそれはあくまで無言の圧力にしかならない。一番気にしなければいけない壁は」
「その壁とは?」
「言語の壁だな。国境なき世界といっても人間はコミュニケ-ションをとらなきゃやっていけないんだぜ?これが一番やっかいな壁だな。言葉が通じないんだよ。考えていること自体の前に、話してる言葉がな」
「どういうことですか?言語の違いって?訛りとはまた違うんですか?」
「ああ、実は海に囲まれた46ヵ国だが、その海を渡り終えたところにさらに大陸がある。そこはもう新境地だろうな。言葉が違う、同じ人間でも話している言葉が違うらしいぜ。まあ単なる神話だけどな、俺も見たことないから分からねえわ」
「世界は広いですね~46ヵ国意外にもまだそんな大陸が存在するんですか!一体どうやったらそこに辿り着けるんですかね?」
「さあな~船でいくしかないんじゃねえ?何にせよまずこの見えてる壁全部壊さない限りは、見えない壁に挑戦しようなど甚だおかしいもんだ」
「パーソナルスペースや言葉の壁ってやつですね。私には難しすぎてよくわかりません」
「まあ普通に生活してる分にゃあまり意識しない出来事だぜこんなこと。まあ他にも文化の違い、宗教の違い、容姿の違い、考え方の違いなど見た目だけでは判断できない問題は山積みだな」
「どうすればいいんですかね?そういう時は」
「自分中心に考えるのはよくないことだが、そうだな。相手を思いやりたいならまず己を知ることから始めることだろうな。相手のパーソナリティーを認める為には疑似体験するしかないんだよな。相手の立場に立って物事を考える。それが結局自分にとっても有利になる考えにもなる。まあまずは己を知り相手を知ることから始める以外術ないと思うぜ」
「分かりました!以上今回の特集は浪速王による『見えない壁』についての言及でした!よくわかりませんが!」
「見えない壁・・・か」
金成は腕を組んで考えていた。
「摩天楼を殺したのは天照・・・あれはどういう意味があったのだろうか?」
ぼーっと金成はしていた。
そこに生徒会長の浅草が副生徒会長の明治と共に来た。
「金成、あの王直属の戦士十戒の一人を討ち取ったんだってね?」
「まあそうなるんですかね?」
「きたまえ、君に是非とも見てもらいたいものがある」
校内の生徒会室に案内され、金成はある書物を目にした。
『火照と火遠理の兄弟はかつて山と海の獲物を分かち合えた。火照は海を、火遠理は山でそれぞれ神武器を使い、獲物を捕り、暮らしていた。いつしかその武器を交換し、弟の火遠理は兄の釣針を無くしてしまい、十束の剣を砕いて釣針を何十枚も作って返したが、兄は頑なに拒んでいた。困った弟は和邇に乗せられるがまま、海の底に釣針を探しに行き、それを魚がくわえているモノを発見し、釣針を持って戻ってきた』
「何ですかこれは?」
「話はここで終わっている。この2人は神の末裔だろう。気になるのはこの十束の剣を砕き、それを兄に渡したということだ」
「ああ、でも十束の剣は素戔嗚が持っていました。そしてそれを俺は受け継ぎました。それが何か意味を示しているのですか?」
「災いが訪れる風説だ。本来この詩の通り、お前は剣を拒むべきであったということだ。まさか後手で受け取ったりはしていないだろうな?」
「ちゃんと握手してもらいましたよ」
「握手・・・?なんだか変わった受け取り方だな。まあいい。それだけに恐ろしい力だ。油断はするでないぞ」
「そうは言ってもこの剣ないと伊弉冉と伊弉諾倒せないって素戔嗚が言ってましたよ」
「何だと!?」
「伊弉冉と伊弉諾?あの伝説の国生みの2人に戦いを挑む気か?」
「まあそれ以外道はないと思いますけど、なんかまずいんですか?」
「人間に寿命を与えたのが伊弉冉、そして王が倒れた時に壁が消える呪いをかけたのが壁の神だ」
「壁の神?」
「壁が出来て最初の王が誕生した。壁の神には2人の子供がいた。木花と石長という二人の娘だ。2人を嫁に最初の王に送り付けた時、1人の娘が帰ってきた。石長だ。理由は容姿が好みではなかったそうだ。しかし怒り狂った壁の神が王の命を狙うために呪いをかけた。その呪いこそ、相手国の王を倒した時に壁を無くすという報酬だ。事情を知った者は皆、王の討伐を狙っている。元の国に戻すことより、自分たちの領土を拡げる為に」
「元来無敵のはずの王に寿命が定められたのがこれがきっかけというわけか」
「王は神にはなれず、一人の人間として生きることとなった。それぞれの国に一人ずつだ」
「この学校にはこういった書物も用意されているんですね」
「我々はスキルを高めるだけでなく、壁の研究も行っている。この壁はどうやってできたのか?壁が出来たのは人類の争いを止める為なのか?」
「う~ん」
金成は考えた。納得のいかない何かがひっかかる。
自持思想論にも同じような話があったような気がしたが、彼は内容を忘れてしまったようだ。
「何か色々と考えさせられる壁ですね」
壁とは一概に人間を遮るだけのものなのか。
しかし人類は未だ見える壁と見えない壁の相違がはっきりとわからない。
本当の人類を阻む壁というものの存在、それに気づくことが果たして出来るか?
金成にとってこの課題を熟すことが出来なければ日本統治は到底不可能な話であった。
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