第133話 アンテナ獣 その2

 作戦が決まった。ランディは車を5体の機械獣に向けて進めていく。位置を確認したエリンはドローンを戻すとレーダーを全開にして探索にはいる。そしてリンドウとルリは屋根の上で戦闘準備に入った。ルリがマシンガンに弾倉ベルトを送り込み、リンドウはその横で組み立てたロングレンジライフルをバイポッドで屋根に置くと伏射の姿勢になる。


「目標まで7,000メートル、ランディそのまま真っ直ぐ進んで」


 ラップトップに表示される距離を報告するエリン。


「距離4,500小型が気づいたみたい。3体こちらに向きを変えて向かってくる」


「こちらリンドウ。目視でも確認した。マシンガン獣は後から来てるんだな?」


「そうよ。遅れてこちらに向かってきてる」


「ルリ、弾丸がもったいない、銃で倒そうか」


「そうね」


「ランディ車を止めてくれ」


 荒野で車のエンジンを切ると急に静かになった。


 そう言うとマシンガンから離れて足元に置いていた自分の銃を構えるルリ。こちらは伏謝ではなく膝立ちだ。


「エリン、あとはこちらでやる」

 

 そう言うとスコープに近づいてくる3体の小型が見えてきた。距離3,000まで引っ張ってリンドウがロングレンジライフルを発射して戦闘の1体を綺麗に吹き飛ばす。そうして今度は銃口をマシンガン獣に向ける。近づいてきていた2体の小型はルリが1,100と900でそれぞれ綺麗に倒した。


「リンドウ、大型はよろしく」


「任せろ」


 大型が3,000メートルに近づいたところでリンドウの銃が火を噴いてその首を綺麗に跳ね飛ばして大型を無力化させる。そうして装甲車は1体となったアンテナを積んでいる大型に近づいていく。


 再びドローンを飛ばして周囲を警戒するエリン。


「敵影無し」


 視界にゆっくりと荒野を進むアンテナを乗せている機械獣が入ってきた。


「マシンガン獣よりもずっとでかいな」


 再び車を動かしたランディが言う。


「だからスピードが出ないんだろう。ランディ、前に回り込んでくれ正面からキャタピラーを狙う。距離1,000で狙撃銃で撃つ」


 リンドウの指示で車を機械獣の前方に移動させるランディ。移動している機械獣の1,200メートル前方で停車する。動きが止まった装甲車の上で伏射の姿勢でスコープを覗き込んでいるリンドウ。スコープには動くキャタピラーが見えていてじっと狙いをすませていたリンドウが引き金を引くと派手な音と同時にキャタピラーの留め金具が外れてキャタピラーがちぎれた。


 感心しているメンバーの前で2発目を発射すると左側のキャタピラーの留め金具も外れて機械獣はその場で動かなくなる。


「わかっちゃいるけどよ、半端ない腕だな」


 車を近づけながらランディが声を出す。そうしてアンテナを装備している機械獣の横に車をつけるとすぐにルリとリンドウが機械獣の上に飛び乗った。エリンはドローンで周囲を探索し、ランディはいつでも車を出せる様に運転席に座って2人の作業を見ている。このあたりは何度もチームを組んで活動してきた4人だ。全部言わなくても各自がやるべき仕事をわかっている。


 アンテナの横にルリとリンドウが立ったことによりその映像を見ていた都市国家の情報本部の分析官がすぐにアンテナのサイズを割り出して、それから電波の到達可能距離を計算しはじめた。

 

『こちらリンドウ、アンテナ2基を外した。装甲車に積んで持ち帰る。他に要求は?』


『送信機だそれと命令をINPUTされている頭脳があれば』


「これじゃない?」


 アンテナを外した機械獣の屋根の部分を見ていたルリが声を出す。この機械獣はいわゆる頭という部分がない。平べったいボディにキャタピラーを装備しているが屋根の前方部分に出っ張りがあり、それを開けると中にAIが組み込まれていた。


「ルリ、代わって!」

 

 エリンの声でルリが装甲車に飛び込むと代わりにエリンが装甲車から飛び出してきてAIの頭脳部分を調べる。そうして、


「これでOKよ。チップを取り出した。この機械獣はもう死んでる」


 そして送信機はこれよというエリンが指さした機器をリンドウとエリンで取り外した。


『お聞きの通りだ。エリンがAI部分を取り出した。送信機も取り出した。本体を破壊して良いか?』


『構わない』


 アンテナとAIを装甲車に積み込むと動かない機械獣から200メートル程離れそこで止まる。リンドウがグレネードランチャーに弾丸を装備して発射すると見事に機械獣に命中してその場で爆発して粉々に砕け散った。


「周囲に敵影無し」


 エリンに代わってドローンを操作しているルリが言う。


『こちらリンドウ、これから西に進む』


『気をつけてな』


「ランディ、ルートをまた南寄りにしてそして西に進んで頂戴」


「OK」


「それにしてもリンドウ、グレネードランチャーも使えるのね」


「マヤに頼んで同じものを借りて荒野で実践練習をしてたんだよ」


「なるほど、マヤにね」


 ルリが意味深な視線を投げかけてくるがそれを無視するリンドウ。エリンは


「マヤはともかく、ちゃんと事前に荒野で実践しておくなんて流石にリンドウね」


 そうして再び南寄りのルートで西進しだした装甲車、ドローンはルリがそのまま操縦して周囲の警戒を行い、エリンは装甲車の中で機械獣から取り出したAIのチップからデータを予備のラップトップに落としてそのデーターを本部に送信していく。


「キャタピラーの留め金具を1,000メートルで綺麗に撃ち抜くとはな。いや本当に超一流のハンターだ」


「前回の3,500メートルに比べたら彼にとっては楽な狙撃だったでしょう」


 本部のピートもしてやったりの表情だ。


「動いているキャタピラーも関係なしか。いずれにしても彼にミッションを任せて大正解だったな」


 政府の役人が感心した表情で言っている。


その後は機械獣の襲撃もなく装甲車は夕刻に廃墟の中に車を止めた。今度はいつ襲撃が来てもおかしくないのでランディも見張りに参加し、2人1組で交代で警戒を続けた。

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