第40話:千葉国

辺りは放火に包まれた。

夜が昼に変わる程の煙火、黒く焼け込んだような夥しい炎が東門を纏う。

甲冑装備をしていた衛兵達もその隙間を炎が掻い潜り、火傷を負おう。

直撃したのは近くのスナイパー組、衛兵など総勢1万兵の負傷者であった。特大級の火薬は多くの兵士達の命を一瞬にして吸い上げたのだ。

500m先にいた王直属の戦士十戒「阿修羅」と「素戔嗚」はほぼ無傷であった。

咄嗟に阿修羅の能力にて炎の渦が掻き消され、阿修羅のいた東門玄関先の500m地点に於いては空虚となっていた。

しかしその周りへの影響は酷く、消防隊など多くが鎮火へと急いだ。

また2㎞先にいた3人の十戒もそれぞれが襲い掛かる炎に対して対処した。

初手は完全に千葉国が先制をした。


「いきなりですね」

阿修羅が髪を撫でるように素戔嗚に呟く。

「次は敵国の兵が続々と来るだろう。その流れに紛れて恐らく相手の主力部隊も次々と侵入してくるだろう」

素戔嗚が応じる。

次々と東京国の兵が近づいては行くものの、その数およそ10万程である。既に10分の1が炎により一瞬にしてやられているわけである。

戦争はまさに地獄そのものであった。

「来ますよ。第二弾」

今度は東門より戦車が続々と侵入してきた。しかも大型で、直径20m程である。

動きこそはそこまで早くはないものの、重点的に守りを固めたと言わざるを得ない状態。おそらく目標ポイントまではこの戦車のままで突っ切る予定なんだと即座に理解した。

「これではスナイパーは効果ありませんね」

「ましてや俺の八岐大蛇もこうも重点的に守りを固めると、おそらく届かないだろう」

「では私があれらの戦車を始末してまいります」

阿修羅が動いた。既に10台もの戦車が突っ込んできており、進むたびにまだ倒壊していないであろうビルに次々と発砲し、ビル上にいる衛兵達を攻撃した。

倒壊し、そのまま崩れ去る壁にしがみ付く兵士も自分の体の重さにそのまま遥か上空から落下し、そのまま命を落としていく。

当然下にいる兵たちも落石に注意しなければならない。敵に注意しながらも、逃げ場を失った炎、そしてビル倒壊などの落石などにも注意しなければいけない。

敵に応じる余裕などない状況である。

しかし隊長たちは勇敢でそのまま命を投げ捨てでも敵の侵入を防ごうと戦車に突っ込んでいく。

当然バズーカーなど通用するわけもなく、次々と砲撃を喰らい、そのまま戦死していくばかりであった。

「やれやれ。突っ込んでいっても兵力の無駄遣いだというのに。勇敢すぎるのも困りますね」

阿修羅が急いでその場を移動した。

阿修羅に銃口が向けられた。しかし阿修羅はそのまま突っ込んでいく。

そのまま阿修羅に砲撃をされたが、阿修羅に当たる前に弾は消え、直後先程阿修羅に向けて撃った弾が戦車に向けて放たれていた。先頭の戦車は爆発した。乗っていた千葉国の兵士達は即死した。

次いで2台目3台目と狙いに行くわけであるが、いずれも阿修羅が戦車に触れたものが突如その場から姿を消し、瞬時に上空に移動させていた。

そのまま戦車の真上に戦車を落とし、その重みで戦車を押しつぶした。落とす場合は反転ひっくり返しで落とす為、上の者たちは即死は免れる者の、そのまま身動きが取れない状態となる。下にいる者は押しつぶされ、そのまま命を落とす始末である。

そうこうしているうちに一瞬にして10台の戦車は悉く阿修羅一人の手により一気に損傷を図ったわけである。

「目には目を、歯には歯を、戦車には戦車ですね。自身の守りの高さがかえって仇になりましたね」

上にのしかかった戦車は甲板がひっくり返ったことを想定し、底からも脱出できるようには創られていたようで、そこから衛兵達が続々と出てきた。

「ぶっ殺してやる」

血相を変えた千葉国の衛兵が続々と阿修羅に襲い掛かる。

「素戔嗚」

阿修羅が呼びかける。

「八頭龍:八岐大蛇」

紅蓮の炎が衛兵達を襲い掛かる。

「燃える苦しみを貴公らも味わうがよい」

一瞬にして燃え尽きていった。十戒の活躍により歓声が浴びせられた。

しかし同時に悲鳴も酷く、その歓声も一瞬にして失われていった。

「簡単に侵入はさせてもらえないな」

東門から2名此方に歩いてきている。

「あれは」

阿修羅と素戔嗚が対面したのは千葉国きっての曲者「浦安」と「成田」であった。

Aランク同士の対決ともなると、戦場は只では済まなくなってくる。

「噂にはお聞きしていたが、あなたが戦王と言われし阿修羅、そして伝説の龍を討ち取ったとされる素戔嗚。いずれも王直属の戦士十戒だな」

浦安が問う。

「其方も有名な門番のお二人ですね。確か浦安と成田ですね」

「どうぞお手柔らかに」

2人は構えた。只事ではない戦いが繰り広げられようとしているわけである。

浦安は大きな鎌を持っている。その鎌を自在に浮かさせている。

「どうやら阿修羅はモノを瞬間移動させたりできるようだな」

「よくご存じで。私のスキル『テレポーテーション』は対象者に触れることにより死角以外のところにモノを移動させることが出来ます。当然私自身もね」

一瞬にして浦安の背後に回った。しかし鎌と剣が阿修羅を襲い、間合いを取る。

迂闊に近づけない状態である。

「なかなか珍しい能力ですね」

「俺のスキル『スカイウォーク』はモノを宙に浮かせることが出来るからな。どこにいてもてめえの面にナイフを突き刺すぜ」

「ご自身は浮かせられないのですか?」

「非生物に限るのが難点よ。但しこんなことも出来るんだぜ」

潰れた戦車などを宙に浮かせ始めた。

「これは器用ですね」

「喰らいな」

阿修羅と素戔嗚に空飛ぶ戦車が襲い掛かる。

2人は避けるが即座にあらゆる武器や岩が襲い掛かる。

「そこら中に落ちている剣が俺の能力の対象だぜ」

「これは彼を早急に仕留める必要ありますね素戔嗚」

「俺がやる」

素戔嗚が構えた。

「二頭龍:双頭牙」

竜の頭が2頭現れ、瞬時に牙が浦安に襲い掛かる。しかしそれを跳ね除けた。

「なに?」

素戔嗚は成田を見た。

成田の持つ数珠が何かを物語る特殊な力を宿っているのが瞬時にわかる。

「今のは」

「御触れさ」

成田は呪術師であった。彼の呪が既にマーキングされており、素戔嗚の攻撃を無効化したわけである。

「俺の前で具現化したスキルなどは無効。現実世界に於いての武器しか通用はしないんだぜ」

「ほお、呪術師というわけか」

素戔嗚が冷静に分析した。

呪術師の厄介さは嘗ての妹である「摩天楼」のことを瞬時に悟り、思い出す。

「武器を浮かせる奴と魔法を無効化させてくるやつが手を組んでるってわけね」

阿修羅も状況を確認しつつ、此方の手札をいくつか封じられていることを悟った。

「一筋縄ではいきそうもないなこれは」

「さて、我々奇襲部隊の尻拭いに一躍買っていただきますかな、お二人さん」

「素戔嗚」

「ん?」

「この二人は私達で始末しましょう。後半には十戒があと3人います。それ以降は鳳凰が足止めします。この2人を中央区に引き込むのは厄介と見た方がいい」

「そのようだな。我ら2人で相手し、他の戦力はサポートに回させるべきだな」

阿修羅&素戔嗚VS浦安&成田の戦いが始まる。

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