第36話 調査開始


 今度はリンドウらが先頭になって来た道を戻り、装甲車に乗ると一旦外に出て城壁の周辺を走りながらエリンが指示した座標をめざす。


 車に乗り込むと緊張が解けたのか大きく息を吐くメンバー。各自水分補給や軽食を口にしている。


 エリンが見つけた場所は装甲車2台が並んでもまだまだ十分に余裕がある場所でしかも周囲が瓦礫に囲まれ見つかりにくい場所だ。外から廃墟に近づいたところで車を止めさせると、


「スティーブ、ケイン、スミス、ルリ 先に降りて広場の安全を確保してくれ」


 4人は車を飛び降りると遮蔽物を利用しながら廃墟内に入っていった。そして広場を囲む様にしている瓦礫にたどり着くと周囲を警戒し、


「敵影無し」


 リンドウが指示を出すと2台の装甲車がバックで広場に入ってエンジンを切る。後部座席から降りた他のメンバーが直ちに適正ポジションを取って瓦礫の隙間から廃墟に銃口を向ける。このあたりの無駄のない動きは流石にAランクだ。自分たちの仕事を理解し、リンドウが指示を出す前に動いていく。リンドウは一旦位置についたメンバーのうちルリとリリーを呼ぶと2人を廃墟の入り口の監視に改めて移動させる。廃墟の外から襲ってくることも十分にあるからだ。頷いた2人は直ぐに廃墟入り口の左右の瓦礫の影に移動した。これで廃墟内に向かって6名、背後に2名の配置が終わった。


「エリン、ここからドローンを飛ばしてくれ。右から左に流してくれ。しばらくここを動かない。周辺の状況を確認したい」


「わかった」


 1人装甲車に残ったエリンが飛ばしたドローンを操作していく。当初侵入した右側の上空で一旦停止させるとそのままゆっくりと左に向かってドローンを飛ばすエリン。他のメンバーは瓦礫の前で戦闘態勢を維持しており、リンドウは彼らの背後の広場の車の影で端末のスクリーンでエリンと2人でドローンの画像を覗き込む。そして時折視線をスクリーンから警戒している彼らに向ける。


 上空を飛ぶドローンが自分たちの前を通過していく。スクリーンにもメンバーが映っている。リンドウの指示で少し高度をあげたドローン。同じスピードで左に飛んでいるとリンドウらのいる地点から1,000メートル程先に大型機械獣が固まっているのが見えた。


 ドローンを止めてそのまま上空から見ると小型獣はビルの周辺を動き回っており、大型も時折その身体を動かしている。大型も小型も昨日より数が増えている様だ。リンドウは嫌な予感がした。おそらくエリンも数が増えているのには気づいているだろう。


「ここから1,000メートル左方向に大型機械獣が固まっているビルがある。今のところは派手な動きはしていない」


 警戒しているメンバーに報告するとエリンに


「あのビルに近づくルートを見つけたい」


「了解」


 巧みにドローンを操作して敵のいるビル跡と今の場所を映していくエリン。


「左の壁沿いが一番安全なルートになるか」


「そうね。瓦礫が多いから移動は大変だけど見つかり難いルートね。左側を気にしなくても良いといメリットもあるし」


「そうだな。敵が接近してきても気付きにくいというデメリットもあるがドローンを見ている限り他にルートはなさそうだ。どこを歩いても周囲から丸見えになる地点が出てくる。隠れながらあのビルに近づける事が出来のは左側の壁沿いだけだな」


 リンドウはエリンにドローンを回収する指示を出し、同時に警戒しているメンバーに


「ドローンを回収したら今日は引き上げる。明日から本格的な探索になる」


 そうしてドローンを回収したメンバーは廃墟を出て野営地のキャンプに戻っていった。

 

 まだ日が暮れる前だったのでスティーブだけを屋根の上で哨戒させて他の9人を集めてドローンでの報告と明日からの作戦会議をする。


 エリンが端末に送った左壁沿いのルートを全員が見る。


「廃墟でエリンが言っていたけど左が壁で気にしなくてもいいってのは助かるな」


「この瓦礫を乗り越えてビルまで1,000メートル強か」


「エリン、もう一度今度はビルから車を停めていた広場へのルートを映してくれ」


 言われた通りにエリンが再度再生をする。


「ストップ!」


 画像が止まる。


「このポイントを敵を攻撃する第二地点としたい」


「ビルからの距離は?」


 タツミが聞く。


「約200メートル」

 

 エリンが即答する。


「近いな」


「タツミの言うこともわかるがここは射撃に適している。瓦礫がいい具体に積まれているだろう?エリン、画像を進めてくれ」


 再び動き出した動画、ドローンがゆっくりと装甲車の方に向かって近づいてくる。


「第二地点と言ったな?第一地点はどこなんだ?」


 ヤナギが聞いてくるとリンドウは再びストップという。そこは装甲車を停めた場所のすぐ近くだ」


「ここ? 瓦礫が高く積まれた山じゃない。ここで戦闘するの?」


 イズミがびっくりした声を出すがD地区のメンバーは瞬時にリンドウの意図を理解していた。


「ここからだと950メートル位か?」


 頷くエリン。


「ドローンを見ていたが、ビルの周りにいる機械獣の数が昨日より増えている。そのからくりは分からないが増えているのは事実だ。毎日か不定期かとにかく新しいのが地上に出て来ているのは間違いない」


 機械獣の数が増えていると聞いて改めて自分の端末を見るメンバー


「確かに、大型も小型も増えてるぞ。20以上はいる」


「作戦としてはまず第一ポイントで地上にいる敵を殲滅する。200メートルの距離で20体以上の大型の相手をするのは非常に危険だ。950の距離があれば大型は俺とタツミとで倒せる。撃ち漏らしの大型はスティーブの担当だ。そして全てを殲滅してから前進して第二ポイントで敵が出てくるのを待つ。出てこなければこちらから乗り込む」


「この地点からスナイプするのね」


リリーの言葉に頷くリンドウ。


「狙撃銃でもいけなくはないが威力のあるロングレンジライフルで1発で大型を倒す。俺とタツミとスティーブは大型だけを狙う。小型が大量に襲ってくるのは他のメンバーで対応してほしい」


 そう言って屋根の上のスティーブを見て出番だというと


「任せとけ」


 その言葉に頷くリンドウ。そしてメンバーを見て


「一掃したら前進だ。そしてそのまま第二ポイントで様子を見る」

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