第114話 3国からの使者④

その次はエキドナ王国の使者がやってきた。使者1名に側付き3名の4人だった。別に取り立てて言う事の無い普通の使者一行だ。


「ソウシ様、こちらがエキドナ王国の使者、エステバン伯爵殿でございます。」


「お初にお目にかかります、エキドナ王国の使者エステバンと申します。お側の聖女様は噂に違わず目もくらむような美しさでございますね。」


「世界一美しいからなアリスは。して用向きは?」

「はい、この度大森林に起こりし振興の街がアシヤ王国を傘下にし我がエキドナ王国と隣接する運びとなりました。何処にも所属の無い街ゆえ陛下が街の長を辺境伯の位を授けてお迎えせよと私にお命じなった次第です。」


「どうして辺境伯なのだ?」

「はい、大森林は広大であり子爵以下の下級貴族の爵位では務まりませぬ。公爵は王家のお血筋、侯爵、伯爵は中央の高級官僚の爵位でございますれば。辺境の大森林を統治するには辺境伯が妥当であろうと。」


「最後に1つだけ聞く。辺境伯領の法は王国法を超越して良いのか?」

「いえ、それは・・。エキドナ王国の爵位ゆえ王国臣民法が適用されます。」


「わかった、この話はお断りしよう。」

「何故でございますか?」


「俺には俺の目的があって行動している。一つの王国に縛られるわけにはいかないからだ。それにな、ドナドナ国王の腹は読めている。」

「どういう事でしょう?エキドナですが。」


「使いのそなたが悪い訳ではないが伯爵なのだろう?上位のしかも国境を守る要職の辺境伯位を授けに来るには軽すぎる。これだけでこちらを辺境の田舎者と見下しているドナドナ国王の腹が透けて見えるのさ。俺からしたらエリス神殿こそが世界の中心なのだ、上下水道も無く垂れ流し状態で市中が不潔なそなたらの国の方が未開の辺境に見えるのだよ。」

「それは、確かにそうですね。エキドナですが。」


「ドナドナ国王の腹の内はこうだ。田舎者の俺を辺境伯に封ずる→田舎の無知な山猿がお貴族様に成れると喜々として飛びつく→大森林の民ごとドナドナ王国臣民となる→難癖をつけて辺境伯位を剥奪し罪を着せ俺を処刑して改易する→広大な辺境伯領の土地と民と財がまるっと国王直轄領になる→めでたしめでたし。と言うわけさ。」

「今の王国法では領主貴族は改易できませぬ。エキドナですが。」


「今の、ではだろ?王国と言うのは国王絶対主義だ。他の宰相だの大臣などおまけに過ぎぬ。居ても居なくても良いのさ。国王一個人が法であるからな。国王の胸三寸で法など180度変わる。その国王が信用に値しないのだから臣下になどなるはずも無かろう?エリス神殿街の民が塗炭の苦しみを味わう未来しか見えない。解ったらおかえり。」

「わかりました、亡命させて頂きたく存じます。」


「は?」

「このエリス神殿街に来て見聞きしまするに民は溌剌し発展目覚ましく、エリス神殿には花の様に美しい巫女達が蝶の様に舞・・こほん。我が国の古臭いしきたりに鬱屈して嘆いていたところでございます。このまま王命も果たせずおめおめと帰れば処罰されるのは必定、最悪処刑されます。貴方様のお言葉を借りれば王国には外務副大臣の私など居ても居なくてもどうでもいいのでしょう。私がここに残り一族を呼び寄せることを何卒お許しください。蓄えでこの街で商売した方が伯爵位にしがみついて俸給をちまちま得るより断然儲かりそうですしね。」


「そ、そうか。まあ来たいと言うならば好きにしていいが。」

「ははーっ。創造主のエリス様のおひざ元に住める幸運に感謝いたします。」





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