第151話 帰還

「やっぱり地元は落ち着くな」


「全くだ」


 ヤナギが大きく伸びをする姿を見ながら頷くリンドウ。


 A地区から支部の車でD地区に戻ってきたリンドウとヤナギはすっきりした表情のツバキと別れるとゲートを潜って4層に戻ってきた。そうして4層にあるレストランで2人で昼食をとっている時に


「今回のミッションの内容はミッションに参加しなかったAランクには伝えても良いって本部が言ってたな。どうする?」


 とヤナギが聞いてくる。最後の打ち合わせの際本部からはAランクハンターに限り今回のミッションの内容は伝えてても良いという通達が出た。これは大量の機械獣が発見されれたこと、そして北からのルートがあることも見つかったことなどからAランクは情報を早めに共有すべきだという支部長クラスの意見を採用したものだ。


-Aランクは皆口が固い。周囲にベラベラと話さない-

-北からのルートがある以上都市国家防衛の最前線にいるAランクはこの結果を早く知る権利がある-


 そう言う声を汲んで本部としてもOKを出した。


「シモンズとローズの店を借り切るか」

 

 とリンドウ。


「そうしよう」


 そうして帰任してから3日後の夜、D地区のAランクハンター8人が皆シモンズの店に集まってきた。


「ひさしぶり、お疲れ様」


 ルリが入ってきたヤナギを見て声を掛ける。ちなみにリンドウはD地区に戻ってきた夜にエリンとルリから熱い歓待を受けていたので2人とは久しぶりではない。


 ツバキにたっぷりと搾り取られた翌日から2日間、エリンとルリは獣の様にリンドウを貪り尽くした。クタクタになって自宅に戻って丸20時間は寝たリンドウ。彼はようやく疲れが取れたところだ。


 そうして最後にスティーブが店に入ってきて全員が揃うとシモンズが店の外の灯りを消す。この店の経営者2人は元Aランク。秘密を守るのは皆が知っている。

 

 女性4人がテーブルに座り、男性4人はカウンターの椅子に座って身体を女性陣に向けた格好で報告会が始まった。テーブルとカウンターにはおつまみとジュースや酒が置いてある。


 ヤナギとリンドウは6人を前にしてミッションの内容を報告する。主にヤナギが中心になって説明をしそこにリンドウが補足する形で話をした。ヤナギの報告が終わると


「リンドウの読み通りに北からのルートがあったのか」


「それにしても2万以上か、半端ない数の機械獣がいるんだな」


 スティーブとランディがヤナギの報告を聞いて思ったことを口にする。


「その数の機械獣の最終目的地はここ?」


「おそらくな」


 マリーの言葉に頷くヤナギ。


「そしてその山裾にある洞窟の工場。難攻不落じゃない?」


 ルリが言うとエリンがリンドウを見てどうなの?と聞いてくる。


「一言で言うとルリの言う通り難攻不落だ。攻撃するなら守備隊になるだろうが物量にものをいわせて総攻撃かけても破壊できないかもしれないな。なにしろ全景が見えないからな。中がどれくらいの広さになっているのか、何体の機械獣がいるのかが外からじゃ一切見えない」


 お手上げさとリンドウがあっさり言う。


「救いはここから遠いってことだけか」


 ランディの言葉にそうなるなというリンドウ。ヤナギも、


「都市国家から1,000Km以上離れている。奇襲を喰らわないだけマシさ。時間があればこっちもそれなりの対応ができるからな」


 そして全員で今の状況を整理しようという話しになった。そして整理したのは、


・工業団地の機械獣は絶賛製造中、ただし進化はしないだろう

・山の上の電波塔は破壊した

・西の工場は守備隊が破壊した

・北の工場は恐らくAIの拠点兼工場だろう。詳細は不明だが現時点で既に2万体以上の機械獣がその付近にいる

・その北の工場から東回りで都市国家に来ることが可能

・北の工場は山裾を横に掘った中にあり外からは工場の詳細を知ることはできない。恐らくAIの本部だと思われる(未確認)


 エリンが紙に書いた6項目を見るメンバー達。


「俺達ハンターから見ればおマンマの食い上げにはならなさそうだ。機械獣がいないって事態にはなりそうもないな」


 スティーブが言うとランディが


「敵が進化する分死ぬリスクは高いけどな」


「全くだ。まぁそれはハンターをやってたら常について周る話だ。腹だけ括っておけばいいんじゃないか」


 これはヤナギだ。


 リンドウは自分以外の男3人のやりとりを聞いていた。そして


「推測だが今から半年から1年以内にこの2万、いやその時もっと増えているだろう。3万とか4万、下手すりゃそれ以上の数の機械獣がこの都市国家に襲いかかってくるだろう。今のこの都市国家の防衛体制のままじゃあ心許ないな」


「その北にいた集団がじっとしてたからだよね?」


 聞いてきたサクラ見て頷き、


「その通り。あの荒野でじっとしてるのは数が揃うのを待ってるって考えるのが一番自然だ。それに工業団地だって毎日の様に機械獣を作り出している。時間が経てば経つほど数は多くなる」


「政府がどうするかだよね。リンドウが言ってた守備隊の前線基地同士を城壁でつないで壁を作るのが一番いいんだけどね」


 エリンの言葉にそれはそうだが間に合うか?という声が出る。


「恐らく政府も今回の俺達の画像を見てリンドウと同じ判断をするだろう。急ピッチでやるんじゃないか?」


 ヤナギが言うと、でも1年やそこらであの前線基地を繋いで新しく城壁を作るのは流石に無理だろうという声が出る。聞いていたリンドウも内心で無理だろうなと思っていた。


「この前の1万ちょっとも相当な数だっただろう?あの数倍が一気にきたら相当やばい話になるな」


 前回の2回目の大規模襲撃を経験しているスティーブがその時を思い出しながら言う。


「しかも全ての機械獣がマシンガンを装備しているとしたら相当厄介よね」


 サクラの言葉にその通りだと言ったランデイは続けて 


「城壁が間に合わないのならリンドウが言っていたコンクリートの大型ブロックを荒野に並べていく方法になるのか。いずれにしても何らかの手を打たないとな、それも早急にだ」


 その言葉に頷くメンバー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る