第12話 前線基地建設ミッション その4


 その後は1日おきに機械獣が襲ってきた。ただ大型ではなく小型が中心で巡回部隊がそれに対応する。


『リンドウ、小型を倒したら承知しないわよ』


『そうそう、そんな事したらもう一緒に寝てやらないから』


 関係者全員が聞く事ができる共通の周波数が何だろうがエリンとルリはいつもマイペースだ。ただ実際彼女らの小型獣の殲滅速度と能力は同じAランクのハンターの中でも群を抜いている。


 威力の強い銃に強い銃弾。しかも今回は弾丸が本部持ち。惜しげもなく乱射していく。そしてまた2日後、


『機械獣の集団がD4地区に現れた。数は大型が3体、小型は10体以上、どちらも蜘蛛タイプだ。足は遅い。スナイパーの射程距離範囲内に到達するのは3時間後前後』


 端末経由で流れてくる情報を聞いていた3Fの3人。サクラがリンドウに


「ねぇ、こう言う場合ってじっと待ってるの?それとも3時間あるからって少し休んだりしてもいいの?」


「いい質問だ」


 そう言って2人を見て、


「今回は結論を言ってやろう。結論は直ちに戦闘準備だ」


 その言葉で条件反射の様に身体を動かす2人。その動きに満足し、


「何故かと言えばだ、蜘蛛型は速度が遅い。これは事実だ。しかし彼らは大抵背中に小型の機械獣を乗せて移動する。この背中に乗せている小型が蜘蛛型かどうかはわからない。足の速い小型の可能性も十分にあるからだ。実際にそれをやられて大きな被害を受けた事実がある。幸いにしてD地区ではなかったけどな」


「なるほど」


「残念ながら今の我々の技術では背中に乗っている小型の識別まではできない。ならば常に最悪の事態を予想しておくことだ」


 そう言うとリンドウの説明に納得した2人が銃の点検をする。しばらくするとゴーグルのインターコムを通じてエリンの声が聞こえてきた。


『こちらエリン。準備完了』


 その内容を聞いてほらな、分かっている奴はちゃんと分かっているだろう?というと頷く2人。


『リンドウだ。こっちも準備完了だ。いつでも撃てる』


 リンドウが通話ボタンを押して話をするとすぐにエリンから、


『流石リンドウね。あなたも背中に乗っているのが蜘蛛じゃないと思ってるんでしょ?』


『蜘蛛かもしれないし、あるいは足の速い機械獣が乗っかってる可能性もあるとは思っている。いずれにしても準備しておいて損はないからな』


 2人のやりとりを聞いていた他のハンター達が慌てて戦闘準備を始めるのが3Fから見える。それを上から見下ろしながら


「ああ言う奴らは残念ながら長生きできない。情報を信用しすぎるのも長生きできない奴らの特徴だ」


 そうして準備を終えてじっと待っていると


『ランクAの小型の機械獣がスピードを上げて向かってくる。エリンとリンドウの言った通りに背中に乗っていたのはスピードタイプだ距離3,000メートルで3体』


 リンドウは構えない。サクラとマリーはリンドウがスコープを覗かないので自分達も様子を見ていると


『距離1,500』


 その声がして数秒後マシンガンが火を噴いて3体の小型獣があっという間に粉砕される。


 リンドウはその通話を聞きながらスコープを覗くと距離3,500メートルで大型の蜘蛛型の機械獣が3体見えた。


「2人は左を、俺は右からやる。2,200で撃ち始めていいぞ。頭を狙え」


3,000メートルでリンドウが発射した弾丸は正確に大型の頭部に命中し、頭部が飛び散って1体を戦闘不能にさせる。


2,200になった瞬間に2人の銃が火を噴いた。1発は頭部に命中したがもう1発は胴体に当たってダメージを与えられない。


「焦るなよ。ゆっくり構えて撃つんだ」


 指示しながらリンドウは中央の2体目に銃を撃つ。距離が近いせいか1体目よりも威力がある弾が命中して頭部が破壊されて戦闘不能になった。


 その時サクラとマリーはそれぞれ2発目を発射したところだった。都合4発の弾丸を浴びた大型はついにその動きを止める。


『こちらリンドウ。大型3体殲滅完了。後は小型のみ。任せた』


 地上からマシンガンが唸りを立てて弾を撒き散らかせて、小型の機械獣も全て討伐される。


「だんだんと慣れてきたな。その調子だ。ただし自信を持つのはいいが、調子にはのるなよ」


 と釘を刺す。


 その後も数回機械獣との戦闘があったがスナイパー組、巡回組で全て殲滅をした。

 

 前線基地の建設が始まって1ヶ月、予定通りの期間で比較的広くてそして堅牢な造りの前線基地建設が終了した。


「これで探索や掃討が楽になるだろう。ご苦労さんだった。非戦闘員と入れ替わりで防衛本部から守備隊がやってくる。それの到着を待って任務終了だ」


 新しい防衛拠点ができたのでリンドウらも3Fから降りて廃墟に隣接する形で作られた新しい前線基地に入る。基地の中は広く、十分な駐車スペースもあり、そして建物も堅牢で基地から射撃しやすい様にあちこちに銃を突き出すことができる穴が空いている。


「こりゃなかなかの造りだ」


「でも彼らはここに常駐しても本格的に戦闘する気はないみたいよ。戦闘は使い捨てのハンターだって管理者が言ってたのが聞こえたの」


声に振り返るとそこにはエリンとルリが立っていた。


「いいんじゃないの?使い捨て大いに結構。戦闘は俺達の領域だ。ここにこれがあれば万が一の時はここに避難できる。それだけでもこっちは大助かりだぜ」


「そうなの?」


 リンドウの後ろからサクラが驚いた声を出すと、そちらを見たエリンが、


「ハンターってそう言うもの。使い捨てで結構。だから報酬もいいんだしね」


 そう言うとルリもサクラとマリーに


「安寧が欲しかったらハンターにならない方がいい。大金を得るにはリスクが伴う。彼ら守備隊もわかってるのよ。本当は自分達よりハンターの方がずっと強いってね。でも認めたくないからそう言う言い方をするだけ。そう思うと守備隊が何を言おうが全く気にならなくなるわよ」


 リンドウもサクラとマリーに顔を向けると、


「協力して敵をやっつけようってのは綺麗事さ。守備隊は支給された武器を持って仕事をしてる。決まった休日もある。あいつらは武器を持っているサラリーマンだ。ハンターは違う。自分で武器を買い、防具を買い休みたいときは休む。完全な個人主義だ。そんな相反する2つの組織が協力しましょうってのがどだい無理な話なんだよ。お互いに利用しあう。これくらいの気持ちでちょうどいいのさ」


「今のでよくわかった」


 マリーが言うとサクラも頷く。


「今回は1ヶ月のミッションだった。報酬も良いだろう。その金を何に使うも勝手だ。誰も何も言わない。ただ前も言ったけど生き延びたいのなら装備に金を惜しむなよ」


 リンドウの言葉に2人は声を揃えて


「今回の報酬でまずは身体保護スーツを買います」


 その言葉を聞いて大きく頷くリンドウ。その後雑談をしていると常駐する守備隊が前線基地にやってきた。



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