第155話 賢人たち①


サイハテ村に赴任したトーホーは毎日酒を飲んではグータラしていた。だがサイハテ村の住民は区民への分配金で潤っていて、村は綺麗で産業は発達し何の不満も不自由も無い豊かな生活を送っていた。


3等区長補佐などお飾りに過ぎず、トーホーが酒浸りで遊んでいようと寝ていようと誰も気にせず見向きもしなかった。不満を訴えるものが居ないのだからトーホーの怠慢ぶりも中央には聞こえては来ない。


従ってトーホーの放蕩ぶりを叱責しに来た偉い人に自分の有能さをこれ見よがしに見せつけて中央に招かれ返り咲くという計画もパァになった。トーホーはおかしいな?と思いつつも怠惰な日々をずっとずーっと過ごすのであった。かくして鳳の雛は雛のままこの世を去ったという。


とにもかくにもトーホーのせいでテーム河を挟んでの攻防の膠着状態は解けた。


戦争が飯より好きな戦闘狂のトッパン国王、野戦において兵力が互角ならばメロンルよりトッパンの方が強い。帝国のメロンル大将はテーム河南岸に砦を築き帝国のくさびを打つ事に専念し、トッパンの勇猛さを警戒し過度な追撃はしなかった。テーム河の戦いの勝利という功績でメロンルは大将に昇格したと言う。


赤猫の戦いの後トッパンは速やかに敗残兵を纏め、現在の前線基地となるテーム河に隣接するヨソミテ王国のテーム河から50キロ南方の丘陵の地に防御陣地を築いていた。そして諸国連合本部に赤猫の敗戦の原因はトーホーの姦計であると報告し、増兵と戦略物資の補給を求めた。



そしてトーホーが赴任してサイハテ村に行った現在、諸国連合から3区に対し追加支援の要請が届いていた。ワ―レンとアシヤの2区は区長が対応して追加支援している。



アメシストが報告にやってきた。


「ソウシ様、諸国連合本部から緊急の追加支援要請が来ております。」

「赤猫の大戦で自陣が丸焼けしたから物資が極端に不足しているのだろう。今度は要求してきた支援額も常識的だし規定にのっとって支援してやれ。最初からまともなこと言ってさえすれば此方も文句はないのだ。」

「はい、畏まりました。その様に取り計らいます。ソウシ様。」


そこへガーネットがやってきた。


「ソウシ様、酔狂先生と名乗る方が面会に見えております。如何なさいますか?」

「トーホーを評した人物だな、会おう通してくれ。」

「はっ、畏まりました、ソウシ様。」


ガーネットは酔狂先生を呼びに行った。



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