第36話 ダークエルフの里に到着①

ダークエルフの里はエルフの里とほぼ同じ作りだった。木の門を顔パスで抜け、族長らしき屋敷前の広場に降り立つ。族長のダクウェルが屋敷から出迎えに出てきた。


「これはこれは御使い様、聖女様、むさ苦しい所へようこそですじゃ。」

「御使い様に聖女様やて!だ、だんさん、ど、ど偉い御方でしやんやなあ。それにお姫さんは聖女様だったんでっか。えろうすんまへん。」

「いや別に、ダークエルフ達が勝手に言ってるだけだから。」

「おや?サカイ殿はエリス神殿街に向かったはずではなかったのですかの?」

「それがな族長はん、途中オークに襲われてしもてえろう難儀な目にあってしまいましてなあ、そこのお偉いだんさんに助けてもろたんですわ。そいで馬を無くしてしもたんで都合つけてもらえまへんやろか?オーク2匹と交換でどうでっか?」

「分かりましたのじゃ、厩舎係の者と相談して下され。」


サカイアキンドは厩舎の方に歩いて行った。あいつ商魂たくましいな。ダークエルフの子供たちはかぼちゃの馬車に釘付けだ。奇麗ー、乗りたーい、ときゃいきゃい騒いでいる。どこへ行っても子供は可愛いな。


「それで御使い様、どのようなご用件で来なさったのですかの?」

「ん?ああ、大街道が開通したんで折角だから来てみたんだよ。ダクネは良くやってくれている、あれは良い巫女になるよ。」

「あのお転婆がのう、御使い様のお褒めにあずかり恐縮ですじゃ。」

「それとちょっと話があってな。ダクウェル族長、大きいのと小さいの、どっちがいい?

「え?いや、そうですな。我らの里には欲をかいて大きいつづらを選ぶと酷い目に合うという伝承が残っておりましてな、小さい方が良いですじゃ。」


「わかった、里外れの土地は使っていいか?

「別にかまいませぬがの。何をなさるので?」

「この里に産業をもたらす。」

「産業とは何ですかの?」


「その前にそうだな、一つ質問するが、この里はずっと人口が増えていない。違うか?」

「違いませぬ、何故お分かりに?それが長年里の悩みでしてのぅ。」

「それには原因があってな、採集生活に頼っていては人口は増えないんだよ。森の行動範囲は一定だ、つまり毎年取れる食料も一定、これで人を増やして養えるのか?」

「養えませぬ。」


「そこで産業だ。俺がここに創ろうとしてるのは養鶏場とブドウ果樹園だ。黒エルフは小さいのがご希望だったからな。ちなみに白エルフの方には牧場とリンゴ果樹園にするつもりだ。」

「ですが御使い様、鶏ならばどこの家庭でも飼っておりますがの?」


「庭先で数匹鶏を飼うのとは訳が違うんだ。効率が違う。大規模な養鶏場で何万羽という鶏を飼育し、毎日何万個と言う卵がとれる。何十人何百人もの人がそこで働くと雇用が生まれ生活が潤う。これが産業だ。」

「わかりましたですじゃ、食料が増産されれば人口が増えるという訳ですかの?」

「そういう事だ。そして余った産物を里外に運び出して他と売買する。モノの流れをつくる、これが流通だ。あの怪しげなアキンドがやってる事は流通なんだよ。」

「目からうろこですじゃ。」


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