第21話:真空刃
金成がスキルマスターの欠点を克服し、戦術に於いて格上の明を倒したことにより、ようやく文京の父に実力を認めてもらい、本格的な稽古をつけてもらうことになった。
代々伝わる「蒼天流」は気を静め、その速さは風の如く、相手にじわじわとダメージを与えることの出来るものである。そんな中、最も相手に対しての「殺傷能力」の高い秘伝奥義が存在した。
「風を斬り、対象者を切り裂く、蒼天流秘伝奥義:真空刃」
文京の父は全身漲るオーラを放つ。
魔法や科学では証明出来ない、長年の武術者が独自で体得したスキルに違いない。文京の父が拳を振り上げ、それを後退し、一気に掌を拡げ、真正面に突く。蒼いオーラが一点に集中した時、掌から衝撃波が走る。目の前にある大木が瞬く間にズタズタに切り裂かれ、背後に並ぶ石垣にも大きな爪痕を残した。木はそのまま倒れ込み、大きな音と共に砂嵐を巻き起こした。金成はその光景に驚愕を隠し切れないでいる。
「真空刃は風を斬るイメージ。言わば飛ぶ斬撃。金成君、剣は使えるかね?」
「いや剣道はしたことがないです」
「居合などで持ち合わせるならばそれは真空刃の切れ味はさらに上を増す。もし相手も同じ蒼天流を使うならば相手の力量次第では此方が完負けすることになりうる。拳と剣では到底彼方が上であることは考えておかなければいけない」
「要するに素手同士なら力量次第、相手が剣持ってたら逃げろ・・・か」
「そういうことだ」
金成は日々「梁山泊」に通った。蒼天流は修行の月日が長く、鍛錬が厳しい。厳寒な時には手足に凍傷を多い、夏は脱水症状など体得まどにどれ程の困難が待ち受けているか。しかし金成は独自の「スキルマスター」を生かし、それを2週間で体得する。勿論これはかつてないほどの異常であり、師範代である文京の父ですら感服致すことであった。
「全く驚いたな。武士の道にも3年足らずとは言うが、君はわずか2週間で」
「大切にします。この流儀」
「一つ最後に伝えておこう」
「何ですか?」
「この流儀は人を殺める為のものではないということだ。相手を傷つける為に使えばそこに迷いは生じる。必ずや迷いなく、自らの信念にのみ従って、そしてこの秘伝奥義は人様に余り目立って見せるものでもないということである。自慢気に見せたりすれば、いずれ自らの眼に曇りが生じる。それだけは約束してくれ」
「分かってます。自分の為に使います。そして世の為人の為。短い間でしたが、お世話になりました。ここまで丁寧に教えてくれて有難うございました。」
「礼には及ばない。君自身の体得出来るスキルの成果であった。目的は分からないが、何か君をそこに導いているものがあるのだろう。達者でな」
金成は梁山泊、そして文京の父に大きく敬礼し、立ち去った。
金成は帰りがけに「ネオンモール」に向かった。
そこには色々な飲食店や雑貨、食材などが置いてある大型ショッピングセンターであった。クレープが好きな金成は1つ400円する「いちごバナナチョコ」というものを頼み、セットで頼むと安くなるメロンソーダを注文する。広いフリースペースで寛ぐ。スマートフォンをポチポチと触っている。そこには「YAHUU」のニュースでいつも見ている記事がある。飲酒運転による過失致死、小学生女児のスカート内を盗撮した教諭が免職、大手企業の財務課課長が金庫室から3億円着服など。
金成は思わず「溜息」が出てしまう。今の日本はおかしい、いや前からなのか?しかし昔はそこまでの酷いことは無かったようにも思えた。
結婚への興味低下率「若者の結婚離れの原因は貧困か」こういった悪ニュースには何故か金成は眼を放すことが出来ないでいた。
彼は根っからの「資本主義」と「経済民主主義」の2つの観点から物語っている。彼の持つ「自持思想論」によると第3部にて「私達を貶める魔の3禁:酒・女・金」についての記載があったことを頭の中に過る。
酒で失うのは一瞬であり、努力は一生であった。彼は未成年ではあるが、酒や煙草はやらない。青少年育成保護法においてルールを守っているとかそういうことではない、ただ興味がないだけなのかもしれない。しかしそれを平然と破る輩も周りには多いと記憶する。天変地異に越したことは無く、狂気と修羅の境にいて尚且つ助言する者は罰を受け、主犯格は「少年保護法」によってこそ、これに該当する事はないとされているのだ。この世の不条理であり、生物学上理解し難い人間世界に於いてのみの独白的思想のルールであった。
女性問題も多い。不倫や不貞、未成年の出産に於いての乳児置き去りなど、醜態が彷徨っている。狂乱と淫乱とが交わり合い、人間の反故とも取れる異世界捻出が偽ることなく、彼の現実世界へと導かれしものとなる。苛むことなく、平和的且つ倫理に熟した平穏を保つことであるならば、社会のルールはやはり厳密に粛さなければいけず、それを守る「ジャスティス」が今の日本国ないし、この東京国に於いてそれが成るものは今の国王や東西南北、十戒に於いても凡事徹底出来ているモノではないと考えるのだ。
最終的に人間の欲は「金欲」であると考えるのだ。金の為に人は利己犠牲を果たし、皮を被ることも惜しまない。嘘とエゴが並び立つ地上の星は奇しくも求めし者が多いからこそ「剥奪」「強奪」が起こり得る。平等の世界とは何なのか?それは一番彼にとっての疑問でもあった。
一番それを感じさせるのは彼のスキルマスターであった。本来人は1つのスキルにこじつけ、それを長所として伸ばす。ただ彼は他人の能力を即座にコンプリートすることが出来る。何故彼のみにそれが許されたのか、これは所謂「神の見えざる手」が施したものであるのか、今となっては疑問であった。しかしそれも彼にとって「退屈凌ぎ」でしかないことではあった。最初はそれでも良かったと考えていた。
しかし今日「梁山泊」にて蒼天流の伝授をしたことにより、自分の為にと彼は言った。しかし、その後に続けて「世の為人の為」とも続いたのであった。天涯孤独だった彼の世界に於いて一つの希望の光の如く、道標となる一つのきっかけがそこにはあったのだ。
「俺のすべきことは日本統治だ。武藤のおっさんとの約束もあるしな。でも武藤のおっさんの友達の太郎って人の言いたいことも分かる気がする。それでも今の東京国を秋葉王からの奪取ではなく、和解という道も考えて行動を起こさなければいけないな」
自持思想論第3部:魔の手「酒・女・金」は現在の彼には通用しない。
しかし人は変わるもの。自分を律する為にも憲法というものはまた必須であると考えているのだ。彼にとっての憲法はまさに「自分の持っている思想を論じるもの」所謂「自持思想論」であると確信しているのであった。
そうこうしているうちにネオンモールの2階にあるBOOK書店に到着した。スマホでよく東京国以外の世界情勢を目の当たりにすることは多い。つい先日「鳥取国」に於いて大規模な「天地雷鳴」が起きた。その前には「熊本国」にて。自然災害は神の処遇なのかは置いといて、各国の国王の対応は凄まじいものであった。特攻部隊の派遣、他国からの支援物資などの調達など、国王の手腕が問われる最中、人的被害は最小限に抑えられているとも記事を見る限りではマスコミがそう報道している。日本国は今大きな壁を通じて47ヵ国に別れている。しかしその国もかつては一つの国であった。何故この大きな壁は国を47に分けたのか。神のこの目的は果たして争いの火種を無くすことが目的であったのか、それすら金成には分からないことであった。
しかし壁を無くす方法はただ一つ、国王が他国の王を討伐した時に壁は無くなり、人々の記憶からも壁の記憶が無くなる。但しこれは一部を除く者とされるが、所以それに該当するものは何名なのかは分からないものであった。だが、彼が記憶している「大阪国」と「京都国」の国境は無くなり、それをいつしか自分の中でもイメージをしている。
まずは「千葉国」「埼玉国」「栃木国」「茨城国」「群馬国」「神奈川国」の近隣国6つを制覇し、国の名前を「関東国」にしようと考えていたのであった。
書店では株価の載ったものを漁っていた。とても高校生とは思えないような動きではあった。ビジネスマンでも早々にネット販売や四季報などは見たりはしないものではあった。そんな中、占い師の雑誌を手に取った。
東京国南部地方の占い師「千鶴」に於いて、彼女は1週間先の未来の情報を個別単位で自動書記される。神の偉業である。
大きな見出しでそう書いてあった。大手企業、その他外交に於いて彼女のその活躍は止まらない。そして、この能力は後の大戦などでも飛躍的活発に重宝されると、そう大きく書いてあったのであった。
多くの投資家も彼女の活動に注目はしていたのであった。金成もまたその記事に目を光らせた。
「ついに見つけた」
ただ、彼の求めている「未来を見る眼」とは少し違うが、未来の情報は彼にとっても凄まじく喉から手が出る程欲しい能力。彼女との交渉に走る為、彼女の詳しい所在地など情報収集にあたることにしたのであった。
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