第91話:伊弉諾②

「そらそらそら~」

 勾玉が襲い掛かる度にアリストテレスの斥力ではじき返す。

「どっちの体力が先に消耗するか見物だな」

「ぐっ」

 一方的に攻撃をされ、此方の攻撃が効かないのであれば勝ち目がない。本当に彼らは神の存在なのだというのだろうか?

 しかし現代ではそれは神話とされているだけであって、実際にはそのような不可抗力は存在しないものである。

「こんな時に金成は何処で何をしているってんだ」

「あいつ携帯にも繋がらねえ」

 生徒会は応戦を依頼するも途中逃げ出す者もいる。そして多くなればなるほど連隊も取りづらいこともある。

「このままでは一気に攻め立てられてしまう。何かないものだろうか」

「そもそも奴に物体がないというのが能力の一つなのかもしれん。その能力が尽きるのを待つためにもゲリラ戦に持ち込むしかないかもしれんぞ」

「それだと多くの被害が及ぶ。なんとかローリスク・ハイリターンでいけないものだろうか?」

「ローリスクなら手はある」

「何?」

「金成が来るまで待つんだ。奴なら打開策をきっと持つ。だから耐えるんだ」

「それは本当か?」

「信じて待つ。いつもそうだった。奴は必ず突破口を見つける。常にオンラインゲームをする時にも言っていたぜ。『ゲームではなく、仕事として取り組め』とな」

「仕事と思わず人生と思えってやつかい?全くわからないねえ」

「とにかくこの場を凌ぐんだ」


 伊弉諾は考えた。最強の屈辱を味合わせてやろうかと。

「なあ伊弉冉」

「なんだ?」

「こいつら全員にカエルの死骸でも喰わせてやろうか?それか馬の糞でもよ」

「どっからカエル用意すんの?」

「ん?そりゃ阿修羅に転送させる」

「うーん、それもいいけどさ~」

「何か他にあるのか伊弉冉」

「こいつらゲイパーティーとレズパーティーに参加させちゃお☆」

「おいおい変態AV動画の見過ぎてお前wwww」

「この場にはだいたい140人ぐらいいるし、全員ムチで80回くらい叩きまくってSMプレイ強要させよ」

「視たくねえよそんなAV」


「ハアハア」

 金成は車を捨てて、走って学校に向かった。ひどい渋滞だった。

 何やら学校の方で雲行きが怪しい状態となっていた。

「んんん?雨でも降るんかいな?」

 金成は学校での事態がまだ把握できていなかった。携帯もたまたま見ていない。それを見ていたら既にテレポートで瞬間移動しているからだ。


「さて、しっかり撮影しとけよ伊弉冉。秋葉王にはちょっとした刺激的なAV現場の撮影をしなきゃならんのだからな。JKビジネスなんてものじゃねえぜこれは。なんせ現在在学中の高校での撮影だからこれは売れるぜ~」

「はあ、もうこれだから男って奴は……」

 ビデオカメラを回し始めた。伊弉冉はあまり乗り気ではないようだ。

「ではやるとしよう」


『別天神』


 伊弉諾の国生みとして使われた神話に出てくるスキルの一つであった。

突然運動場が崩れ去り、生徒が皆足元から崩れ去る大地から離れようとしている。

「浅草、危ない」

 生徒会数名は難を逃れるものの、多くは突然消え失せた大地の地下深くに落下した。

「なんだこの力は……」

「いつみても素晴らしい光景だ」

 運動場に大きなクレーターのようなものが出来た。これが伊弉諾の力。

「化け物か奴は……」

「一瞬で大地を揺るがすとは」

「まさに神の所業……」

「もっと恐怖心を抱き怯えろ」


「なんだこの揺れは」

 金成は電信柱に登り、学校を見た。学校が砂埃を舞っていることに気付く。

「敵襲か?」


スキルマスター発動:テレポーテーション


 金成は学校で何かが起きていると考え、急いで向かうことにした。

 学校に着いたはいいが足元が悪い。

「なんだこれ。だれが一体」

「ゴホッゴホッ」

「おい、一体ここで何があった?」

「王直属の戦士2人が攻めてきた」

「何だと?」


スキルマスター発動:アルティメットアイズ


 とにかく仲間を金成は探した。近くで応戦していないかどうか。そして発見し、3人の元へと近づいていく。

「渋谷、原宿、池袋。大丈夫か?」

「ゲホゲホ、金成か。待ってたぜお前を。大丈夫じゃねえけどな」

 ひどくすりむいている。一度にこれだけの大勢の生徒をやれる相手とは一体どういう人物なのか。

「相手は誰だ?」

「伊弉諾と伊弉冉」

「あの国生みの伝説で出てくる奴らか?」

「ああ」

「何か特徴は分かったか?」

「分からない。ただ伊弉諾は物理も魔法も効かない。そしていきなりこれだけの大技を使ってきた」

「……物理も魔法も効かない?」

「ああ、全員で試してみたが、どういう訳か無傷だ」

「それはどっちがだ?」

「伊弉諾だ。奴には攻撃が何も効かない」

「伊弉冉はどうだ?」

「伊弉冉は分からない。影でビデオカメラ回している」

「ビデオ?」

「何かAV撮影するだとか」

「くだらねえ」

 砂埃が消えていき、視界がだいぶ晴れてきた。

「物理も魔法も効かない……か」

 金成は頭の中でシミュレーションするために究極の両目で実際に伊弉諾の背後に周り、攻撃をした場合どうなるのかということをおよそ5秒先の未来を見据えて合計10回は試してみた。いずれも確かにダメージはないように思えた。

「ふむ……まさに無敵というやつなのか?」

 視界が完全に晴れてきた。

 まだ敵は金成のことを認識は出来ていないようだ。


 いきなりの難題に金成も戸惑うしかないわけである。


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