第58話:未来予想

そもそも小谷社長は証券会社の開設をしているかは不明だが、そこは社長なんだし大丈夫だろう。

東京新聞を確認し、値上がり率と値下がり率を確認した。

「うーん、TOB株式もIPO株式もいまいち冴えないなぁ」

時間が無いため、長期保有を目的としたインカムゲインでは話にならない。

短期デイトレーダー特有のキャピタルゲインで大化け株を一撃で引き当てるしかないというわけである。

金成は応接室にカメラが設置されていないことを確認した。

予め準備していた銀の箱を開け、中身を取り出した。

紙とペンであった。そしてその場でシュレッダーできる小型機械、これらが出前を装いながら中に隠していたモノであった。


スキルマスター発動:デスティニー


小谷社長の顔と名前が分かれば1週間先の未来が予想できる。

直近の未来を直視する小谷社長の能力に対し、金成の能力は中長期型であった。

双方メリットとデメリットはあるものであるが、金成は是非ともこの2つの能力を欲しいわけである。

滅多に使用しないデスティニーもここぞという時には活用するわけである。

片っ端から小谷社長がこの銘柄を購入した場合どうなるのか?という運命について占っていくわけである。


自動車株:反落により含み損

銀行株:反落により含み損

小売株:小幅によりちょっとしたプラス

AI人工知能株:反落により含み損

バイオ株:続伸によりプラス圏内

半導体株:反落により含み損

IT関連株:反落により含み損


ほとんどが反落ばかりである。

テーマで選んだところで中々難しいものである。

「やはり都合よくあたるものはないものなのかなあ」

そんな中最後にフィンテック関連の株について小谷社長の運命を占った。


フィンテック関連株:大幅続伸により5連続ストップ高


「これだな」

1週間先まで見据えてみたわけである。

現在の株価が300円に対し、1週間後には800円にまで昇る。

仮に1億円分購入したとしても、この勢いなら機関投資家に次々と飲み込まれ、そこまでの暴落影響も感じさせない。

つまりこの銘柄は後場に発表されるIot発表ニュースをきっかけに急騰すると予想される。あと30分以内に購入しなければこのビッグウェーブに乗り遅れてしまう。

「急げ小谷社長」

戻ってくる前に購入する銘柄4桁の数字のみを記憶し、そのまま紙はシュレッダーにかけて証拠を消した。


小谷社長が戻ってきた。

「パソコンは業者が全部引き取ることになったよ。即座入金により何とか1億円は入ったが、原価率を大幅に下がった買取によるものなので実質借金は7000万程にも昇るよ・・・」

「上出来です。それをすぐネットバンキングから証券会社にうつしてください」

「え?」

「大化けする銘柄があるんですよ」

「そんなの嘘だ!俺は騙されないぞ!」

「私は経営再建を幾度となくこなした経営コンサルタントですよ!」

「ならばその証拠を見せてくれよ」

「分かりました。私の未来があなたの予想する未来を超えることを証明してみせましょう」

「僕の未来を超える・・・?」

「紙と鉛筆がここにあります。これにあなたの好きな感じを5文字書いてください。それを私が引き当ててみます」

「そんなこと出来るのかい?」

「あなたは私が予想するであろうその漢字を未来の目で見据えて書けばいい」

「分かった」


小谷社長は目を閉じ、そして開眼した。

「これが僕のスキル『アルティメットアイズ』究極の両目と言われた神の偉業を成し得る力だ。これは5秒先のいかなる未来も完璧に逸らすことなく予知できる未来の眼。僕のこの力の前では君の予測する漢字は手に取るようにわかる。まあそのまえにまず僕の好きな漢字5つを今さっき知り合った君に当てることなど到底不可能だけどね」

眼を再び戻した。小谷社長はおそらくこの能力を使うまでもないと考えたのだろう。しかしこれは好都合であった。

小谷社長は金成に背を向け、漢字を5文字紙に書いていた。

それと同時に金成も、紙に書いた。


スキルマスター発動:デスティニー


今度は小谷社長の1分先の運命を占い、尚且つ自身の運命も占った。

小谷社長の漢字は「楽・美・金・健・力」と運命が出た。

金成自身の漢字は「鉄・鎌・銅・鋭・銘」と出た。


「よし、書けたぞ。さあ言い当ててみろ」

「では紙を裏返しに机に置いてください」

裏返しておいたが、透けて見えるわけでもないので完全にここからでは分からない。

「さあ、どうだ?」

「小谷社長、あなたの望むものはなんですか?」

「ん?」

「健康?」

「・・・」

「楽しくしたい?美しい女性がほしい?お金が欲しい?力が欲しい?」

「え・・・?」

「楽・美・金・健・力の5つを書いたと思われます」

「ええええええ」

紙をめくるとまさにその言葉が書いてあった。

「あり得ない!こんなことが!」

「では次は小谷社長が私の書く漢字を5つ当ててください。私は『かねへん』を中心とした漢字を5つ書きます」

「アルティメットアイズを使うぞ!」

小谷社長は必死であった。

金成は考えた。

(おそらく先程自分が占った鉄・鎌・銅・鋭・銘の5つを向こうは未来予知してくるだろう。これを打破する為には・・・)


スキルマスター発動:ライジングサンダー


小谷社長には見えないように右手のみを使った。超高速で漢字を書き上げまくる。

「できたかい?」

小谷社長は金成に呼び掛ける。

「はい」

死角となっているところで大量に書き上げた紙を銀箱の中でシュレッダーをかけた。

「ちょっと風呂敷しますね」

「なんで?」

「まあ見えるのが怖くてね」

「まあ関係ないよ。俺の究極の眼の前にはね」

小谷社長は自信満々であった。

「じゃあ予測するよ」

「よろしくお願いします」


スキルマスター発動:マジカルトリック


風呂敷の下に置いた紙の処に大量の複製を施した。それと同時に原本は完全にシュレッダーされて消えたが、コピーはまだ残ったままだった。

しかもその大量の複製の施した紙は何重にも重なるが、正直風呂敷がかかり、紙が重なっていることが小谷社長の視点からでは分かりにくかったものだ。

「アルティメットアイズ!」

小谷社長は文字を予測した。

5秒先の未来、それは鉄・鎌・銅・鋭・銘だな、と考え、金成に宣告しようとした。

しかし咄嗟に金成はマジカルトリックを1秒ごとに解除し始めた。


トリックは簡単だ。

本命の「鉄・鎌・銅・鋭・銘」は最後に来るようにしているが、事前にこの本命も何枚かコピーしてある。

順番としては


鉄・鎌・銅・鋭・銘(コピー)

銀・釘・針・鉈・鎗(コピー)

錬・鋼・鍵・錐・釔(コピー)

釛・釗・釞・釦・釼(コピー)

釱・釷・釩・釯・釧(コピー)

鈒・鈦・鈬・鈄・鈉(コピー)

鉀・鉱・鉧・鉘・鉻(コピー)


上記7枚が3回繰り返されるように計21枚のコピーを重ねている。

そして22枚目に本命である「鉄・鎌・銅・鋭・銘」が来るようにしたのだ。


「あ・・・あれ?」

小谷社長は目が回りそうになった。

彼の両目には次々と金成の別の解答が浮かび上がってくる。

どれが本当の5つの漢字なのか分からなくなってきた。

「どうしました?小谷社長」

金成は質問するが、小谷社長は頭を抱え、予測不能となっている。

「銀・釘・針・鉈・鎗?いや違う、錬・鋼・鍵・錐・釔?」

ブツブツと呪文のように唱える。

「釱・釷・釩・釯・釧?鈒・鈦・鈬・鈄・鈉?」

ブツブツ・・・

「やっぱり鉄・鎌・銅・鋭・銘?いや違う。また答えが変わった。なんで?今までこんなことが・・・?」

「本当にそれは究極の両目なんですか?早く未来を占って解答してくださいよ」

1秒ごとにトリックを解除しているが既に10秒経過、残り10秒以内にケリをつけないと魔法が解けてしまう。

互いのスキル故の心理作戦はあとわずか10秒足らずしかないわけだ。

「小谷社長、ゲシュタルト崩壊はご存知で?」

「え?」

汗だくの小谷社長は金成に振り向いた。

「今あなたはそれに陥っています。あるはずのない答えを探し求めて」

「・・・」

「あなたが最初にみた文字は何ですか?」

「えっと・・・わからない」

かなへんの漢字が次々と小谷社長を襲い、迷宮に入っている状態となっている。

「真に導く答えは最初から決まっていたはずです。それを思い出すんです」

「頭が割れそうだ・・・こんなこと今まで・・・」

あと5秒。

「先を、未来を掴むのはあなたの手で!」

「うううう」


「ああああああ」

「さあ、答えは?」

「最初に見た、鉄・鎌・銅・鋭・銘の5つだ」

20秒が経過し、最後の「鉀・鉱・鉧・鉘・鉻」も1秒後に消えた。

「風呂敷をめくり、答えを見てください」

小谷社長は風呂敷をめくり、答えを確認した。答えは自分が言った通りの解答だった。

「一体・・・どうしてこんなことが」

「あなたはゲシュタルト崩壊に陥り、迷宮に彷徨っていたんです。原点を失ってね」

「・・・」

「もし道に迷ったらそのまま進むのではなく、元来た道をたどり、またスタートラインに立てばいいんです。確かに登り切った階段を下りてまた一から登るのはつらいことでしょう。しかしそれではいつまでたっても間違った方向にしかいくことが出来ず、永久に迷宮入りになってしまいます。あなたの信念は何なんです?」

「えっと・・・」

「さっき自分が述べた5つの漢字じゃないんですか?それを目標に目指し、未来を自分自身で掴み取るんです」

いいことを言っているようだが、半分は魔法によるインチキである。これは前回の保育園でも同様な手口を金成は使用している。ここまでして小谷社長を説得させようとするにはやはりそれだけの能力に執念を燃やしている証拠である。


「さあ、あなたの会社をもう一度立ち直らせましょう」

「わかった、君の言う通りにやってみよう。君を信じるよ」

2人の打ち合わせが始まった。

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