第136話 西の工場 その2

 そうしてルリはドローンを器用に操作してさまざまな角度から工場の内部を撮影していく。一方エリンのドローンは北側の屋根の壊れた部分から中を撮影しようとするが北側は屋根が壊れている場所が無くなかなか適当な場所が見つからなかった。ただ電波塔は近くから撮影できたのであとは情報分析本部がこの電波塔の能力を推定できるだろう。


「中がよく見える場所がないわね。元々がかなり堅牢な作りになっていたんだと思う」


 ドローンのバッテリーも減ってきたところでリンドウは2機のドローンを戻す指示をすると同時にインターコムを通じて


『ごらんの通りだ。これ以上近づいて探索するのはリスクが大きいと感じている。そちらに異論がなければこのまま引き上げて、この工場から工業団地のルート上にアンテナを積んだ機械獣がいるかどうかを確認してから都市国家に戻りたい』


 しばらくの沈黙の後、


『こちら本部だ。リンドウの言う通りこれ以上リスクを背負えない。一旦現地から離れ、その後工業団地までのルート上にアンテナ機械獣がいないかどうかを確認してから戻ってきてくれ』


『了解』


 2機のドローンを回収するとランディが車を出してゆっくりと拠点から離れていく。そうして一旦南下ししばらく走ってから廃墟に車を停めた。


「あの工場を破壊したら機械獣の進化は止まりそうね」


「どうやって破壊するかだな」


 食事をしながらエリンとランディのやりとりを黙って聞いているリンドウ。そしてリンドウが顔を上げると3人の視線がリンドウに注がれていた。


「どうした?」


「リンドウならどうする?」


 こちらに顔を向けてる3人を代表する様にランディが聞いてきた。


「俺達ハンターの仕事じゃないが、やるとしたらドローンに爆弾を積んで空から落としまくるのが一番安全に破壊できるんじゃないか?大部隊はここまで送れないだろ?となるとドローンに頼るのがいいんじゃないか?」


「守備隊の仕事よね」

 

 とルリ。


「ただ時間がかかるとまたアンテナ獣が動き出す。本部も時間があまりないってわかってるだろう」


 食事に戻ったリンドウが言う。


「それにしても山の裏側にあんな大きな工場があったなんてね」


「リンドウの言った通りに偵察をして大正解だったぜ。知らなかったらまた機械獣が進化してるところだ」


 エリンとランディはリンドウの読みに感心しきりだ。ルリも口に食事を入れたままうんうんと大きく頷いている。


 翌日、8輪装甲車は北上して先端工業団地を再び目指す。ドローンを飛ばして周囲を警戒しながら工業団地が見える場所まで近づいたが、アンテナを積んだ機械獣や護衛はいはかった。


 本部に連絡をして帰国の許可が出ると上陸地点を目指して進んでいく。いつどこから敵が襲ってくるかわからないのでドローン1機を常時飛ばして周囲を警戒しながら装甲車を走らせる。警戒しながら進んだが結局敵の襲撃がないまま無事に砂浜に帰りついて待っていた船に装甲車を積むとすぐに離岸して都市国家を目指して航海を始めた。


 船が動き出してようやく緊張から解放された4人。船に積まれている装甲車の中で今回のミッションについて思い思いに話をする。インターコムはオンのままだ。


「山の裏の工業団地じゃまた新たにアンテナ獣を作るのかしら」


「恐らくそうだろう」


 ルリの言葉にランディが答える。


「となるとよ、距離から見て時速10kmで移動するとしたら1週間くらいで配置が終わっちゃうよ」


 ルリが頭の中で計算をして声にだす。俺達が都市国家に戻ったらもう配置が終わってるってことじゃないかとランディも言うがリンドウは、


「俺はそこまで早くは配置できないと思ってる」


「どうして?」


 リンドウの顔を覗き込む様にしてエリンが聞いてきた。


「アンテナ獣が破壊されるのは計算に無かったはずだ。前回守備隊が山上の電波塔を破壊してから今までの時間は恐らく新しいアンテナ獣の開発と生産をしていたんだろう。今奴らはアンテナ獣の余分な在庫は持っていないはずだ。その生産に時間がかかる」


 それで?とエリンが後を聞いてくる。


「守備隊に砂浜から上陸させて偵察させりゃあいい。あのアンテナ獣の移動ルートはこっちは掴んでいる。見張ってればいいんだ。奴らがきたら破壊すればいい。移動速度も遅いから格好の標的だ」


 船の上での会話は都市国家にも届いていて、4人のやりとりを聞いていた政府担当者が都市国家防衛隊に、


「今の彼らの話を聞いていたかね?私もリンドウが言う偵察部隊の常駐に賛成だが、都市国家防衛隊はどう思う?」


「全く同意です。すぐに兵士をもう1隻の船に装甲車と一緒に積んで現地に向かわせます」


「それがいいだろう。きつい任務になるがよろしく頼む」


 政府とやりとりをした都市国家防衛隊はチームを2つ作り、先発隊がもう1隻の船に装甲車と一緒に乗り込んで上陸地点に向かうことにし、あと1チームは今都市国家に向かっている船が帰国すると、それに乗り込んで2チーム交代でアンテナ獣の動きを監視する体制を作った。


 そうして砂浜を出てから20日後、一行は無事に都市国家の入江に戻ってきた。装甲車を下ろすとそこに積んでいたアンテナや送信機を情報分析本部に渡し、彼らはそのまま3層のハンター支部のオフィスに向かっていった。


「お疲れ様。今回もいい仕事をしてくれたわ。レポートは不要よ。画像とアンテナがあればあとは情報分析本部が仕事をするから」


 そう言って4人の端末にミッション終了の通知と最終の報酬が書かれたメールが入ってきた。全員が同意をクリックして返信しその着信を確認したツバキ、


「しばらくゆっくりしてちょうだい。リンドウが帰りの船の中で言っていた様に既に守備隊が上陸地点に向かっている。あとは彼らがアンテナ獣の動向を監視する。ハンター本部としての仕事は終わりよ」


 ツバキの言葉に頷いた4人は長いミッションを終えてそれぞれの自宅に戻っていった。


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