第6話 エッセイと小説に対する思想の話

 自分は家族とはまったく思想が合わず、ネットで誰かと会話するまで思想の合う人は皆無だと思っていたんだよね。

 もちろんリア友と呼べる人もいない。職場の人はどんなに仲が良かろが、友達ではないと思うので。

 同僚にも上司にも仲良くさせていただいている方はいるけれど、それはプライベートに踏み込まないからこその快適な関係だと思うの。


 友達と呼べそうな人がいたことはあったけど、大抵の人が毎日一緒にいたがるのよ。恋人ではないので、それは勘弁。


 さてそんな自分には『本が友達』みたいな時期もあった。 

 学生時代に映画好きの学友がいて、その人に『似非インテリになろう』と誘われたことがあるんだよね。当時の自分はインテリが何かも良くわかっていなかったが、『OK google』くらいの軽い気持ちで同意。

 今思えば、どうかしているとしか思えないが近現代文学を読み漁るという方向へ走った。


 俺は基本、洋楽や洋画が好きなんだよね。自作にやたらジェスチャーが多いのも洋画や洋ドラマの影響。

 なのに読むのは文学というアンバランスな人間に仕上がった。近現代文学は色々読んではみたが、夏目漱石が一番読みやすい。


 卒論の時に『近現代文学寄りの推理小説ってないですか?』と教授に伺ったところ【松本清張】を勧められ、ガッツリハマったんだよね。

 ただ、有名な【点と線】は面白いとは感じず、【Dの複合】が一番好き。


 内容がどうのというよりは、自分の持っている【固定観念】を打ち砕いてくれたのが松本清張だったり、夏目漱石だったりする。

 例えば、夏目漱石は三部作と括られているものがあるけれど、登場人物の名前は違う。つまりは話が続いているからといって同じ人物で書く必要はないということ。

 松本清張の場合、最初に事件を調べていた人が失踪し、別の人物が引き継いで事件を調べるというスタイルが何作かあるようなのだが、それが結構面白いんだよね。

 つまり、一人の人間が事件を調べる必要はないんだよ。主人公が交代になってもいいわけだ。その場合は事件自体が主役とも考えられる。


 時々、他人の作品を読むと影響されるから読まないという人がいるけれど、それは結局世界を知らないことに繋がるので残念だなと思う。

 上手くなりたいなら、下手なものを読んだほうがいい。なぜなら、何故だめなのか気づくことができるから。

 上手いものを読んだところでどうして上手いと感じるのか説明しづらいでしょ。読みやすいと感じたところで、その明確な理由がわからなければ真似はできない。


 でも、下手なものは何故なのか理由が明確。自分が同じことをしていないか、チェックすればいいわけだしね。


 感化されたり、影響を受ける人は読む姿勢がちょっと間違っていると感じる。何かを読むときは『自分の思想』や『固定観念』と照らし合わせるの。

 ああ、これでもいいのかと気づいた時に人は自分の殻を破れる。もしくは世界が広がる。

 創作は自由。とはいえ、自己満足だと他人には分かりづらい。だから客観的に自作品と向き合う必要がある。

 他人に指摘してもらっても構わないが、それは身につかないのでオススメできない。自分で気づいた時に、人は治す姿勢に変わるからね。

 すると自然と改善され身についていく。


 さて、長くなってきたけれど。小説ばかり読んでいると疲れてくるので、エッセイにも手を出していた。

 一人凄く面白いエッセイを書いている方がいて、その人のエッセイばかり読んでいたこともある。

 その時にね、小説にしてもエッセイにしても【体験】こそが糧になると学んだ。でもそれは特別な体験である必要はない。その代わり、何気ない毎日を【楽しむ】ことが大切。


 何もなくてもいいんだよ。

 例えばさ。

 今日は雨が降っていた。傘を差しコンビニへの道を歩いていると、郵便配達員のバイクとすれ違った。

 土曜日なのに大変だなと思い、彼が今日一日を無事に終えることを祈った。

 

 何を見て、何を思ったのか。

 それが大切なことなんだよ。

 その一コマは小説にも活かせるし、エッセイにも活かせる。

 無から何かを生みだすのは大変だけれど、常に自分自身に意識を向けていたらたくさんのネタが蓄積されていく。


 誰しも無限大の可能性を秘めている。

 けれども、ただぼーっと生きていたら差がついてしまう。

 その差は大きい。

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