第145話 出発前夜

 北地区の探索を控えた前日、リンドウとヤナギは支部の車でD地区からA地区に移動する。車にはツバキも乗っている。その移動の車中で、


「打ち合わせの時に説明があると思うけど、巨大廃墟を過ぎるまではリンドウらのサポートとして今回のミッションに参加しないAランクハンター達が護衛することになったの」


「そりゃ助かるな。余計な心配をしなくて済む」


 ヤナギがリンドウの代わりに答えると頷き、


「サポートは場所の関係からA地区からE地区までのハンター。D地区からはランディとエリンとルリが手を挙げてくれた。サポート組はそれぞれの所属地区から出発して守備隊の前線基地でリンドウらと合流、それから東方面に迂回しながら巨大廃墟を避けて北に進むルートになるわ」


 ツバキの説明に頷きながら頭の中でルートを描くリンドウ。5地区のAランクハンターが同行してくれるのならかなりリスクは下がるだろうと安心する。


 そうして車はA地区のハンター支部のビルの前に横付けするとツバキと職員、そしてヤナギとリンドウが車から降りてそのビルに入っていく。


 会議室に入るとそこには既にほとんどのメンバーが揃っていた。ヤナギとリンドウが入ると皆手を挙げて挨拶してくる。それに2人も手を挙げて答えてから会いている椅子に腰掛けた。ツバキと職員は前方の席に移動して座るやいなや両隣の支部長らと打ち合わせをしている。


 しばらくして全員が揃うと前方中央に座っているハンター本部のピートが説明を始めた。その背後のスクリーンには地図が映し出されている。


「ミッションは明日からスタートする。既に連絡している様に今回はこの都市国家から北西方面のルートの探索だ。私たちが気になっている山の裏側に何があるか調べるのがメインだ。破壊任務ではないので側極力戦闘は避けて情報収集に勤めてもらいたい。ミッションの期間は設けていない。移動時間が読めないからな。ハンターの安全を第一に考えて行動してくれ」


 そう言うと本部職員がピートに続いて説明をする。


「ここを出発するとAB地区にまたがっている巨大廃墟を迂回する形で大きく東回りで北西を目指すことになるが、何が起こるかわからないので巨大廃墟付近まではA地区からE地区からそれぞれ装甲車1台を出して護衛することにした。護衛組とは守備隊の前線基地で合流してそれから進むことになる」


 この説明は既に各地区のメンバーも聞いていた様で皆黙って頷いている。


「巨大廃墟を過ぎると未知の場所になる。本部長も言った様に安全第一で行動してもらいたい」


 そこまで言うとハンターの1人が手を上げた。H地区のウエストだ。


「巨大廃墟までは護衛がつくのはわかった。その護衛がついている間に機械獣と戦闘になった場合にはその護衛組が担当して俺達は手を出さないってことかな?」


「護衛の装甲車が5台お前たちに並走している。大抵の事態はその5台で対応可能だと思うがどうだ?」


 ピートの声にそうなるなと頷く他のメンバー。


「悪いがその護衛の5台の指揮権も俺にもらいたい。現場で臨機応変に対応したいからな」


 リンドウが手を挙げて発言すると前方で話あっている本部と支部の役員たち。


「わかった。リンドウの言うのに理がある。全ての指揮権をリンドウに渡そう。護衛組には事前にこちらから言っておく」


 ピートがリンドウを見てコミットする。これで何かあった場合にはリンドウが全てを指示できることになる。周りのハンター達もその方がいいだろうと言っている。


「今回のミッションの周波数は204.7MHz、常時オープンでお願いしたい」


 そうして本部からの説明が終わるとリーダーのリンドウが前に出て説明をする。本部、支部の役員もそのままでリンドウの話を聞く。


「今回のミッションは約2ヶ月ほどになる見込みでその間ひたすら陸路を移動することになる。本部からも言っていたが極力戦闘は避ける方向だがそうもいかない場合もあるだろう。そこで基本の隊形だけ決めておきたい」


 リンドウの説明は1号車、燃料車、物資輸送車、2号車の順に並んで移動する。そして3号車と4号車は燃料車と物資輸送車の左右に配置して中央の2台を守る隊形で移動していくというものだ。


「燃料車と物資輸送車はこの作戦の肝になる。なんとしても攻撃から守りたい。基本敵と遭遇した場合には3号車と4号車の2台で対応することとしたい。そして2号車は常に背後を警戒してくれ」


 リンドウの説明に頷くメンバー。タツミがケツは任せろと言う。


「野営時の見張りだが燃料車のジョニーとシンプソンは俺達1号車の組に入ってくれ、それで5組で交代で見張る」


 わかったと答えるジョニーとシンプソン。


「各装甲車に積んである予備燃料は基本使わない。もしもの時のために保存しておいてくれ、燃料補給は燃料車から頼む」


 など説明していくリンドウ。おおよその説明が終わったところで、


「以上だ。質問はあるかな?」


「ドローンは常時3機飛ばすの?」


 4号車に乗るメグミが聞いてきた。


「移動時に常時飛ばすのは1機で良いだろう。2号車、3号車、4号車の順で。バッテリーが切れたら交代するということでどうだ? 複数機飛ばす際にはこちらから指示を出す。それまでは1機で。1号車の大型のワイドレンジレーダーもあるからな」


 そうだな。レーダーもあるしそれでいいだろうと声がする。


 その後細かいやりとりはあったが概ね打ち合わせが終わると本部職員がミッションメンバーに今日泊まる部屋の鍵を渡していく。そうして


「明日は8時にA門から出発する」


 その言葉で前日の打ち合わせが終わった。メンバー全員はA門から遠くない場所にあるホテルに入るとそれぞれの部屋に入っていく。そうして部屋に荷物を置きしばらく休んでから夕食時にレストランに降りるとそこには本部や支部の連中もいた。皆同じホテルに泊まっているらしい。


「明日から頼むぜ」


 リンドウがヤナギと同じテーブルで食事をしているとスコットが声をかけてきた。


「こっちこそな」


 と返すリンドウ。そして食事が終わるとそれぞれバラバラに部屋に戻っていった。流石にこれだけの人数のハンターと関係者が同じホテルに泊まっている中ではツバキも人目を避けてリンドウの部屋に向かうことはできなかった。


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