第153話 噂の大軍師
テーム川を挟んで対陣している帝国と連合は暫らく膠着状態だった。ある時連合側の陣にふらりと一人の人物が現れた。名をホートーと言う、酔狂先生と言う酔狂な人物が鳳凰の雛の器だと太鼓判を押した知恵者だという噂だ。
連合の本陣
「これはトーホー先生ではありませぬか。もしや我が陣営にお知恵をお貸し下さるので?」
「さよう。トッパン国王、戦が長引けば苦しむのは民です。私が帝国を倒す乾坤一擲の策を持ってまいりました。」
「それはすごい、してどのような策ですかな?」
「今はお教えできませぬ、戦は情報漏れが命取りとなりますからな。私自ら帝国の陣へ赴き仕掛けてまいりましょう。」
「おお、それはかたじけない。今日はトーホー先生をお迎えしてパーティだ!」
◇
帝国の本陣
「これは噂に名高いトーホー先生でございませんか。今日はどのような御用向きで?」
「メロンル中将、今戦はこう着状態でございますな。」
「ああ、どこからか電撃作戦が漏れて連合に知れてしまい時期を失ってのう。今は強風の時期故軍船が揺れに揺れて転覆の恐れがあり動けぬのだ。」
「そうだと思い私が策を授けに参りました。」
「先生、どのような策ですかな?」
「船と船同士を縦横に鎖で連結するのです、こうすれば揺れも収まり転覆も致しません。」
「おお、それはすごい。早速手配いたします。今日はトーホー先生の為に宴だ!」
仕込みが完了するとトーホーは満足げに三日月形に口を歪めるとふらりとどこかへ去って行った。
◇
ある強風の日、メロンル率いる帝国軍は機を逃さず夜陰に乗じてテーム川の南岸にある連合の陣地へ夜襲をかけた。風は北西からの風で柴草に油を染みこませた小舟を敵陣に突撃させ、そこに火矢を射かけるとあっという間に連合陣地は火の海になった。世に言う赤猫(付け火)の戦いである。
夜襲は警戒していたものの大火事には勝てない連合軍は陣を捨てて敗走した。連合の陣をすべて焼き尽くし鎮火後対岸に乗り込んだメロンル中将は、対岸に一旦砦を構築し兵を集結させている。トッパン国王は前線を下げ野戦陣地を構築し兵を速やかに補充して対峙する事となった。
◇
トーホー東方に行かず南西へ馬を走らせながら冷汗たらたらであった。連環の計で帝国の船を連結し陣ごと全て焼き払う作戦だったのだが、風向きを変えられる妖術使いに依頼する事を失念して逆に連合軍を敗走させてしまったからである。思っていたのと逆の結果になったがそこはモノは言いよう。膠着状態を打開し戦争を早く終結させるためにやったと強弁した。そう自分に言い聞かせ自分は知恵者で偉い天才だ思い込むようにしていた。連合の制裁を恐れたそんなトーホーの逃亡先が大森林南の綺麗な街だった。
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