第132話 アンテナ獣

 「前方に何かいるわ。動いてる」


 ドローンのモニターを見ていたルリが声を上げた。続けて


「進行方向1時の方向、距離10Km、ドローンを近づけるからもう少し待って」


 ランディが車をやや右に、北北東に進めていくと5分後に


「何これ?従来の機械獣と見たことのない機械獣がいる」


 その声にエリンが顔をドローンモニターに向けてすぐに都市国家の本部に


『こちらエリン、見えてる?』


『見えている。もう少し近づけないか?』


『了解』


「ルリ、ドローンの操作をエリンと代われ、マシンガンの準備だ」

 

 リンドウの声でルリがエリンにドローンのコントローラーを渡してすぐに屋根に上がってきた。代わりにエリンがドローンを操作して近づいていく。ルリと変わったリンドウが装甲車に降りてきた。


 ドローンが近づくにつれてその姿が見えてきた。中央に見たこともない機械獣、背中の部分に前後に背中合わせの様に大きなアンテナを装備している。そしてそのアンテナを乗せている機械獣の足はキャタピラーだ。


 そのアンテナを乗せている機械獣の前後左右には従来の機械獣がまるで護衛する様に配置されてゆっくりと東に進軍している。アンテナを積んでいる機械獣の前には背中に2挺のマシンガンを装備した大型機械獣がおり、小型の足の速い機械獣が後ろと左右に配置されている。


 全部で5体の機械獣は非常にゆっくりとしたスピードで荒野を進んでいた。


 画像を見ているエリンから、


『進軍速度、時速約10Km。ゆっくりと東に向かってる。真っ直ぐ行くと工業団地の方角よ』


『リレー方式で電波を飛ばすんだ』


 インターコムに突然聞いたことがない声が流れてきた。すぐに


『失礼、こちら情報分析本部だ。ドローンの映像を見ているが背中合わせのアンテナの機械獣は電波の中継基地だ。後ろ側にあるアンテナで電波を受けるとそれを前にあるアンテナから前方に飛ばす仕組みになっていると思われる』


『なんてことだ』


 また都市国家から知らない声が聞こえてきた。そして次に情報本部から聞こえてきた声はリンドウら4人のみならず関係者全員を驚愕させる。


『これ1台じゃないはずだ。アンテナの大きさとそれを乗せている機械獣の大きさから想像すると電波を飛ばせる距離が限られる。大きいアンテナじゃないしパワーを食うからな。だからリレー式にして複数台のこの機械獣を使って工業団地に電波を飛ばすものと思われる』


「なんだって?こんなアンテナを積んだ機械獣が複数いるってことか?」


 スクリーンを見ていたリンドウがその画像を見ながら声を出す。


『その可能性が高い』


「倒してもいいのか?」


「この4体の周辺5Kmには他に敵影はないわ」


 ドローンを操作しているエリン。しばらくの間があってからインターコムに


『破壊してもらいたい。できればアンテナと送信機を持ち帰ってもらえるとありがたい。ただし破壊した場合に機械獣が救援として繰り出してくる可能性を排除できない』


「どうするよ?」


 ゆっくりと車を機械獣に近づけているランディが運転しながら聞いてくる。エリンもどうしようかという表情でリンドウを見る。


「わかった。これから破壊する。そして万が一機械獣が大挙してやってきたら俺達はここから引き返す。それでよければ攻撃する」


 しばらく都市国家からは連絡がない。装甲車の中でじっと待っていると、


『こちらハンター本部のピートだ。今政府や情報本部と並行して打ち合わせをしていた。リンドウの案でやってくれ』


『了解。もう少し作戦を詰めたら再度連絡する』


 装甲車は荒野の真ん中で停止した。運転席から後部座席を振り返ってくるランディ、屋根に上る梯子の途中まで降りてきてリンドウを見ているルリ、そしてドローンを空中に停止させたままエリンもリンドウを見る。


「これからあれを破壊しよう。アンテナを持って帰って欲しいってことなのでまずは護衛の雑魚から倒そう。ドローンを見た限りだとアンテナを積んでいる機械獣に戦闘能力はなさそうだ」


「雑魚はいいとしてあのでかいのをどうやって倒すの?」


「俺が狙撃銃であのキャタピラを壊して動けない様にする。それから全員でアンテナを取り外そう。ただしもし他の機械獣が現れたらその時はグレネードランチャーでアンテナごと機械獣を破壊して逃げる。機械獣が来なくてもアンテナを取り外したらあのでかいのはグレネードでぶっ壊す。そして再び西に向かう」


 ルリの質問に自分の作戦を説明するリンドウ。彼の作戦を聞いている装甲車の3人のみならず都市国家の関係者全員がびっくりした。


「まだ西に向かうの?」


「そうだ。情報本部の予想では複数台いるってことだ。1台じゃまた次に来るだろう。叩ける時に一気に倒せるだけ倒してしまう。そしてもしこの最初の5体を倒して応援が来なかったらAIはこの5体については移動するプログラムしか入力していないことになる。次に見つける5体についても同じだろう。もちろん護衛の雑魚には攻撃プログラムは組み込まれているだろうけどな。AIの基地に救援を出すプログラムが入ってないとわかる」


「なるほど。5体倒したら全てがはっきりするわね」


「そう言うことだ。俺の感覚だが護衛をつけている時点でアンテナを乗せた機械獣には戦闘能力がないんだと思う。速度が遅いってことはすでに十分重いってことだからな。戦闘は護衛の4体に任せていると思う」


 理論的なリンドウの説明に納得するメンバー。同時に都市国家内でこの一連のやりとりを聞いていた関係者もリンドウの読みに関心していた。


「あのハンターは素晴らしいな。見事な読みと行動力だ」


「No.1のハンターですからね。それにしても毎回感心させられますよ」


「それにしても初めて遭遇する事態で瞬時にあそこまで判断をして決断を下せるとはな。政府中枢で働いてもらいたくらいだよ」


「それはハンター本部としては受けることはできませんね」


 リンドウらの知らないところで政府関係者とハンター本部とのやりとりが行われていた。

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