第113話 3国からの使者③

次にオタカ王国の使者が通されてきた。護衛をぞろぞろ連れている、こちらの言う事を聞かず控室に置いて来なかったようだ。代表は顔が三日月の形をしていてしゃくれている。服だけは豪華なカイゼル髭の貧相な男だった。きょろきょろ周りを見回し髭をしごきながら何かぶつぶつ言って物色している風だった。


「ソウシ様、こちらがオタカ王国の使者、ツキミッカ子爵殿でございます。」


「平民がこんな良い所に住んでいるのか。まったくけしからんな。儂の居城にしたいぐらいだ。あの美女たちも儂のモノにしよう、ぶつぶつ。」

「用向きはなんだ?」


「ん?ああアシヤ王国を占領した功績に報いるため騎士爵に叙すとの陛下のお言葉だ。ありがたく受けるように。あんな貧乏国切り取ったところでお荷物にしかならんだろうに陛下も物好きな事よの。まあよい、これが辞令書だ、跪いて受け取れ。ほれ。」


「そうか、ルビー。」

「ハッ、プチファイヤー。」


お付きが縦に広げて見せつけていた羊皮紙があっという間に灰になって燃え尽きた。


「何をするっ!無礼者めが!」

「無礼はどっちだ?アシヤ王国は占領したのでない。」


「平民が一代限りとは言え最下級貴族に成れるのだぞ?歓喜に咽び泣き這いつくばって陛下に感謝しろ!これだから教養の無い愚民は困るのだ。」

「いらんわそんなゴミ爵位。手が腐る。有難がる奴の顔が見たいわ。」


「なんだと!これ以上の雑言は見過ごせん!このまま捨て置かぬぞ!」

「だいたい地図を見てみろ。エリス神殿街は領土換算してお前の国の何十倍有ると思ってるんだ?それを騎士爵で治めろとか計算も出来ない無能揃いかよ、寝言は寝てから言え。もし本当に迎えたいのならば、礼を尽くして最低でも辺境伯に丁重に迎えるのが筋だろうよ。」


「おのれ!黙って聞いておれば平民ずれが言いよったな!儂は国王陛下の従兄の友人の嫁の又従兄の義理の弟の甥だぞ?知っていてものを言っているのか!」

「知らんがな。アメシスト。」


「お帰りはこちらでございます。」


三日月貴族は護衛ごとウチの近衛に叩きだされて帰って行った。何故かくっころせって声が沢山聞こえて来た気がする。


現代人の感覚からすると滑稽にしか見えないが、昔の貴族はあれで普通だったのだ。現代でもそういう国が多少残っているな。逆らえばあっという間に首が飛ぶ。それほど貴族の権力は絶大だったという事さ。



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