第8話 スナイパー訓練 その3


 翌朝ツバキの家から自分のマンションに戻り、少し休んでから午後に射撃場に向かったリンドウ。既に準備をしていたサクラとマリーの2人に初日と同じ様に何度も標的を狙って銃を撃たせた。


 そうして2人が充分に新しい銃に馴染んだのを見て3日目からは難易度を上げる。立っている状態からリンドウがパンと手を叩いてそこから射撃姿勢に入って時間内に標的の中心点に命中させる訓練。


 4日目は銃をあさっての方向に向かせたままで3日目と同じ様に時間内に銃を標的に合わせて標的の中心に命中させる訓練。手が叩かれるとすぐに腹這いになり銃を向けて構えて時間内に標的の中心に命中させる。


 サクラもマリーもリンドウが想像していた以上のスピードで技術を習得していった。銃の分解、組み立ても完璧にこなし、且つリンドウが出してくる悪条件でのスナイプもこなしていく2人。


 そしてリンドウはスナイプの訓練と同時にゴーグルについてもその使い方を徹底的に2人の身体に叩き込んでいった。


「いいか?最初の周波数の設定以降は全ての動作をゴーグルを装備したまま指先でできる様にするんだ。全てのスイッチとボタン、それらの操作が目を閉じてもできる様にならないと命取りになるぞ」


 そう言っていたリンドウの教えを忠実に実行する2人


 射撃場で6日目の訓練が終わった際にリンドウは2人に、


「明日は外、D1地区で訓練をする。車はこちらで手配するから13時にD門集合だ」


 そうしてハンター支部で車を1台押さえると、翌日の13時、門で待っていた2人を乗せてリンドウが運転する車は荒野に飛び出した。


 3人ともゴーグルをセットしている。運転しながらリンドウがインターコムで


「前にある廃墟までの距離」


「3,500メートル」


 2人から同時にすぐに返事がくる。


「いいぞ、その調子だ」


 そう言ってビルが横倒しになっている廃墟に着くと、その壁にスプレーで丸を描くリンドウ。そうして車で500メートル下がるとそこで車を止めて


「まずはここから的を撃つんだ」


 荒野の土の上に腹這いになって射撃姿勢を取る2人。ほぼ同時に発射音がした。リンドウが望遠鏡で壁を見ると中心に綺麗に穴が空いている。2人とも伏射の姿勢もいい。身体に余計な力も入ってない。


「次は1,000メートル」


 これもクリアする2人。1,500メートルまでノーミスで全弾命中させていく。


「いい調子だ、1,500メートルで中心点に当てるのは思ってるほど簡単じゃない。いい集中力だ」


 リンドウが2人を褒める。


「1,500メートルが近く見えるわ」


「本当ね」


「それが装備の差だ。こうして外に出て実際に撃つとよくわかるだろう? さて次は1,800メートルだ。同じ様にリラックスしてやればいい」


 1,800メートルではマリーは1発で中心に当てたがサクラはやや右にずれた。双眼鏡を覗いてターゲットを見ていたリンドウ。


「サクラ、スピードも大事だが正確性はもっと大事だ。焦るな」


「はい」


 2度目の1,800メートルからの射撃は2人とも見事に中心に命中。


「次は2,000メートルでやるぞ、これを常に中心に命中させれば一人前だ。まずは時間は気にせずに自分の間合いで撃ってみろ」


 2人はルーティーンを体に覚え込ませているので銃をセットして腹這いになるとスコープを覗き深呼吸をする。


 最初にマリーの弾が飛び、そしてサクラの弾がその後に飛び出した。望遠鏡で見ているリンドウ。マリーの弾がやや上にそれた。サクラは見事ど真ん中に当てている。


「マリー、上に10センチずれてる。もう一度」


 それからは2,000メートルの距離で何発も撃つ2人。中心点の命中率は2人とも80%以上で内心でリンドウはびっくりしていた。


(初日でこれか。こりゃ俺の想像以上のポテンシャルだ。たいしたもんだ)


 思っても口に出さずに、明日もやるぞと言ってその日の訓練を終える。


 ハンター支部から端末に防衛拠点の建設作業開始が4日後からと決まったとの連絡がきた。リンドウはその後も毎日サクラとマリーを荒野に連れ出して2,000メートルでの射撃訓練をギリギリまで続けた。そうして訓練の最終日には2人の命中率が2,000メートルの距離で95%以上となった。


 訓練を終えて銃を片付けている2人に


「動かない標的相手とは言え正直この短期間にここまで上達するとは思っていなかった。俺の想像以上だ。お前達はもう自分たちがスナイパーだと胸を張って言えるレベルになってるぞ。慢心は禁物だが自信は持っていい」


 リンドウの言葉にやったーと悦びを表す2人。


「これもリンドウがしっかりと教えてくれたからね」


 サクラが言うとマリーも続けて、


「そうそう、最初はどうなるかと思ってたけど、装備が大事だって本当にわかった」


 慣れたのかタメ口で話しかけてくる2人に大きく頷くリンドウ。


「装備だけじゃない。腕も間違いなく上がっている。訓練は今日で終わりだ。明日はゆっくり休んでミッションの準備をしてくれ。明後日からが仕事だ。頑張ろうぜ」


 そうして2人を車に乗せてD門に戻っていった。



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