第169話 魔王、玉璽を手放す


ロイヤルガードの兵長が東の半島のそのまた先の岬に出向き海竜族と交渉して戻ってきた。西を見れば土煙を上げて鬼女の部隊が鬼気迫る表情で迫ってきている!鬼婆怖えー!


「姫、ただ今戻りました!」

「それで交渉はどうでした?もう西に鬼女のオニーバーバの部隊が迫って来ています!結果を早く!」

「それが・・。姫のお持ちになる魔王の証である玉璽を寄越せば協力して東の大陸まで渡してやるとの海竜の族長のお言葉でして・・。」

「姫様!それは先代様より授かりし魔族を統べる者が持つ唯一無二の宝です。海竜になど渡してはなりませぬぞ!」

「いいえ、魔族の宝だと言って今更後生大事に持っていても仕方ありません。隊長さん、無事に海を渡してくれたらば玉璽を差し上げると海竜さんに交渉して下さい。」

「姫様!それだけはなりませぬ!姫様だけでも空を飛んでお逃げ下され!」

「良いのです、ここで皆殺しにあう方が私にとっては辛い事なのです。ここまで付いてきてくれた皆を置いて私だけ逃げることなどできません。玉璽など捨てて共に生き延びましょう。兵長さん、海竜族との交渉はたのみましたよ。」

「はっ、ただちに交渉してまいります。」


ミリアの玉璽を手放す決断が速かったため海竜族との交渉は成立し、危機一髪のところで鬼女部隊を振り切った魔王一行であった。鬼女は地団太を踏んで悔しがったと言う。地球にはぐずぐず迷って宝を渡さずに死んだどこかの王も居たっけな。



無事海を渡してもらったミリアは約束通り海竜の族長に玉璽を渡した。海竜たちはホクホク顔で海に帰って行ったという。既に魔王でもなくなったミリア一行は疲れを押して魔族の砦に向かう。


この砦はヨーム(妖夢)砦と言って指揮官にラミア族のミアリミア、副指揮官にアラクネ族のクーネルを配置していた。この2人を魔王として任命したのはミリアである。2人ともミリアの子供の頃からの守役で遊び相手でもあり大好きなお姉さんたちだったのだ。従ってミリアに対する忠誠心も特に厚い。


性格はミアリミアは御存じの通り真面目で勤勉ある。クーネルは食っちゃ寝が大好きで、いつも蜘蛛の巣のハンモックで寝ながら何かをモグモグ食べている女であった。


「「これはこれは魔王様、急なおこしでございますが如何なさいましたか?」」

「ハエ侯爵の宰相のベルゼバビデブと4人の侯爵の大臣に謀反を起されましてね。やっとのことで海を渡り逃げてきたのです。それにもう私は魔王ではありません。魔王の玉璽は海を渡る対価に海竜族が要求してきたので手放しました。それでも私達を受け入れてくれますか?」

「当たり前でございます、私は魔王の称号にではなくミリア様個人に忠誠を誓っているのですから。このヨーム砦は今からミリア様が主でございます。」

「私も同じですよ、もう魔王とか堅苦しく呼ばずにミリア様って呼べるんですね。また以前のように仲良く遊べると思うと嬉しいです。」

「あなたたちが変わらずに居てくれて良かったわ。それでは砦の防備を固めて追っ手を警戒して下さい、それから連れてきた共の者に食事を与えて休ませてくださいね。姉さんたち。」

「「はい、畏まりました。ミリア様。」」


この様子を俺達はスクリーンで見ていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る