第132話:希望の塔
「これが我がスキル:オオクニヌシノカミ」
大穴牟遅は自身のスキルを使い、辺りを炎で焼き尽くした。
「おいおい、こんな炎で森を焼いたらあいつ死んでしまうんじゃ?」
目黒が金成の安否を心配した。
「いや、彼は強い。あの素戔嗚が認めた男、以前素戔嗚の八岐大蛇の炎からも金成は逃れたと聞く。きっと今回も上手く乗り切れるだろう」
「ここで死ぬようであれば、所詮この世界を変えることなどできぬわ」
すると放たれた炎が踊るようにまとまりつつあり、それが火柱へと変わった。
「ぬぬぬ?」
炎の道が出来上がっていた。
スキルマスター発動:ファイヤー
「渋谷の能力のファイヤーは周りの炎をも事前に操れる。ただし相手に操られている炎は操ることは出来ないが、このような自然なる炎であればどうとでもできる」
金成は矢を持って帰ってきた。
「なかなかやるのお」
「まだやるかい?」
「もちろん!」
大穴牟遅はは次に小屋へと金成を招き入れた。
「ここにはとんでもない虫がわんさかいるぞ。なんせつい最近の台風の影響でな、行き場を失った虫が来ており、とにかく悪臭がすごいぞ~」
「ここで何をすればいい」
「駆除してみせよ」
「ふむ」
金成は言われるがままに小屋の中へと入っていった。
そこには大量の緑色のカメムシがいた。
「なんだこりゃ!」
物凄い悪臭が漂っている。台風で行き場を失ったカメムシが小屋の中に大量発生しているようだ。
「全く持って気分が悪いな」
殺虫スプレーを撒きたいところだが、生憎持ち得ていなかった。
「焼き殺すのもいいが、それだとこの家屋が全焼してしまうな」
金成はスキルマスターを2つ同時に発動し、合わせた。
グラヴィティ&ナイトメア合技:ブラックホール
カメムシを無空間の掃除機に押し込むかの如く次々と吸い寄せた。家屋全体に範囲を拡げ、一気に何万匹もそこにいたカメムシを一斉に駆除した。
30分後に大穴牟遅は戸を開け訪れた。鼻の曲がった金成を見に来たつもりが、ものの見事にカメムシの駆除に成功していたのだ。
「これで終わりかい?」
「中々やるなあ小僧。気に入った、次はこの薬草をあそこの家に住む村人に届けてまいれ。ただし時間には遅れるなよ」
大穴牟遅は山の方に建つ家を指さした。
「あいよ」
金成にとってもゲーム感覚のようなものであった。
風呂敷に入れた薬草を持って歩いていた。すると白い兎と飼い主の女性がそこにいた。
白い兎は酷い怪我をしていた。
「どうしたんだ?」
「私の可愛い兎がどうしましょう…」
「怪我してるじゃないか。何があったんだ?」
「さっき繁華街に行った時に『スマートフォン8』の新発売にも関わらず殺風景でした。そこに嫌気を指して私は、これらはオークションで売れば販売価格の2倍の値段は稼げるぞ!と嘘をつきました。次々と転売ヤーと呼ばれる人たちは買いましたが、後でネットに近日中に『スマートフォン10』が出ることを知り、カンカンに怒らせてしまい私のペットの兎が懲らしめられてしまいました」
「他人を騙すからこうなってしまうんだよ、馬鹿正直に生きろとは言わないが、やはり誠実さは大事だと思うぜ?まあ自業自得だが兎には何の罪もない兎が痛い目を見るのは可哀想だ。丁度良かった、俺は今薬草を持っている。それを塗ってあげよう」
金成は村人に差し出すはずの薬草を兎に塗って差し上げた。兎の怪我がみるみるうちに治り、すっかり良くなった。
「本当にありがとうございます!助かりました」
「真の商売人はコンビニから出ようとする車がいれば、道を譲ってあげるものだ。たとえ自分の時間が遅れようとも、今自分が譲らなければその車の運転手はずっとコンビニの駐車場から道路に出ることが出来ないからだ」
会釈し、金成は村人の待つ山へと向かった。
村人の年配男性はカンカンに怒った。
「遅いうえに薬がないとはどういうことだ!大穴牟遅の使いはこうも任された仕事が出来ないものなのか!?」
「途中で兎が怪我をしていたものでして」
「兎とワシとどっちが大切だというのだ!?」
「困っていることには変わりないものです。本当に申し訳ございませんでした」
「もういい、お前にはこれを飲んでもらう」
村人は1本の牛乳瓶を差し出した。
「何ですかこれは?」
「何でもない、早く飲め」
明らかに怪しかった。金成は少し席を外させてもらった。
スキルマスター発動:デスティニー
金成は牛乳を飲んだ後に起きる自分の未来を自ら占った。
明らかに牛乳からは異臭を放っていたからだ。
占ってみた結果体調不良を訴えていた。この牛乳はどうやらある学校で提供され、130人もの生徒が訴えかけてきた牛乳の残りだったようだ。
金成は席に戻るなり、男性にこう告げた。
「その牛乳はどうやら異臭がするようです。悪いが飲めません」
「ワシの言うこともきけんというのか!」
「はい、申し訳ございません」
「律法ではこのような男性を石打の刑にしろというが、貴様はそれをどう答えるというのだ?」
「いいでしょう、ただし今まで罪を犯したことのない人が最初にその人に石を投げればいい。そうすれば投げた人もまた罪人、投げなければその男性は無罪となります」
「ほう…」
男性は立ち上がり、戸を開けた。
先程の女性と兎がいた。
「あれ?ここ君の家だったの?」
「ええ、お陰様で。すいませんね、どうしてもあなたのことを確かめたくて」
「肝の据わった男じゃ、わしの言いつけもそして議論も論破しよったわい」
「何故あなたは従わなかったの?」
「従うも何も、正しき道は人それぞれ。自分はただそれに従っただけです。他の方からすればそれは間違っていても、自分が正しきによりて滅びるのならば滅びてもよしと、そう考えただけです。ただしもし正しき行動を行ってきたというのであれば、それは断じて滅びることはないと思います」
「天晴だ」
大穴牟遅が奥から出てきた。
「君は次の王にふさわしいかもしれんな」
「どうでしょうね?」
「君はこの東京国をどうしたいのかね?」
「一度東京国をリセットしたい。そしてアキバミクスに対抗できる希望の塔を設立したいと考えます」
金成の新しく出馬する王政に「希望の塔」が今ここに生まれようとしていた。
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