第90話:伊弉諾①

 西高校にも同じような悲劇が起きていた。

 赤いブレザーに黒のズボンがトレンドの「西高校」の制服を纏い、左胸には紺色の盾の形を彩り、「西高」と書いてある。

「八王子こいつらは」

「ああ、間違いない。王直属の戦士十戒の夜叉と天馬」

 八王子、武蔵野、多摩の3人が既に対峙していた。

 その他大勢の西高校の生徒も集まり、各4校のスキルを営むマンモス高校が立て続けに標的となっている。

「ライジングサンダー」

 八王子は雷を纏った。

「おい天馬」

「ん?どうした夜叉?」

「こいつ雷を纏っているぜ。確か東京銀行を襲った犯人も雷だったっけ?」

「ああ、間違いないな。こいつが犯人」

「秋葉王もさぞかしお喜びになるだろうな」

 全身黒装束のこの2人はどぎつい目で八王子を睨んだ。

「ついてるぜ、俺たちはよ」

「どうする?夜叉、お前ひとりでやるか?」

「ああこいつは俺の獲物。その他はお前にやるよ天馬」

「程々にな。お前はよく他人を殺して能力を盗む」

「くくく」

 八王子は夜叉を警戒した。

「こいつもしや……金成と同じ」

「楽しいショーを始めようぜ!」


「全員攻撃コマンド!」

「りょ!」

 全員武器を手に取り、銃口を伊弉諾に向けた。

「全員守破離の法則で挑みなさい」

「りょ!」

「守破離ね~」

 守とは、師匠の行動を一様に全て真似をすること。破とは師匠の行動とは違うものをやってみること。離とは最終的に師匠を超え、自立していくことに意義がある。

「こいつら一斉に攻めてきてやがるぜ。まるで将棋の駒でいう歩兵が一手で一斉に前進してきてるみたいだ。こりゃ逃げられねえわwww」

「呑気なこと言ってると死ぬよ伊弉諾」

「あん?殺せるものならなってことよ」


 ズドドドドド


 銃声が鳴り響く。おそらく数秒の間に100発以上伊弉諾の身体に弾を打ち込んだ。

「やったか?」

「何か様子がおかしい」

 伊弉諾の身体から一滴の血も流れていない。

「そんなばかな。あれだけの銃弾を浴びて無傷?」

「ふいいぃ」

 伊弉諾が閃光のような目で生徒諸君を睨みつける。

「痛くもかゆくもないぜ~俺の身体には物理は効かねえ」

「ならば!」

 水天が前に出て「インフルエンサー」を使う。

「靖国!」

「おうよ!」

 靖国が「イノベーション」を使用することにより、新たなスキルが生まれる。そしてそれを水天が靖国の肩に手を乗せ、自身が靖国のイノベーションを周りの生徒に感染させるインフルエンサーを使う。

 つまり、靖国の「イノベーション」スキルが全員使えるようになるということだ。そしてそれに対し、生徒会長の浅草がダイバーシティによって全員を一斉に動かす、盤上の指揮者を司るというわけだ。

「さすがは生徒会、団体行動に長けているね~」

 伊弉諾は余裕そうである。

「物理が効かないというのであれば魔法はどうかしら?」

「炎、水、雷、風、土、草」

「りょ!」

「これはすごいな~」

 伊弉諾に化学反応物質が一気に襲い掛かる。

「これならどうかしら?」

 運動場が砂煙に舞う。

 しかし黒い影がもやっと姿を見せる。

「技の切れは悪くはないぜ」

「そんな」

 伊弉諾は物理も魔法も効いていない様子だ。

「化け物かあいつは」

「まあおたくらの能力すげえのはこれでだいたいわかった。だが連携取れなきゃその技も仕舞だよな。まずは生徒会長、てめえの首を撥ねるぜ」

「クスクス」

 伊弉冉は近くで笑った。

 伊弉諾は唱え始めた。

「こおろ、こおろ、殺せ~殺せ~全員殺せ~」

 2つの武器が目の前に現れた。八咫鏡と八咫勾玉の2つであった。

「まずは女、死んでしまいな」

 勾玉を投げ飛ばした。浅草の首を目掛けて。

しかし、それを弾き飛ばす。

「俺の攻撃を弾くとはやるなお前」

「俺の能力は何人たりとも浅草に近づけさせないように構成されている」

 副生徒会長の明治が「アリストテレス」の斥力を放ったのだ。

「いい連携だな。攻守共に現れている」

「んで、どうするの伊弉諾?遊んでいくの?それとも標的探しに行くの?」

「ああ、標的が見つかるまでの暇つぶしさ」

「あ、ちょっとまって。電話」

「あん?」

「ああ、了解」

「誰からだ?」

「天馬よ。犯人を見つけたみたい」

「天馬と言えば、西か。なんだよ逆方向だったのかよ」

「しゃーないじゃない。すぐ向かお」

「ならさっさと終わらせますかな」

 伊弉諾が再度構えた。

「全員攻撃をし続けるわよ」

「りょ!」

 炎スキルを駆使するも伊弉諾にはダメージを与えられず、水、雷、土も全て駄目であった。

「そもそも奴には物体があるのか?」

 池袋が試しに「ジャスティス」を放つ。しかし伊弉諾の身体は摺り抜けた。

「なんだ今のは」

「俺が行く」

 品川がスイミングで近づき、伊弉諾の足元から手を出して掴もうとした。しかし実体がそこにはなかった。

「どういうことだこれは?」

「こいつ映像かなんかか?」

「目障りな餓鬼だな」

 伊弉諾は品川の顔面を蹴り飛ばした。

「ぐほお」

「どういうことだ、奴は一体?」

 渋谷と原宿も参戦するも、手も足も出ない。

「あんたらじゃ全員束になっても伊弉諾に勝てやしないって」

 伊弉冉は伊弉諾が全てを殺すのにそう時間はかからないとふんだ。

 

 金成到着まであと5分の時間は必要であった。

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