第24話:品川

金成は占ってみた。本日の運勢「大吉」

まずまずといったところだな。1日の流れによると今日もまた1つ能力を得られると出た。

学校への道を何となく歩いていた金成であった。空はいい天気であり、快晴であった。

こんな日は無償にサッカーがしたくなる。スキルオンパレードのサッカーは楽しいものであったな~、と物思いに耽っていた。


「ザブザブザブ」


何か泳いでいるような音がした。不意に金成は後ろを振り向いた。

「おっす、金成」

品川だった。こいつはサッカーの時、地面を自由に泳いでいたのがすごい印象的だった。

「品川か。お前なんで地面泳いでいるんだ」

「知らないのか?俺のスキル:スイミングはどこでも泳ぐことが出来るんだよ」

「つまり土だろうとコンクリートだろうと?」

「そういうことだ。まあ一定が湖みたいになっちまうからよ。潜れる範囲は海みたいなもんだ。ただ潜ってる間は息が出来ねえんだよなあこれが」

「それって対象者に触れてたら一緒に泳ぐことも出来るのか?」

「もちろん泳げるぜ。まあただ途中で手を放しちまうと、その対象者は生き埋め状態になっちまうけどな。押しつぶされたりはしないけど、窒息死は間違いないだろうな」

「2階だとどうなるんだ?」

「地面との厚にもよるけど、本気だしゃ1階の天井に顔をひょっこり出して摺り抜けることも出来るぜ。ただ一度地面に足がつくと再度念じなければスイミング能力は発動しねえから5階から一気に1階までエレベーターがいくってことはできねえな。4階、3階、2階とエレベーター方式で地面に着くたび、ストップしちまう」

「成程、まあその能力を俺にも分けてくれ」

「はあ?」

「俺がお前とゲームして勝てたらじゃあ分けてくれ」

「いいぜ。何にする?」

「学校の2階から1階までどっちが先に辿り着くか」

「おいおい、俺が確実に勝っちまうぜ。勝負になんねえじゃん」

「いいからよ」

「まあなんか秘策があるんだな」

品川はワクワクしながら学校に向かった。


昼休みの時間であった。

「さあ、金成。勝負しようぜ」

「ああ、そうだったな」

場所は音楽室。この下は図書室となっていた。

「この時間なら誰も図書室になんか近づかねえわ。せいぜい池袋ぐらいだろうな、あいつ本を読んだりするぐらいだから」

「そのようだな」

「さあ始めようか」

「まあ少し待て」

「なんでだ?」

「お前に勝つ必勝法を考える為だ」

「なんだよそりゃ笑」

時刻は12時51分となっていた。

「何を狙ってるんだか」

金成は仕切りに動いた。音楽室のピアノのところに座った。

「だいたいこの位置か?」

「どうしたんだ?」

「いや別に」

時刻は12時52分となっていた。

「おい金成、いい加減始めようぜ」

「あと3分待て。そしたらお前より早く1階にいける」

「ぷぷぷ」

品川は余裕そうだ。


約束の時間がきた。

「さあ55分になったぞ。始めるぞ」

「ああ、いつでもいいぞ」

「スタート!」

品川はスイミングを発動した。品川の足が床に沈んでいく。

「そんじゃあお先な」

品川はそのまま下に移動していた。

金成はそれを見送った後、すぐに指をパチンと鳴らした。


スキルマスター発動:トレード


音楽室のピアノの真下には図書室の机と椅子が丁度並んでいる。

そして55分頃に池袋が本を持ってそこで読んでいた。

直線状にしてギリギリ10mであったのでトレードの条件が成立した。

池袋と金成は天井越しではあるが、一瞬にして場所を入れ替えた。

金成は図書室の椅子で余裕そうに品川が来るのを待っていた。

品川が床を摺り抜け、図書室に降り立った。

「なっ」

品川はびっくりした表情であった。

「よ。ごくろうさん」

右手を挙げて品川に挨拶した。

品川は開いた口が塞がらなかった。

その頃、池袋は周りの風景がなぜ図書室から音楽室に変わり、今自分はなぜピアノの椅子に座っているのか見当もつかない状態で頭に「?」を浮かべた状態であったが、5秒後気にせず本を読み続けた。


勝者は金成であった。占いで既に1時間先の自分の運命を知り、12時55分に所定の処に池袋が来ることを既に確認していたのであった。

そして本と本が入れ替わる距離を1階と2階を行き来しながら正確に距離を測り、ピアノの位置から真下の椅子までがだいたい10mぐらいの高さであることを既に計算していたのであった。

「ちえ、どんなマジック使ったんだよお前。瞬間移動かよまじで」

品川と握手を交わした。金成は品川のスキル「スイミング」を手に入れた。

「俺の能力だからな。大事に使えよ」

そういって図書室を立ち去った。金成はまたしても作戦勝ちを誇っていた。使える能力は徐々に増えてきた。現在で7つまでのスキルを有する。それに加え、蒼天流秘伝奥義の真空刃も使える。

着々と彼は強くなっていった。早く十戒と肩を並べれるぐらいの強さにならなければいけなかったのであった。

「あと3つは最低でも欲しいな。しかしここまで来ると色々と応用編も使えそうだし、後は修行してこれらの能力を上げなければいけないな。量も重要だが、量より質。徹底的に使いこなせれないと宝の持ち腐れだからな。一流の武闘家は拳を一度交えるだけで相手の力量を瞬時に悟ることが出来るとされている。スキルに磨きが無ければ、何の意味もないってことだな」

独りで考え事をしていた。

そうこうしている内に昼休みが終わった。


帰り道であった。

資本主義としての生業は資本を如何に増やし、そしてそれを回転させ続けられるか。長い年月の末、蓄えられるものは年利である。最初の一年はあまりに大差はなくとも、それが次第に複式に積み重なると、やがて雪だるま方式に大きく増えていくことを彼は知っている。

それと同時に彼は経済民主主義者でもあった。手順はまずローリスク、つまりローコストで行う癖を持つ彼は、他者が100円で買ってる飲料水を50円で買える努力をしているのであった。つまり「情報」の定義。A店では100円、B店では50円という原理原則を知り、尚且つ彼はお金より時間というTime is moneyを意識することにより、自分の労働がその対価の見返りに十分利得が生じているかによって、行動科学マネジメントが活発化され、強いては論理思考で物事は全て「仕組み」で作られることを彼は知っていた。それによって元手が増えると、今度はその余剰で資本回転率を回し、自分が手を下すことなく目的を果たす「流通」を混沌と極めることこの上無しであった。


しかし問題点もあった。ローリスク・ハイリターンを求めるのはリスクを最小限に抑えることができた時である。もしもハイリターンが大きすぎて、其方に眼が行き過ぎると、いつの間にかローリスクからハイリスクに変わっていることにすら気づかず、それを自転車操業のように回し続けることの無頓着さに彼は葛藤を覚えることもある。大きすぎれば大きすぎるほど、参照基準点は上がり、スキルを持つに越したことはないことであっても彼は経済学の世界に於ける「限界効用逓減の法則」に乗っ取り、満足度がやや下がってしまう傾向からリスクオンを選んでしまうことに対して懸念しているのであった。だからこそ常に彼は精神統一し、瞑想しなければいけないのであった。


「自分の立ち位置」自分の知る限界、身の丈というものであった。


家に着くと、彼はゲームを始めた。

「異世界クエスト」というゲームだ。主人公が異世界に飛ばされ、街を出るとそこにはモンスターだらけ。武器や防具を手に、勇者の剣を目指し、魔王を討伐しにいく。どこにでもありふれたゲームではあったが、彼にとっての疑問視がそこにはあった。

「魔王は偉く余裕ぶってるよな。自分の死期が近づいていることも知らず、呑気なものだ。今の東京国も呑気なものだ。これだけ税金溢れて借金なんか返せるのかよ」

今や日本国全体の借金は3000兆円であった。日本国全体では1億人、単純計算で国民一人当たり3000万円の借金であった。その中でも東京国は人口が多いせいか、平均値を遥かに上回っていた。東京国の住民だけでいけば国民一人当たりの借金は5000万円、将来を担う若者にとっては絶望的な数字であった。税負担が既に秋葉王の統制により大幅拡大し、上の官僚ないし王宮に住む者は豊かな生活を、その境に佇むものは重労働が課せられている。どれだけ働いたとしても手取給というものは住民税と所得税により多く支払われ、東京国国民は常に借金生活に怯えなければいけないのであった。しかしその実感はあまりに少ない。

何故なら目に見えないからであった。

金成は以前クラスメイトに聞いたことがある。

「借金5000万円だ?そんなもん国が勝手につけたもんで俺らにゃ関係なくね?」

関係ないことなど何一つないのだ。これは列記とした将来自分たちが支払わなければいけない金額である。貧富の差が最も激しいこの国に於いて、既に希望というものは途絶えたのか?いやそんなはずはない、彼は強い意志を持ってそこに近づいた。思っていることを紙に書きだし、それを毎回寝る前に眺めていたのだ。

記憶から消えぬよう、そして自分の意志を忘れぬよう。そしてその文字を目の水晶体を通して脳に信号を送ると、不思議とその通りの実行が出来るようになることを彼は知っていた。

そして強い意志を持って行えば、たいていのことはやり遂げれることも知っているのだ。


「断じて行えば鬼神もこれを避く」


ゲームではリセットボタンが存在する。しかし現実世界にはそれがない。人生は一度きりだ。彼は自分の運命を知る術を手に入れた。もう何も怖くはない。しかし千鶴との約束もある。乱発はすまい。そうすると、成功する道ばかりを選び、困難な道を避ければ当然事が上手く運んだように見えるかもしれないが、しかしそれは所詮「楽」なわけである。

楽な道程退屈なものではないことは彼はよく知っている。所詮人生において「快と楽の二者択一」でしかなかったからだ。

彼にとっては今はモンスター集めのようにスキルを集めているが、いずれも人一人の人生で最初で最後の大事な能力。大事な能力を分け与えていることに感謝の意を込めて使用しなければいけないのである。元々特別なオンリーワンだからだ。


それにしてもゲーム、特にクエストなどのRPG関係は非常に分かりやすい。なんせゲームをしているとハッキリとレベルが今なんぼなのか、HPがなんぼなのか、攻撃力がなんぼなのかの「数字」が目に映るからだ。

社会に出れば当然「数字」が問われるのは当たり前の話であるが、この数字を普段金成やその他人々は意識をしていない。数字で換算して考えるのはせいぜい「時間」と「お金」ぐらいであったからだ。自分のレベルなど到底数字では換算できないものと考えているからだ。

その点このRPGは素晴らしいと金成は考えている。自分のレベルがハッキリと10、20と分かるからだ。

現在金成が進めている異世界クエストはレベル35、既に転職などをかなり終えており、使える魔法もたくさんだ。これでどうやって魔王を攻略してやろうかなど色々と戦略パターンを試行錯誤中である。

家庭用ゲームソフトはマニュアル通りの動きしかしない。魔王も同じ魔法や、HPが上下することは決してない。ゲーム制作者に決められた運命に従って、プレイヤーの操作する勇者に倒されるだけなのであった。


この世の原理はこれとはまた違う。だが、マニュアル通りにいかないだけであって、列記としたレベルは存在してしまっているものであると考えたりもするのだ。

だからこそ彼は若いうちに、今のうちにチャンスを得られるように、スキルを増やしていくことを決めたのであった。


「明日はどんなスキルに出会えるだろうかな」

そんな楽しみを持って、覚えていることこの上ないのであった。

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