第152話 禁断の一手

 ハンター達が北地区の探索から戻ってきて1ヶ月が経った頃、都市国家の2層内にある政府機関の建物の一室、そこで政府関係者と情報分析本部、都市国家防衛本部、そしてハンター本部との合同会議が持たれた。


 この会議は通常と異なり会議の主催者である政府より参加者が厳しく限定され、政府から2人、情報分析本部からは本部長と上級分析員、都市国家防衛本部とハンター本部からはそれぞれ1名のみで合計6名のみが会議に出席することになる。またラップトップの持ち込みは情報分析本部以外認めないというものだった。


 そして当日会議室にはいるとまず最初に政府の役人から今日の会議は議事録は作らない。参加者がメモを取ることも禁止する、もちろん今日の会議の内容はこのメンバー以外は他言無用、最大級の守秘義務が発生するという発言から始まった。


 異様な雰囲気の中始まった会議。スクリーンにはハンター達が北の探索の際に撮影した山の北側のドローン画像が映っている。それを黙って見ていた関係者達。映像が終わると正面に座っていた政府関係者の担当者が口を開いた。


「既に見てもらっていると思うがハンター本部が危惧していた通りに山の北側に機械獣の工場があり、この工場からここ都市国家へつながっているルートがあることが確認された。そしてこの工場は山の中にあり工場の規模や中で何をどれだけ製造されているのかががわからない。多数の機械獣を製造していることはわかるがな」


 そうして一旦言葉を切ると全員を見て


「この画像を入手後政府はすぐに情報分析本部にてこの工場について何か資料が残っているか調査を依頼した。その報告が出てきたのと今後の対応という目的で今日は集まってもらった」


 そう言ってから情報分析本部にでは頼むと言うと情報分析本部の上級分析員が話始める。


「ハンター達が録画したこの映像について本部として過去のデーターの検索及び外見から想像できる山の中の工場の仕様について検討しました。まず残念ながらこの場所のこの工場に関する具体的な詳細な図面などの資料は見つかりませんでした」


 その声に参加者から落胆の声が漏れる。


「ただし、現存する資料から推測してあるこの工場についてある程度の予想を立てることができました」


 その言葉に関係者が一斉に分析員を見る。そうして分析員がラップトップのキーを叩くと正面のスクリーンにCGで作られた3Dの画像が映る。


「今回の様に山の中に作られている工場、施設についてはどの工場も核攻撃に耐えられるという前提で作られているという資料が見つかりました」


 核攻撃…その言葉にスクリーンから顔を上げる関係者。その視線を受け止め、


「つまりこの建物は核攻撃に耐えられる程の非常に堅牢な作りになっているものと思われます。逆に言いますと通常爆撃での破壊は不可能です」


 そうして説明を続ける。


「ごらんの通り資料ではこの種の工場の中は2層から3層になっております。今回のこの工場に当て嵌めますと最深部にコンピューターが置かれていると思われます。おそらくそれがAIの心臓部だと思われます。あくまで推測ですが3層の造りの工場だとすると最下層の3層が頭脳部分、2層、1層が製造ラインになっているのではないかと。2層の造りの工場の場合には2層が心臓部分で1層が製造ランとなります」


「通常のドローン爆弾では破壊できないってことか」


 都市国家防衛本部の本部長が声を出すとそちらを見て頷く分析員。すると本部長はきつい口調で話を続ける。


「となると我々は手をこまねいて見ているだけということかな。映像を見てもわかるが相当数の機械獣がいる。おそらく見えていない山の中にあるだろう工場では毎日の様に新しい機械獣が生産されているだろう。近い将来、数万という数の機械獣がこの都市国家に襲いかかってくるのを見ているだけしかないのか?」

 

「都市国家防衛本部の気持ちもわかるが今それを情報分析本部にきつく言っても仕方ないだろう?」


「これは失礼しました。つい興奮しまして」


 政府からの関係者が咎めると自分の口調を謝罪する都市国家防衛本部本部長。


「とは言え今の本部長の発言はもっともだ。我々はただ手をこまねいて見ているだけではない」


 その政府の役人の言葉に全員が彼に注目する。当人は情報分析本部を見ると頼むとだけ言い着席した。


「都市国家防衛本部本部長の発言にありました様にこの基地は通常の攻撃ではまず破壊は不可能です。そこで情報分析本部と政府にて他の方法がないか検討した結果、工場の生産を止めさせる方法が1つだけあることがわかりました。ただその方法でもおそらく工場を完全に破壊することはできないでしょうが、あの山の中にある工場の稼働を数年止めることはできるという結論になりました」


 全員が黙って発言者を見ている。しばらくの沈黙のあと情報分析本部の分析員が発した言葉は、




「核爆弾を使います」





 誰も言葉を発しない。今の言葉で会議室の温度が数度下がった。

 しばらくしてから政府から来ている役人の1人がコホンと咳払いをしてから、


「今日参加者を限定し記録に残さない様にしたのには理由がある。この都市国家が建設した当初から政府は核爆弾の図面を保管している。この事実を知っているのは政府中枢でもごく一部の人間だけだ」


 衝撃の事実に誰も言葉を発しない中、政府役人の話は続く。


「そして今回はその図面を使って核爆弾を製造し工場を破壊するしかないと政府と情報本部との間で合意した」


 そこまで言ったところでハンター本部のピート本部長が発言を求め、


「先ほどの情報分析本部の説明ではこの工場は核攻撃に耐えられるという説明だったはずですが、そこに核爆弾を打ち込んでも無理なのでは?」


 政府の役人が情報分析本部の方に目配せすると頷いてから上級分析員が頷きラップトップのキーを押すとハンターのドローンが撮影した山の工場の入り口の画像が映る。


「この工場は外からの核攻撃に対しては非常に堅牢です。ただ見てください。この工場は入り口が開いたままです。ここから中に核爆弾を撃ち込み、工場の中で核爆発をさせます」


 確かに門は開きっぱなしになっていてそこから次々と機械獣が出てきているのが映っている。スクリーンを見ている関係者に上級分析員が説明を続ける。


「具体的には核爆弾を門から中に入れて中で爆発させるとそのフロアの内部は完全に破壊できるでしょう。下層部まで影響があることを望んでおりますがこれは中の状態がわからないので何とも言えません。希望的観測になります。そして核爆発が起これば大きな振動によってこの岩山の一部が崩れ工場の門と言いますか入り口を塞ぐことができます。これは情報本部のシミュレーションで確認済みです」


「情報分析本部のシミュレーションでは中で核爆発を起こした場合でもその周囲5Kmには甚大な被害がでる。おそらく工場から出ている機械獣も殆ど戦闘不能になるだろうと言うことだ」


 政府から参加している役人の1人が上級分析員の言葉を補足する。スクリーンの画像が消えると全員がテーブルに座りなおした。


「つまり」


 とピートが発言する。


「工場の中で核爆発を起こさせて少なくとも1層部分は完全に破壊すると同時に工場の入り口を塞いでしまう。これによって数年程度この工場での稼働を止めることができるということですかね?」


「おっしゃる通りです。完全に破壊できたかどうかは工場攻撃後に定期的に確認する必要があるでしょう。ただ1層部分が破壊され入り口が塞がれたとなると中にあると思われるAIが仮に破壊されずにいたとしても新たに採掘獣を作りそして塞がれている穴を開ける。そしてそれとは別に機械獣を製造するラインを作る。既に1層は完全に破壊されて一から始めるということで新しい機械獣がここから算出されるには数年、具体的には穴を開けるまで3年から4年、そして機械獣が新しく出てくるのはそれからさらに2年から3年はかかるだろうというのが情報分析本部のシミュレーションで出ております」


「詳細は教えられないが武器メーカーに核兵器の製造と大型ドローンの製作を依頼した。今回はドローンに核弾頭をつけてそのまま山の中の工場の中に飛び込ませて中で爆発させる」


 聞きながらなるほどとピートは思っていた。そしてこの方法でたとえ数年でも先延ばしできるのならやるべきだろうと。その間にもっと良い武器ができれば攻略をすればよい。


 と同時にこれはハンター本部が請け負う仕事ではない。都市国家防衛本部に任せるべきだと。



 しばらくの沈黙の後、政府役人が都市国家防衛本部本部長に視線を向けて、


「本件は防衛本部にてお願いしたいと思っている」


 守備隊の本部長はしばらく間をおいてから大きく頷き、


「畏まりました」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る