第92話:伊弉諾③
「伊弉諾と伊弉冉か」
金成は素戔嗚との戦いを思い出した。国生みの2人、そして摩天楼を殺したのは天照。天照の姿はないらしいが、国生みの2人が相手となると少々張り切るものでもある。何せ阿修羅や素戔嗚を1人ずつ相手にするだけでも生死を彷徨うぐらいである。それを2人同時となると話は別だが、恐らく金成の考え方では対戦は基本1対1となるだろう。
「もう一度確認しておきたい渋谷、運動場をこんな爆発じみたことをしたのは伊弉諾か?」
「伊弉諾だ……」
「そして伊弉諾には物理も魔法も効かないんだな?」
「そのようだ」
「ふむ……」
スキルの類とエクソシストのような類の2つを兼ね備えているのだろうか?しかしそれなら何故素戔嗚は金成に「ヤマタノオロチ」を伝承したのか、そこに突破口があるということである。
「おそらく奴らは知らないはず。ならばギリギリまでこのネタは隠すべきだな」
金成は千歳一隅のチャンスを待つことにするのだ。自分が持っていた銘柄が突然急騰し、テンバガーになったところで利益確定売りに走る瞬間を。
図書館で1日で本を10冊以上読めなかったからといって、文句を言う人物を金成は見たことはなかった。何故なら図書館というものは本のレンタル以外は基本的に無料であるからだ。会員になればちょっとした会費は必要なのかもしれない。しかしそれだけである。だが、館内であればマナーさえしっかりと守れば、誰もが利用することは可能である。該当者に特にお金が掛かることはないからだ。
問題は本が無料でたくさん読めるのはいいが、量があまりにも多すぎるということである。全てを読んで帰ることは到底難しい話である。だが、本と言えば1冊1,000円以上するものも多く存在する。早い話が1冊読めば1,000円、10冊読めば10,000円分の優越感に浸り、得した気分になることもできる。
だがそれを得した気分、損した気分と考える人はほとんどいない。何故ならもともとが無料で通える施設であるからだ。
逆に毎月10,000円ぐらいするジムを契約したとしても、月に1回しか利用できなかったら「会費高すぎじゃん!」と文句を言う人も出てくる。
この考え方は結局は無料であればあるほど、人は軽んじて損した気分を考えず、有料であれば自分はいくらぐらいの元を取れたのかという得した気分を考え、逆に元が取れなければ損した気分になる。
金成は考えた。さてあの2人はどっち側の人間だ?
素戔嗚とのやり取りを考えると、相手は恐らく後者の「文句を言う人」のパターンであると考える。敵は必ず、元を取ろうとする。
「渋谷、あの2人は俺が来る前に何か言葉のやり取りをしていたか?」
「あまり聞き取りは出来なかったが、最強の屈辱を味合わせる為に何かカエルの死骸を食べさせるがどうのとか、ゲイパーティーに参加させて鞭打ちがどうのとか、西高校に犯人が現れたからそっちに向かうとか言って、一気に蹴りをつけにきたんだ」
「西高校……?」
金成はハッとした。西高校に犯人?まさか奴らは八王子が犯人と勘違いをしているのか?
だとしたら、いよいよ金成には時間というものが無くなってきた。このままでは八王子の命の危険が伴うからである。自身に雷の力を分け与えてくれた恩人をそうそう見捨てるわけにはいかないからである。
「ふう、さっきの攻撃で半分ぐらいは逝ったか?」
伊弉諾が姿を現す。一回の攻撃でほぼ壊滅状態になった東高校の生徒であった。
金成は生徒会長の浅草を探し、近づいた。
「金成、来たんだね」
「お待たせしました」
「気を付けるんだよ。奴はかなり強い。何より無敵だ」
「一つお聞きしたいことがあります」
「何だい?」
「戦闘は伊弉諾だけですか?」
「ん?戦闘は伊弉諾だけだ」
「じゃあ伊弉冉は観戦しているだけということですね」
「そのようだ」
「金成、気を付けろよ。奴は俺の能力も通じない」
「靖国さん、あなたの能力って?」
「イノベーションだ。技術革新を核とするが、奴には物理も魔法も効かない」
「靖国さん、こんな時に聞くのもあれですが……」
「なんだ?」
「やはり安全ブーツを履いた女性に蹴られたくはなりませんか?」
「てめえ、こんな状況でまだそれを言うのかボケ!」
「いや、靖国さんにしか頼めないんですよ!」
「はああ?」
「浅草さん、俺に指揮を取らさせてもらってもいいですか?」
「いいけど金成君、あなた本当にローリスク・ハイリターンは出来るの?」
「それを成し得るには被害は最小限に、というのが原則ですよ」
「任せるわ」
「ありがとうございます。敵はまだ俺が合流したことを知りません。今がチャンスであります。王直属の戦士はそれぞれがAランク以上の強さです。一人でも城一つ攻め落とすことが可能な強靭な力を持っています。ならば此方は烏合の衆と思わせておきながら、油断させて一気に叩くという感じです」
「作戦はどうする?」
「それはですね~」
ごにょごにょと作戦会議をしているわけである。
「伊弉冉、次でけりつけてさっさと行くか?」
「そだね~なんか無駄足だったね~」
「お前も記念に戦うか?」
「いや~私は別にいいわ~」
伊弉諾と伊弉冉が話している間に突然、靖国が突っ込んできた。
「ん?今度は1人で挑んできたか?」
すると、突然靖国は足を止めた。
大声で叫んだ。
「伊弉冉さんよ~!あんたさっきSMプレイを動画撮影って言ってたよな~。俺のケツをあんたの安全ブーツで蹴り飛ばしてくれ!」
突然の出来事に誰もがその場で硬直してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます