第33話 合同調査隊 その4


「今回は無理なお願いを受けてくれてありがとう」


 食事をしながら話しかけてくるツバキ。


「守備隊の管轄下じゃなくてハンター本部、あんたの管轄下で行動するのなら問題はないさ」


「信用してくれてるのね。嬉しいわ。でも今回は相当危険よ?」


「事前に脅威の内容がある程度わかれば対処方法を考える。それで危険度は下がる。それにしてもいつ食ってもツバキの作る料理は美味い」


「ありがと。毎日作ってあげてもいいのよ」


「考えておくよ」


 いつもの会話だ。ゆっくりと食事をする2人。ツバキが持ってきたワインを1杯だけ飲んで後はミネラルウォーターを口にするリンドウ。


 食事が終わった後はリンドウが食器を洗っている間にツバキが先に風呂に入って、バスタオルを体に巻いて出てきたのと入れ違いにリンドウがシャワーを浴びる。そして今は大きなベッドで全裸で抱き合っている2人。1回目が終わって寄り添ってきたツバキを抱きしめていると、


「今回の合同作戦、貴方がリーダーになると思ってたらその通りになったわ」


「リーダーの器じゃないんだが、周囲に祭り上げられてしまった」


 ツバキは抱き寄せられながらじっとリンドウの目を見て、


「自分で気づいてないだけ。あなたには人を惹きつける魅力がある。何というか持ってる雰囲気が他の人とは違うのよ。この人に任せたら安心だという気持ちを周りが持ってしまうのよ。重厚な存在感というのかしら。そしてねセックスアピールも凄いの。たいていの女性は貴方に抱かれたいって思っちゃうわ。そして抱かれると離れたくなくなるの」


「自分ではわからないな」


「そういうものよ。そんな雰囲気を持ってる人はほとんどいない。女から見たら理想の男よ」


 そうして夜遅くまで熱い夜を過ごした2人。翌朝は早めに起きてツバキが作った朝食を食べながら


「今日と明日はどうするの?」


「今日は鍛錬して明日はゆっくりと体を休めるつもりだ」


 食事をする手を止めずに頷くツバキ。


「今回のハンターによる巨大廃墟の探索だけど、本来は都市防衛本部がするべき仕事だったのをその尻拭いをさせられてる。無理しなくていいわよ」


「支部長ならもっとハッパをかけてくるのかと思ったぜ」


 意地悪ねと言ってから


「あなたを失いたくないの。絶対に無理はしないでね」


 リンドウはツバキを送り出してからもう1度シャワーを浴びるとメンテが終わった狙撃銃を持って荒野に出て廃墟の壁相手に実射してその仕上がりに満足する。


 それから午後はジムで2時間ほど体を鍛え、自宅に戻るとそれから出発の当日まで家から出ずにじっと過ごしていた。


 ハンターはミッション前に酒を飲んだり体を動かしたり荒野で機械獣相手に銃を撃ったりとそれぞれ各自のルーティーンを持っている。自分のスタイル、やり方でミッションに備えるのだ。


 スティーブは大型マシンガン用の弾丸を大量に買い込み、それを時間をかけて丁寧にケースに入れて準備をして時を過ごし、ヤナギは射撃場で毎日標的相手に実射する。


 これが彼らのルーティーンだ。


 そしてエリンとルリは自宅で銃の整備をしていた。


「今回は流石に簡単なミッションじゃないわね」


 ルリ。


「確かにね。でもリンドウがリーダーだからなんとかなるんじゃない?」


「そうね、彼はベッド以外では無茶しないからね」


ルリはそう言うと銃を整備しているエリンに顔を向けて、


「ねぇ、エリン、ミッションが終わったらどうする?ここに来てもらう?それともリンドウの家に行く?」


「こんなきついミッションって久しぶりでしょ?おそらく戻ってきたら3日間位何も考えずにひたすらセックスしたくなると思うのよね。呼んじゃおうか」


「そうしよう」


 出発の当日。背中にバックパックで大きなリュックを背負い、狙撃銃を肩から吊るして右手にスナイパー銃のケースを持ったリンドウがD門に行くと、そこには装甲車が泊まっていてスティーブ、エリン、ルリが来ていた。


 リンドウは装甲車の周囲を回って状態を確認し、スペアタイヤ、予備燃料が問題ないことを確認してから後部扉を開けて荷物を入れる、そうして後部座席と運転席の間にある木箱を持って車の外で開けるとそこには2基のドローンが入っていた。


 少し離れた場所にいたエリンに、


「エリン、ドローンの操作はできるよな。これを頼む」


 リンドウの声でこちらに近づいてきて木箱の中を覗き込んだエリンは。


「ドローンがあると探索が楽になるわ。ありがとう」


 ヤナギがやってきてD地区のメンバーは揃った。


「揃ったみたいね」


 スーツ姿のツバキが近づいてくる。そしてその後ろには今回参加しないAランクのサポートメンバーも全員来ていた。


「今回の周波数は214.2MHzよ」


 全員がゴーグルで周波数をセットする。そして通話をして問題がないことを確認しあう。


「リンドウ、無理はするなよ。まぁお前さんなら大丈夫だとは思うが」


「でも無理は禁物よ」


 ランディとサクラが声をかけてくる。


「大丈夫さ、やばくなったらとっとと離脱するつもりだ」


装甲車に弾丸、食料、水などの荷物を積み込むとエリンが地図を広げて、


「ここでC地区のタツミらと合流する。それからはこちらが先頭を走って巨大廃墟を目指す。初日の野営地はここ。2日目は戦闘があるだろうから到着が遅くなる前提で巨大廃墟の手前にあるここの廃墟で野営して3日目から探索開始。これでいい?」


 説明を終えたエリンがリンドウを見ると大きく頷く。無理のないスケジュールだ。


「合流した時点でエリンからあちらにも予定を説明してくれ」


 そうしてリンドウらを乗せた装甲車はD門を出ていった。


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