第113話:鳳凰④
人間が壊れていく様を見たことはあるだろうか。
「統合失調症」で悩む患者は100人に1人と決して珍しい病気ではないということである。これは社会に於いて、人間は多くの情報を蓄積し、それらが全て配合され、今の人間の形を彩ったものであると感じるのだ。
5段階欲求の中で「生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、尊厳欲求、自己実現欲求」が存在する。いずれも上位に来れば来るほど人とは悩むものだと感じる。絶えることなく成長を続けていく。人間は横社会と縦社会に生きていく。それはもはや、断ち切れない存在である。
異文化であっても異なる宗教であっても、それはまさに宇宙の万里の長城とでも言えようものか。そこに魂の根源があるというのであれば、人間の脳は膨大なるハードディスクとして言わざるを得ないものなのか。
感受性が損なわぬうちならば、誰も自殺をしたいとも思わない。魂はどこへ帰っていくのだろうかなど、輪廻転生についても誰も考えることはなく、そもそも言葉や集団行動、組織なども組み込まれない。
だが生物が牙城を作るのは「蟻」の世界でも同じである。働きアリと女王アリである。蟻にも毒があり、それが「ヒアリ」と呼ばれるものであるだけであって、ヒアリは実はどこの社会にも存在している。
それはまさに人間の貪欲にしがみつけられている、まさに混沌の世界であった。
「人とは、哀れだな」
鳳凰は考えた。自分の呪術、そして再生。矛盾した考えである。
社会を否定したかったのか、宇宙の空間、自然の原理を否定したかったのか。
自身が何をしたいのかなんて考えもつかなかった。だが考えはたった一つ。
自分が持っていないものを他人が持っているのが気に入らなかった。いわば嫉妬であった。
「おかしな世界だよね。俺がこんなに苦しんでいるのに、クラスの奴らは笑ってるんだ」
鳳凰は過去の、自分の学校での体験を思い出しているのだろうか。近年まれにみる、学校での傷害事件のことであろうか。
「何でいじめで自殺しないといけないんだ?」
鳳凰は金成に問う。
「その人生にうんざりしたからじゃないのか?」
「違うね、別の世界に行きたかったんだ」
「死んだところで、世界は何も変わらない」
「分かっている。だから俺は周りが憎かった。殺した、胸の中にあったものがすっきりとした。でも止まらない。自分が何かを変えたつもりが、またそれがやってくる。この世界に必要なものは、そう自尊心だ」
「殺すことだけが解決策なのか?」
「それ以外に何がある?」
「変える力だ。俺はそれを信じたい」
「かわなければどうするんだい?」
「俺のしたいことをする」
「じゃあ君も一緒じゃないか。僕らと」
「そうだろうか?俺はwin-winであればそれでいく。無理ならばno dealだ。」
「可笑しなことを言う。気に入らなければ全員死ねばいい」
「話にならねえ。俺は日本を統治する。それが使命だ」
「ならば俺を殺さなきゃ次のステージに進めないことは分かっているね」
「ああ、それも理解した。人間が壊れていく様はもう、修復不可能なのかもしれないからな」
攻撃を加速していく。
両者ともに全く引けを取らない動きである。
小学生と言えど、身体能力はやはり二つのスキルが使えないにしても飛躍的に伸ばしている。
何故学校の成績でクラスで一番の人間は全教科満点に近いのか理解するのに時間はかからない。
その人間にとって、勉強とは紙一重、コツをしれば他の領域でも強くなれる。
組織に於いて「猛将の下に弱卒がいない」それは強いものが上にいれば下も強くなれるからである。
逆に最下位の成績の子は何もかもに自信がないわけである。この2つの違いは運だけでなく、「準備力」の差であったのだ。
金成は日本統治を目指し、鳳凰は自分の気に入らない人間を次々と殺しにかかっている。世間からすればどちらも正しくない行動かもしれない。だが、勝てばそれが正当化される。多数決で物事は解決する。
まるで選挙、投票箱に票が多ければ、それはもう5段階欲求全てを満たすことになるのだ。票こそが全て、紙こそが全て。
この世界はもう創成主が行った蛇に唆されて口に付けた「禁断の果実」と同じだ。楽園を追われるだけである。だが、そこからまた一つの物語が綴られていくのだ。何に変えても、人は皆必死で生きている。たとえ誰かが自殺しても、死んでも、哀悼があったとしても「全て世は事も無し」なのだからだ。
鳳凰のスキルは強い。とても今までの能力では勝てない。たとえ素戔嗚の八岐大蛇を使っても、殺すことは出来ないだろう。かといって、戦闘を長引かせることができない。敵の増援が来たら、自分は終わる。
金成は窮地だ。この人間が追い込まれた状況では、脳裏に巡る物事の考えを最大限発揮できることは言うまでもないチャンスでもあるが、この戦いに於いては未だそれが導き出せない。
好手を出すための最大の一手。将棋界で一手に2時間費やしたからと言って、それが最善の策でもない。だが、どんな状況であってもそれは決断しなければいけないのだ。
金成はふと思ったのだ。
「俺の一番望んでいることは」
今まさに原点に帰るべきことは、この状況だなと感じた。
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