第34話 巨大廃墟へ


 装甲車の運転席にはヤナギが座り助手席にはルリ。後部座席にはエリンとスティーブ、そしてリンドウだ。


 エリンは自分で持ち込んだラップトップを端末と接続し、そしてドローンともデーターをリンクさせるべく作業をしている。


 門を出て1時間後、ランデブー地点にほぼ同時にC地区の装甲車もやってきた。周囲の安全を確認し、スティーブに屋根の上で哨戒をしてもらいながら他のメンバーは車を降りて通話の確認をする。


「これからミッション終了まで214.2MHzは常にオープン、通話状態にしておいてくれ。10人はもちろん、ツバキやアズミにもリアルタイムで情報が伝わるからな」


 それからエリンが地図を広げてルートと野営の場所を説明する。


「最初の野営地まで時速50Kmで約6時間。翌日の移動中はおそらく戦闘がある。それで時間を取られるから余裕を見てるの。夕刻までにこの廃墟に到着してそこで野営する。そしてこの廃墟から巨大廃墟までは何もなければ30分の予定よ」


 リンドウが続ける。


「巨大廃墟の探索は基本太陽が登っている間としたい。夜は危険すぎるからな。従い探索を終えると毎日ここの廃墟に戻って野営をする。ここが俺達のキャンプ地になる」


 リンドウの説明に頷くメンバー。その後はドローンの画像をC地区の装甲車のラップトップにリンクさせる。C地区はリリーが担当だ。


「途中で機械獣との戦闘になった場合、俺から指示がない限りは各自自由に対応してくれ。ただし弾は無駄遣いするなよ」


『ツバキ、アズミ、聞こるかい?』


『クリアーだ』


『聞こえているわよ』


『OK。今説明した通りだ。もし何かあったらいつでも呼びかけてくれ。じゃあこれから出発する』


 リンドウの言葉で各自装甲車に乗り込むと巨大廃墟を目指して進み出した。


 初日は道中でたまに小型機械獣と遭遇する程度で問題なく予定通りに野営する廃墟に到着。廃墟の中に車を入れて停める。


「見張りだが10人だから5、5にする。C地区組とD地区組でいいな」


 そうして初日を終えて2日目の移動中の昼前


『左前方11時の方向より機械獣接近、大型が2、小型が5。距離4,500』

 

 インターコムにエリンの声が響く。車内から目に見える範囲に廃墟が見当たらないのを目視したリンドウ。


『車を横に向けて止めてくれ。ここで迎え撃つ。タツミと俺で大型をやる。残りは小型を。スティーブはサポートで』


 リンドウは指示を出しとすぐに狙撃銃を持って屋根に上がっていった。隣を見ると同じ様にタツミが屋根に上がってきているリンドウを見てサムズアップをしてくるのに同じ様にサムズアップで返すと伏射になってスコープを覗き込む。


『距離2,500』


『OK。あとはこちらでやる。俺とタツミとスティーブ以外は1000切ったら好きに撃ってくれ』


『了解』


 四つ足の大型機械獣がこちらに向かって疾走してくるのをスコープで捉えていたリンドウ。距離1,500になったところでリンドウの銃が火を噴いた。そして1,100でタツミが発射する。どちらの銃も1発で大型を先頭不能にした。


 700メートルになった時に他のメンバーの銃が一斉に火を噴いた。みなセミオートの3点バーストで発射しているが全弾命中して5体の小型機械獣が吹き飛んだ。


『相変わらずの腕だな、リンドウ』


『銃の性能が良いだけさ』


『それにしても狙撃銃で1,500で仕留められる奴なんていないぜ』


 再び動き出した車の中でタツミと会話をするリンドウ。


『噂は聞いてたけど実際目にすると凄いわね』


『リリーもリンドウの凄さがわかったでしょ?』


『ええ。あそこの距離で倒してくれたらこっちは楽よね』


 その後も数度機械獣との遭遇はあったが問題なく倒して予定より早めに進んでいた一行の前、荒野の先に巨大廃墟が見えてきた。リンドウが時計と見ると日没までまだ3時間ちょっとある。


『車を廃墟から5,000メートルまで近づけて走ってくれ、それから野営地に向かう』


 そうしてリンドウの指示通りに2台の装甲車は巨大廃墟に5,000メートルに近づくとその南側の外周に沿ってゆっくりと走る。初めて巨大廃墟を見るメンバーは装甲車の窓から覗き込んで見ている。


『あれが今回の探索目標の巨大廃墟だ』


『想像以上の大きさだ』


『確かに高いビルが多い、それに倒壊しているのも多数ある』


『エリン』


『大丈夫。今のところ敵影はないわ』


『よし、まだ日が暮れるまで少し時間がある。車を停めよう。エリン、ドローンを飛ばしてくれ』


『わかった』


『スティーブは屋根上で哨戒を、そちらはスミスが哨戒を頼む。他はPCの画面を見よう』


 エリンがドローンを上げるとそのまま上空から巨大廃墟に向かわせる。


『C、見えてるか?』


『見えてる、クリアだ』


『ツバキ、アズミ、そっちはどうだ?』


『こっちもクリアに見えてるわよ』


『俺のところも問題ない、それにしても上から見ると本当にでかい廃墟だな』


 ドローンは巨大廃墟の外周を越えて中に入って行った。こうなると視界でドローンを捉えるのが難しいのでエリンは車内のPC画面を見ながら操作する。エリンの背後から画面を食い入る様に見るメンバー。エリンは器用にドローンを操作してビルの谷間を縫う様に飛ばす。画面には守備隊の死体や倒れたテントの残骸、ひしゃげた装甲車らが映っているが誰も何も言わない。しばらく無作為に廃墟の中を飛んでいたドローン。


『ドローンをゆっくりと9時の方向に進めてくれ』


 リンドウの指示で向きを変えたドローンがその方向に飛んでいくと


『機械獣だ』


 誰かの声がインターコムに聞こえてきた。


 そこには大型機械獣が十数体固まっているのが見えてきた。その周囲にはおそらく30以上の小型の機械獣もいる。


『高度を上げて』


 リンドウの言葉でエリンがドローンの高度を上げるとズームアウトしていく画面。大型や小型の機械獣が密集しているエリアのそばに大きな建物の残骸が見えている。その高度で同じ方向に進んでいくと、巨大廃墟の端の近くある大きな建物の前に同じ様に十数体の大型と30体ほどの小型機械獣が固まっているのが見えた。ただその辺りは廃墟とはいえ高い壁に囲まれている様だ。装甲車が入れそうな大きな通路はなさそうに見えた。最初見た時はあそこから侵入できないかと思ったリンドウだがその考えを捨てた。


『今日はここまででいい。ドローンを回収してくれ。慎重にな』

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