第73話 酒場にて
ツバキは支部長室に戻るとリンドウらが撮影した動画を本部に送りその通信文の中に先ほどリンドウが言った可能性についても示唆しておく。
動画、持ち帰ってきたマシンガン、そして被弾した装甲車全てがハンター本部経由で情報分析本部に提供された。そこでより詳しい分析を行うことになる。
リンドウら3人は盾になった見返りとして実働4日で3,000万ギールという大金を手に入れたので当分は何もしなくても大丈夫だ。もっともこの3人は既に相当のギールを貯めてはいるが。
リンドウはミッションを終えた日にエリンとルリのマンションを訪ね翌日に自宅に戻ってきて以来は都市国家内でのルーティーンをこなしていた。ジムに行き射撃場に顔を出す。そして自宅に戻って寛ぐ。週に2、3回はシモンズのバーに顔を出してそこで軽く飲みながら夕食代わりの食事をして帰る。判で押したような日々を過ごしていたが当人は全く苦痛になっていなかった。
この日も日中のルーティーンを終えて夜にシモンズの店に顔を出したリンドウ。店には先客が4人いてテーブル席に座っていた。
「リンドウ、久しぶり」
テーブルから声が掛かる。そこにはサクラ、マリー、そしてワシントンとウイリアムズの4人が座って酒を飲んでいた。彼らを見てそのテーブルに近づいていったリンドウ。
「久しぶりだな。支部の地下では見ないが外に出てるのか?」
「ああ。最近はこの4人でD4地区をメインにして狩りをしているんだ」
ウィリアムズの言葉に頷くリンドウ。テーブルはウィリアムズとマリー、そしてワシントンとサクラと並んで座っている。お互いに恋人同士の様だ。誰と誰が付き合おうとリンドウに取っては興味の無い話だ。貞操観念が低いハンター稼業。恋人がいても他の男や女とセックスをするのが悪いとは誰も思わない。
「マシンガン獣は出てるか?」
テーブルに座っている4人の顔を見てどうだ?とういう表情で聞くと、
「1体だけ遭遇した。支部からの通知の通り700メートル以上の距離で倒しているので攻撃はされなかったよ」
ウィリアムズが顔を上げてリンドウを見ながら言う。
ハンター本部はリンドウら3人の身体を張ったミッションの報告を受けて支部経由で全ハンターにマシンガン獣と遭遇した際には700メートル以上の距離で排除する様にと通知を出していた。
「なるほど」
ワシントンの言葉に頷くとまぁお互いに気を付けようぜと言って1人でカウンターに座る。すぐにローズが薄い水割りをリンドウの前に置き、
「リンドウは最近は外に出てないのよね」
「ああ。自宅と支部の地下の訓練場との往復の日々だ。そろそろ出てみようかなとは思っているが」
「ここに来るハンター達の話だと機械獣の数は以前のレベルに戻ってるらしいぞ」
シモンズがリンドウ用に簡単な食事を用意してカウンターに置いてくれる。2人とも水商売にすっかり馴染んでいてパッと見た限り凄腕のAランクハンターだった面影はない。酒場稼業がすっかり身についている。リンドウは目の前の料理にフォークを突き刺し、
「なるほど。じゃあ久しぶりに外に出てみるか。ところでそっちの景気はどうだい?」
カウンターに置かれた食事を口にして美味いなと言ってからリンドウが顔をあげてカウンター越しに立っている2人を見る。
「昔の知り合い、あんたもそうだが、を中心に顔を出してくれる奴が多い、そしてその知り合いがまた知り合いを紹介してくれている。忙しくて目が回るほどじゃないが客が来なくて焦るほどでもない。いい感じだよ。うるさい客や暴れる客もいないしな」
シモンズの言葉にそりゃよかった。俺も非力ながら協力するよと言うリンドウ。そうして食事を平らげてしばらくシモンズやローズと雑談をしていると後ろで席を立つ音がした。
ワシントンとウィリアムズがシモンズとローズにご馳走様と言ってからまたなとリンドウに声を掛けて先に店を出ていく。2人に後からすぐ行くわと言ったサクラとマリーがカウンターに座っているリンドウの左右に立つと、サクラがリンドウの顔に自分の顔を寄せてきた。
「他の男と付き合ってるからって抱いてくれないってことはないんでしょ?」
サクラに顔を向けると、
「俺はいつでもOKだって言ってるだろう?」
「うふふ。それを聞いて安心したわ。また連絡するわね」
そう言ってリンドウに手を挙げ、シモンズととローズには御礼を言ってから2人で店を出ていった。
「リンドウは昔からモテるよね」
2人の会話を聞いていたローズが扉が閉まるとリンドウに顔を向けてくる。
「来るものは拒まず。俺の信条さ」
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