第176話 使者センチョウ

オーモノブリッツに舞を披露すると言って目通りしたセンチョウは一目ぼれをされて、すぐにも貴妃として輿入れしてくれと話がまとまった。


貴妃とは王妃の下に位置する寵姫で要するに側室である。だが王の寵愛次第では王妃をしのぐ権勢をふるい王妃を追い落とすこともしばしば。王妃側もそれは知っていて後宮での女の醜い戦いが始まるのだ。ともあれ輿入れの話はまとまった。


そして大森林のエリス神殿街にその女はやってきた。目もくらむような建物群に塵一つ落ちていない綺麗な街並に心奪われたセンチョウはここに住みたいと心底思うようになっていた。


「何より臭くないのが素敵、ここに比べたら他の国はおトイレ同然ね。」

「センチョウ様、インオウ様のお言いつけをお忘れなきよう。」

「わかってます。みてらっしゃい、私の美貌で男なんかいちころよ!ふふん♪」


というわけで城に来た使者一行。国王の使者なので謁見の間で会う。アメシストが告げる。


「ソウシ様、エキドナ王国よりの使者、センチョウ殿でございます。」

「そうか、して使者の用向きは何かな?」


顔を上げた使者一行は俺の隣に居るアリスを見てまた下を向いてしまった。一行はヒソヒソしだした。


「無理だ。センチョウ様ではこの街を乗っ取ることなどできない。」

「なんですってぇ?やってみせるわ!」



「御使い様ご機嫌麗しゅう。私はセンチョウと申します。エリス様の巫女になるためにやって参りました。」

「ほう、区としてエリス神殿街の傘下に入りたいのだな?」

「い、いえ。エキドナ王国は傘下には入らず、私が巫女になってエリス様にお使えせよと申し付かっております。」

「なんだそれは?そんな怪しげな理由でエリス様の巫女として迎え入れるわけにはいかん。国へお帰り。」

「私が一生懸命巫女として御使い様にご奉仕致しますので、何卒何卒お願いでございまする。」

「ご奉仕とはなんだ?」

「神殿巫女は御使い様の後宮でございましょう?私が夜のご奉・・。」

「ふざけるな!エリス神殿は俺の後宮などではない。エリス様に仕える巫女達を侮辱すると許さんぞ。そういうことか、ハニートラップを仕掛けてくるとはドナドナ国王めやはりロクでもないやつだ。」

「御使い様何卒お許しください。私はどうしてもこの綺麗な街に住んで巫女になりたいのです。」

「ダメだ、そんな邪な考えの女に巫女をさせるわけにはいかん。だが住むだけならば別に構わんよ。」

「そ、そんなぁ。」

「さあ、使者どの、お帰りはこちらでございます。」


使者一行は追い出されるように城から出された。


センチョウはエリス神殿街に残りたがったが、監視役でもある御付きに引きずられるように落胆してエキドナ王国に帰っていった。エキドナ国王はオーモノブリッツ国王に彼女を渡すのが惜しくなり、約束を違えセンチョウを自分のモノにしてしまった。


センチョウは世を儚み毒をあおって死んだという。事になっているが実はトイレ臭い自国にノイローゼになって寝込んでいるだけだった。


策士策に溺れたインオウはエキドナ国王に役立たずと罵られ処刑されたそうだ。そして連合本部は盟主と兵站担当の幹部同士が険悪になって瓦解寸前になっていった。


これは愚か者達に翻弄された淫乱な女の物語。


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