第133話 勇者解放命令

先日の勇者の悪行はアシヤ区長を通じて連合に届けてある。無用な軋轢を生まぬようにだ。告訴人はサカイアキンドである。アキンドは自分の子飼いの弟子や従業員をとても大事にするのでかなり怒っていた。


「アキンド、入院した従業員はどうだ?後遺症は残らないか?」

「へえ、院長センセが名医でっさかい後遺症は残らない言うてましてん。それだけが救いですわ。せやけど死ぬほどの目にあわされたウサギリと怖い目にあわされたリスミカが怯えてしもて、それは時間がかる言うてましてん。ほんま憎たらしい勇者でっせ。」


「その勇者を解放しろとの命令がゴルドステ教、帝国、諸国連合、連署で届いている。何でも勇者は人類の希望の星だから小さな罪は見逃せ。だそうだ。」


「なっ!そんなふざけた話がありまっか?人に大けがさしといて何が小さな罪でおますねん。一言も謝らんとあのあほ勇者解放されてまうんでっか?ワテの告訴状は握りつぶされてあの横暴な勇者は無罪放免なんてそんな無体な話しありまっかいな。ほんまはらたつわー。」


「まあ落ち着け。アキンドはゴルドステ教をどう思う?」

「あんなけったいな宗教は御免でおます。ワテら商人とゴルドステ教の教義は水と油でっさかいな。」


「どういう事だ?」

「ゴルドステ教はお宝つまりお金捨てろいう教義でっしゃろ?ワテら商人はお宝集めるのが好きなんどすわ。そもそもお宝捨ててしもたら商売になりまへんやん。せやから商工ギルドとは相容れぬ関係でおましてな。ワテの知る限り商人で入信しとる人は一人も居りまへんで。」


「今、商工ギルドから支部建設の申請が来ていてな。お前をエリス神殿街支部のギルド長にしたいと言う話があるのだ。」

「だんさん、ワテそんなん初耳でっせ?」


「そらそうだ、俺に後押ししてくれって内々で打診が来たんだからな。アシヤの商業ギルドに魔物卸してから何故かちょくちょく来るんだよ。どうだ?なる気が有るか?」

「ワテの商売すこぶる順調でっさかい後進の育成とかやるのは構わないんでっけど。」


「そこで勇者の話につながるのだ。ゴルドステ教が認定して送り出したした手前、勇者の悪行を強行にもみ消しにかかっている訳だ。お前はそれに我慢ならない。そうだな?」

「そうでおま、思い返しただけでもはらわた煮えくり返りますわ。」


「商工ギルド支部長の訴状ともなれば揉み消すのは簡単ではない。しかも商工ギルドとゴルドステ教は水と油なんだろう?」

「おお、だんさんそういう事でっか。ようミラクルなこと考えはりますな。是非エリス様のお膝元で商工ギルド支部のギルド長やらせてもらいますわ。」


「わかった、そういう事で話しを進めるぞ。奴らは汚い連中だから暗殺とかして来てもおかしくは無い。身代りドールがあるがギルド長ともなれば街の要人だ、衛士を護衛につけてやろう。」

「だんさん、何から何まですんまへん。ワテこの恩返しきれまへんわ。」


その後商工ギルドのエリス神殿街支部のギルド長になったアキンドは、商工ギルドを挙げて勇者の横暴を暴露し訴えつづけ、その背後に居るゴルドステ教と戦う姿勢を見せた。多くの国が商工ギルドの猛抗議にあらがえず、勇者解放命令はうやむやにされたのだった。




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