第135話 西の工場
翌朝、装甲車は再び北上してから進路を西に取った。再びドローンを飛ばしたエリンとルリは打ち合わせ通りのポジションにドローンを配置して周囲を警戒しながら慎重に山を迂回すると、高度を上げて前方を飛んでいるドローンのカメラに大きな工場が映し出された。ルリの声でスクリーンを覗き込むエリン。
その工場は場所的には工業団地と山を挟んで正反対、電波塔があった山の裏側のまだずっと先の起伏のない荒野の中に建っていた。高度を上げて近づいていくドローンの映像にその全景が映ってきた。
先端工業団地ほどではないにしろ、遠目に見てもかなり大きな工場であることがわかる。そしてその工場の中心には鉄筋で組まれた塔がありその頂上には大きなアンテナが1台設置されているのが見えた。ただその塔はそれほど高くはなく屋根の高さから少しだけ突き出ている様だ。
『こちらエリン、電波塔のあった山の裏に大きな工場を発見したわ』
『見ている。リンドウどうするつもりだ?』
『もう少し近づいてみる』
『気をつけて、無理は禁物だぞ』
本部長のピートの声にわかったと答えるリンドウ。
「エリン、装甲車から工場までの距離は?」
「約12Km。遮蔽物や起伏がないのと工場がここからだと見下ろす位置にあるから近く見えるけどね」
「ランディ、方向転換してくれ」
「わかった。すぐに逃げられる様にだな」
「その通りだ。12Kmなら大丈夫だとは思うが念のためだ」
ランディがその場で車をUターンさせる。エンジンはかけたままだ。そうして車が停止すると
「ここからはドローンで視察しよう」
「あの見えている工場がAIの拠点かしら」
「どうだろう。ただ工場の中央に電波塔があるわね」
そんな話をしているルリとエリン。その間にも2人が操作しているドローンは空から工場に近づいていく。
「北と南に分かれて中央ですれ違う様に飛ばしてくれ」
リンドウが指示すると工場に向かって飛んでいたドローンが左右に分かれて工場の北と南の端に向かう。
『リンドウだ。本部見えているか?』
『クリアだ』
「工業団地と違って屋根が一部しか壊れてないわ」
南から近づいていたルリのドローンの画像に工場が見えてきた。確かに工場の屋根は一部は破壊されているものの半分以上残っており中の様子が上からだと全て見られない。
「こちらも同じね。そして結構な数の機械獣がいるわよ」
エリンの画像には工場の周囲を警戒している機械獣が映ってきた。小型タイプ、マシンガン獣と見た感じでは普段ハンターが相手をしている機械獣と同型で、新しい型のは今のところ見当たらない。ルリの画像に視線を向けるとそちらも同じ様に周辺を警備しているのか多くの機械獣の姿が映っている。
「工場の周辺だけでざっと見た限りでもマシンガン200、小型は500以上はいそうだな」
「そうね。外だけでね。おそらく山裾にいた機械獣たちはこの工場の護衛にまわったんでしょう。きっと工場の中にもいるわよ」
エリンの言葉にそうだろうなと声を出すランディ。彼も車の向きを変えるとエンジンをかけたまま後部に移動してスクリーンを見ている。
どうする?という顔で2人がリンドウに顔を向けてくる。ランディも顔をスクリーンからリンドウに向けた。
「まずは屋根の破壊されているところから建物の中を撮影してくれ」
2機のドローンが工場の上空から高度を下げると屋根に近づいていく。壊れているところから中を撮影していくと、
「機械獣の製造ラインみたい」
ルリの画像には工場の生産ラインの一部が映っているが確かに機械獣が組み立てられているのが見える。じっとスクリーンを見るルリ、リンドウ、そして同じ様にスクリーンを見ていたランディが
「俺達が知ってる機械獣ばかりだ」
「ラインが1つとは限らないぞ」
ルリが上手くドローンを操作してできるだけ中の様子が見える様にする。
「ラインは1つだけみたい、でもほらっ、」
ルリがドローンのスクリーンを指さすとそこにはさまざまな機械が作業をして1台の機械獣を作っていた。そうしてそのまま見ていると最後にその機械獣の背中にアンテナを装着していく。
「アンテナ獣の製造ライン?」
『違う、ラインじゃない。それは1台1台製造する機械だ』
エリンの言葉に答える様に都市国家から声が飛び込んできた。情報本部の担当者の声だ。
『生産ラインとは決まった形の機械獣を連続して製造するラインのことだ。今そちらのスクリーンに映っているのは1台ずつ機械獣の完成型を製造する機械だ』
エリンと都市国家とのやりとりを聞いてピンときたリンドウ。
『つまりだ。この設備を使って新しい機械獣を作り、それが合格となったら隣のラインで大量生産に入るってことか?』
『その可能性が高い』
「見えてきたな」
とリンドウ。
「ここは新しい機械獣の開発センターみたいなもんだ。ここで新しい機械獣を作って奴らがいけると判断したら電波を飛ばしてその生産のプログラムデータを工業団地に送る。受け取った工業団地はそのプログラムに基づいて新しい機械獣をバンバン生産しているってことだ」
「なるほど。機械獣が進化してたのはここでプロトタイプを製造して研究してたってことね」
リンドウの説明をエリンが端的に纏めてくれた。その通りだと頷くリンドウ。
「となるとAI側の本拠地はここじゃないってこと?」
リンドウは聞いてきたルリに顔を向けて、
「それはわからない」
『引き続きドローンで可能な限り調査してくれ』
『了解』
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