第130話:摩天楼②

「お待ちしておりました」

 摩天楼は立ち上がり、3人に会釈をした。

「彼がそうなのですね」

「記憶は戻ったみたいだ」

 阿修羅が金成を紹介する。

「お初にお目にかかります。私は摩天楼、素戔嗚の妹になります」

「ああ、俺は金成」

「俺は目黒ってもんだ」

 摩天楼はきょろきょろしている。

「宜しければ奥の席へ」

「ああ」

 招かれるが、そこは既に廃墟となっており、埃も激しく、椅子とはとても呼べない程痛んでいた。

「率直に聞きたいんだけど」

 金成が切り出す。

「何故俺達を助けてくれたんだ?」

「私が助けたのはあなたではなく、兄です。しかし兄は既にこの世を去っていたのですね、後から阿修羅に聞きました。しかし兄から受け継いだあなたを助けたのは確かに私です」

「どういうことだ?」

「私の陰陽師としての役割は陰と陽を結ぶことにより空間移動を行います。しかしこれは本当の土壇場にしか使わず、対象者が死の直前に発動されます。恐らく兄は自らの死に際にそれを発動する前にあなたに継承したのでしょう」

「もしかしてそれは…」

「兄の十束の剣です。その剣に陰と陽を組み込み、所持者の命を脅かすことが起きればそれは発動します。ですが、兄はその前に剣を託したのですね」

「結構重症だったとは思ったけどな、その時には使われなかったってわけか」

 金成は腕を組み、考えた。

「助けてくれてありがとう。命拾いしたよ」

「どういたしまして」

「もう一つ聞きたい」

「何でしょうか?」

「あんたは確かに素戔嗚本人に殺されたはずじゃないのか?確か素戔嗚も殺したのは俺じゃなく天照だとは言っていたが、これはどういうことなんだ?」

「今の私はここから出ることの出来ない言わば霊体のようなものです。肉体と霊体が分離したのです。ですので、あなたが出会ったと言う私はおそらく「呪術」を使う裏の顔だったと思います。時が流れ、私は霊体から自分の肉体に戻ることが出来なくなった。全ては肉体に宿る呪術のせいで私の霊体は拒否反応を起こした。だから私はここで兄の帰りを待っていた。きっと、秋葉王を、そして天照を討つと信じていました」

「そうだったのか、天照が何をしたというんだ?」

「天照は偉大なる力の持ち主。伊弉諾の『別天神』に対し、彼は『八十神』を使います。肉体から魂を抜き取り、それを霊体として使いこなします。人にはそれぞれ光と影、表の顔と裏の顔がありますが、魂を抜かれた肉体はその人間の持っていた反対の側面の裏の顔を見せてくるので態度がすごく悪い状態で生まれます。おそらく私の肉体も態度は宜しくなかったでしょう」

「なるほど…」

「八十神ねぇ…」

「気を付けてくださいね。その術に嵌れば天照を打たない限り霊体は肉体に戻れず、時が経ちすぎれば戻ることは叶いません」

「まだあったことがないが、阿修羅、そいつはどういう奴だ」

「言うならば伊弉諾と伊弉冉と天照の子孫は素戔嗚同様、神の子孫にあたる。俺も彼らとは一戦交えたことがないが、気を付けた方がいい」

「王直属の戦士一人相手にするだけでも大変だというのに、後何人残っているんだ」

「夜叉、天馬、美姫、天照、月読、卑弥呼、それに王最強の盾も3人いる」

「冷静に考えればいくらマンモス高校4つ揃ってもこれだけの勢力相手にするのは無謀だったというわけか?」

「そういうことになるな、そもそも正面突破ということが厳しい。いくら直接王手をかけようとしても王の側近には執事が常にいる。王自体もそこまでに昇り詰めるための過程があったわけで、実力は伊達じゃないということだな。当然城の中にもいくつかの戦力を置いて常に攻守を置くのが定石だろうな。だからこそ、次は戦力を立てつつも、此方が不利にならないように徹底的に情報と戦力を集めるべきだろうな」

「主力となるのがやはり十戒だな。まあうち3人は死に、阿修羅はいま此方側だ」

「まあ強いて言うならば1名此方側になり得る人物もいる」

「誰だ?」

「美姫だな。奴は保育園落ちた問題からこの東京国の人口密度にかなり不満を持っていた。勿論王国制度に対してもな」

「保育園落ちた問題…?どこかで聞いたことがあるような」

 金成は記憶を巡るが、特に思い出せない。目黒に頼もうかと思ったが、会えばわかるんじゃないかと思ってあえてそこは触れなかった。

「まずは美姫も此方側に迎え入れ、戦力を立て直すことに力を入れた方がいいだろうな」

「大人数はやはり連隊が取りづらいな。やはり最初は少人数で行くしかないか」

「金成さん」

 摩天楼が呼び止める。

「なんだ?」

「これを…」

 摩天楼が差し出したのは「草薙剣」であった。

「これは」

「兄の所持していた剣の一つです。本来はこの草薙剣に九頭竜を掛け、十束の剣をさらにワンランク上げて『十拳剣』に変えます。何もない状態に鋭い刃を作るより、既に鋭く尖った刃にさらに鋭い刃を二重に掛けることにより威力は増します」

「分かったありがとう、大事に持っておくよ」

 金成は摩天楼から剣を受け取った。


「さて、これからどこへ向かう」

「美姫を説得しに行くのが先か、それとも」

「大穴牟遅に逢いに行ってはどうでしょうか?」

「大穴牟遅?」

「素戔嗚の弟弟子と呼ばれた奴か。確かに奴に逢うのは得策だ」

「誰だそいつ?」

「まあ逢えばわかる」

 次の目的を大穴牟遅に会う予定へと変更した。

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