第126話 偵察ミッション その2
「契約に同意する前にこちらからの要求を言わせてくれ」
それまで黙っていたリンドウが発言を求めた、ピートとツバキが頷くと
「用意してもらうのは飛行距離が長いドローンを最低2機、できれば3機」
リンドウの要求を職員が端末に打ち込んでいく。
「次に装甲車だがこの前のタイプでもいいができれば8輪のが欲しい。スピードは落ちるが8輪の方が一回り大きくて燃料タンクがずっと大きい。走行距離が伸びる車の方がなにかと便利だ。また起伏の多い荒野では8輪の装甲車はかえって安定するからな。砂でスタックもしないだろうし、そして安定するから車からの狙撃もずっと楽になる。更に室内が広いので弾薬や食料が多く積める」
「確かに燃料タンクがでかい方がいいな、最大スピードを出す場面もあの地形ならそうはないだろうしな」
ランディが賛成するとルリも狙撃が楽になるのは大きいわね。装甲車の屋根の上のマシンガンの命中精度が上がればこちらも楽になるしと続けて言う。
「あとは追加の武器でグレネードランチャー、射程距離は300メートル欲しいがなければ200メートルでいい」
「敵に追われたときを想定しているのか?」
ピートの言葉に頷くリンドウ。
「万が一多数来た時は俺たちの銃でも限界がある、最後に近くまで呼び込んでズドンという作戦だ。ひょっとしたらそれ以外でも使えるかもしれない。有って邪魔にはならない武器だ」
「わかった」
「ラップトップの予備を船に積んでおいて、何かあった時のスペアとして」
エリンの発言にもOKだと答える。
その後もいくつかやりとりがあり、メンバーの要求全てに対して準備しようと言うピートの発言でメンバー全員が同意をクリックして送信した。
それを受け取るとピートがこれからは雑談になるがと前置きして
「今回のミッション、リンドウがツバキに報告したところからスタートしている。リンドウは機械獣の仕様が今のままで変わらないとは思っていないってことらしい。そうだな?」
話を振られたリンドウは大きく頷き、
「その通り、彼らの今までの動きを見ていると必ず学習してきている。機械獣の進化もそうだし大規模襲撃もそうだ。1回目より2回目の方が複雑な指示の下で動いている。そんなAIが電波塔を破壊されただけで進化を止めるとは考えにくいと思ったんでね。ツバキには定期的に巡回する必要があるんじゃないかと提案した」
「となると今回仮に何もなかったとしても、今後も定期的に行くべきだと?」
「行くべきだ。正直このままこちらが何もせずに放置していた場合、3回目の大規模襲撃がどんなスタイル、攻撃方法になるのか俺には今は全く読めない。敵の最新情報は常に欲しい」
「3回目もあると思ってるの?」
ツバキが言うと
「当然だろう。彼らは勝てるまで何度も襲撃してくるぞ。そして数を重ねるほどに狡知になってくると思う」
他のメンバー3人はリンドウと本部長、支部長とのやりとりを聞いていたがエリンが、
「ということはいつまでもプランCじゃ対応できなくなる時がくるってこと?」
「いつかとは言えないが対応できなくなる時が来ると俺は思っている」
「そんな…」
ルリが呟くとリンドウはルリに顔を向けて
「いいか、俺達は城壁から射程距離15Kmの砲弾を撃っている。AI側が同じ様な砲弾を作らないという保証はない。大型よりでかい超大型の機械獣の背中に装備でもしたらこっちがチマチマとマシンガンや狙撃銃で対応したところで勝負にならなくなる」
リンドウは自分で発言しながらこの内容が大袈裟でもなんでもないと信じていた。そしてリンドウの話を聞いていたピートやツバキもまた同じ様にそれが荒唐無稽な話じゃないと感じている。リンドウの話を聞いていたピートが、
「仮にもしリンドウの言う通りに敵が射程距離が15kmとは言わず、例えば5〜10Km程度の長距離砲を開発してそれを背中に乗っけて都市国家に近づいて来るとしたらどう言う対応を考えている?」
前方の席に座っているピートとツバキ、そして他のメンバー3人も顔をリンドウに向ける。
「今思いつくのは2つある。1つは攻撃型ドローンの開発だ」
「ドローン?」
「そうだ。ドローンに爆弾を積んで空から落とす。仮に射程距離が5Kmとしても砲台は相当の重量になるだろう。それを移動式にして機械獣の背中に乗せたとしたらその移動スピードはかなり遅くなるはずだ。相手の射程距離に入る前にドローン部隊が空から雨の様に爆弾を落として撃破する」
「なるほど。爆弾を装着できる大型のドローンを開発して対抗するってことか」
「都市国家防衛隊の兵士ならそれくらい操縦できるんじゃないか?」
「一度こちらから政府に提案してみよう。そしてもう1つは?」
「今の前線基地を繋いで堅牢な城壁を作りその中に5層を作る。これが理想だが城壁が無理なら防護壁でもいい。ただし5層内には人は住まない。5層内を緩衝エリアにする」
「緩衝エリアにするとは?」
「機械獣を食い止める壁にする。そこで可能な限り敵を討伐する。要は長距離砲の距離より長い場所に城壁を作っておけば弾丸は4層から中にある都市国家に届かないという発想だ、今の前線基地は4層の砲台の射程距離よりずっと先にある。その前線基地を城壁で繋いでおけばその向こうからいくら砲台を打とうが都市国家まで届かない。4層と5層の間の緩衝地帯に爆弾がいくら落ちてもこっちは痛くも痒くもない。城壁を長距離砲で破壊されるというリスクはあるが攻撃型ドローンを開発しておいて戦闘に投入すれば5層の城壁はまず大丈夫だろう。従来の機械獣の進軍も食い止められる」
ここで一旦口を切って水を飲むと再び話だす。
「堅牢な城壁を作るのが無理か相当時間がかかるのなら分厚い台形のコンクリートを一直線じゃなくて前後にずらせて並べていって防御壁を作るんだ。砲台1発程度じゃ粉砕されない台形のごついコンクリートを荒野に並べて俺達はその防御壁の背後から敵を狙い撃つ。前後にずらせて並べるのは俺達も装甲車で防御壁の間から外に出やすくする意味もある」
なるほどとピートを始めここにいるメンバーが感心する。
「城壁にした場合には相当な距離になるが、前線基地を作ったのはフェーズ1で、いずれは全ての前線基地を城壁で繋ごうと言う計画だしな。それよりも防御壁の方が即効性がありそうだ」
「どっちにしても工事はできるだけ早く始めた方がいい」
ツバキやエリン、ルリ、ランディらはリンドウの話を聞きながら感心していた。この男は常に先の先を見ている。
「2つとも機械獣の脅威に対抗する有効な手段になるな。ハンター本部として政府や関係部署に上げる」
ミッションの打ち合わせが終わった。本部からはメンバーのリクエストを叶える準備をすぐに開始し、出発の目処が立ったら支部経由で連絡することになった。4人のメンバーはとりあえず長期の外出を控える様になった。
4人が会議室から出ていくと残った本部長のピート、そしてツバキと本部から来ている職員がそのまま部屋に残る。
「第2回の大規模襲撃の時の機械獣の動きを読みきったのもすごかったが、今日の話もまたリンドウらしい素晴らしい読みをしているな」
ピートが感心して言う。
「ハンターとしてあそこまで未来を読んでる奴は他にはいないだろう」
「そうですね。エリンもある程度先は読めるけどリンドウほどじゃない」
ツバキは言いながらも本当にその通り、リンドウ程のハンターはいないと思っている。
「ハンターランクについてはリンドウがいる限り彼がずっとNo.1の地位に君臨するだろう。彼の言うことはいつも方向性が間違っていない。至急検討に入ろう」
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