第72話 盾 その3
そして3日目、なかなかいないね、とか、あの1体の試作品だけだったのかもとか言いながら車を走らせていると、
「3時の方向大型1、小型3。距離5,000メートル」
エリンの言葉に機械獣の進行方向に向かって車を横に向けて止めるとリンドウが装甲車の屋根の上に上がってロングレンジライフルを構える。
「距離4,600。足が遅いわ。蜘蛛型よ」
インターコムを通じて聞こえてくるエリンの声に続いて
「こちらルリ、準備完了」
運転席から後部に移動してきたルリが自分の銃を持って小窓のポジションについた様だ。エリンは装甲車の中でコンピューターや機器を弄っている。そうしながら距離報告をする。
「距離4,000。リンドウ。見える?」
「まだ確認できない。あと500メートル待て」
「了解」
そして1分もたたない内にリンドウの声がインターコムに響く
「見えた!背中に背負ってるぞ。マシンガン獣発見。距離3,500。待機するぞ」
3人のやりとりはハンター支部にも届いているが支部からは指示は飛んでこない。ツバキはやりとりを聞いていたが口を出さない。D地区でトップスリーの3人がミッションをこなしているのだ。彼らには全幅の信頼を置いている。
リンドウは装甲車の上で伏射の格好で銃をロングレンジライフルから狙撃銃に持ち替えて近づいてくる大型の頭部に狙いをつける。
「小型の方が早い。小型3体が先にくるわ」
「ルリ、任せた」
「オッケー」
小型が1,000メートルを切ったところでルリの銃が3点バーストで火を噴いた。見事に命中させて小型3体がその場で動きを止める。
そうしてその背後から背中にマシンガンを背負った蜘蛛型が近づいてきた。
『ツバキ、見えてる?』
『見えてる。気をつけてね』
『了解』
マシンガン獣が装甲車まで500メートルを切った時、一旦その場で機械獣が止まるとすぐに激しい射撃音がしてきた。思わず装甲車の小窓から顔を離すルリとエリン。リンドウは屋根の上で腹這いになってじっと姿勢を変えずにスコープを覗いている。
「リンドウ大丈夫?」
「大丈夫だ。それより今の感じだと全弾撃ってないな」
「うん。まだたっぷり残ってるわよ。気をつけて」
それにしても攻撃せずにいるってのは身体に良くないぜ。リンドウはスコープを見ながら思っていると、射撃を止めた蜘蛛型が再び動き出した。
「近づいてきてるぞ、距離400」
撃たない
「距離300、来るぞ!」
大型機械獣が足を止めた瞬間に叫んだリンドウ。そしてその直後に再び激しい乱射音がしてきた装甲車のボディに銃弾が当たる音がしまくる。
「大丈夫か?」
「大丈夫。窓から中には入ってない。でも激しいわね」
ルリの声を聞いて安心したリンドウ。
「まだ全弾撃ってないわよ、気をつけて」
エリンの声がインターコム越しに聞こえてきた。
「そうみたいだな」
3人ともマシンガンの銃弾80発がどれくらいかの感覚はしっかりと持っている。そして距離100で止まって再び乱射してきたマシンガン獣。全弾を撃ち終えた様でそのまま装甲車に向かって突撃してきた。
「全弾撃ったな。倒すぞ」
装甲車の屋根の上と中の窓から同時に銃弾が飛び出して近づいてきたマシンガン獣を討伐した。
『討伐お疲れ。ミッション終了よ。戻ってきて』
『了解』
エリンがツバキに答えている間にリンドウは屋根から中に降りてきた。中を見た感じでは窓から飛び込んできた銃弾はなさそうだ。運転席に戻ったルリが倒した大型に車を向けながら
「近くまで来るのを待つって気持ちのいいもんじゃないわね」
「全くだ」
その後マシンガン獣の背中の銃器を取り外して車に入れると一行は都市国家に戻っていった。
「お疲れ様」
支部に顔を出すとツバキと職員が3人を出迎える。録画したデーターを支部の職員に渡してから報告をする3人。
「リアルタイムで見ていたから大体はわかってるつもりだけど、結局500、300、100メートルの距離で3回発射してきたのね」
「そうだ。そして発射前には動きを止める。動きながら撃つのではないな」
リンドウの言葉に頷くツバキ。
「敵のマシンガンの精度は?」
「悪くないわね。500でもそれなりに脅威になってた。100で撃たれた時は正直怖かったわよ」
ルリの言葉にエリンもリンドウも頷く。
「かなり厄介な機械獣と言える。装甲も厚い。ピンポイントで首と胴体の付け根を狙うか、背中のマシンガンを弾き飛ばすかしないときついな」
「あなた達なら問題ないけどそこまでの精密射撃ができないと厳しいわね」
リンドウに続けて言ったツバキの言葉にその通りと頷くエリンとルリ。そして
「幸にして足は遅いからAランクでその都度処理していくしかないわね。撃ってきたのは500だったけど最大射程距離は700だっけ?それ以上離れている時に倒せれば大丈夫よ。足が遅いから狙いやすいし」
「それにしても今まで小型に武装させていただけなのに一気に大型にマシンガンを装備するなんてね」
エリンとルリが話をするのを聞いていたリンドウがひょっとしたらと呟き、全員がリンドウに注目する。リンドウはこの会議室にいる全員の視線が自分に注がれているのを見て
「いや、ひょっとしたらこのマシンガン獣は荒野で俺達相手にフィールドテストをしていたのかもしれないなと」
「どういうこと?」
ツバキが聞いてきた。
「巨大廃墟の奥に機械獣の製造工場があるかもって話しだろう?本来そこの防衛を担当するために開発したんじゃないかと思ったんだよ。防衛担当なら足が遅いのも頷ける。数十体のマシンガン獣を工場の周囲を徘徊させておくだけでいいからな。それと通常の機械獣がいりゃ守備隊でもそう簡単には突入できないだろう」
リンドウの話を聞いた全員が目を見開いてそして納得する。確かに工場防衛なら足の速さは関係ないだろう。
「こっちにきていないだけでこれ以外のタイプもいる可能性もあるわね」
ツバキがボソリとつぶやいた。
「あくまで推測だ。それに実際にD5地区辺りまで近づいてきている。防御用と決めつける訳にはいかないけどな」
その後端末に流れてきたミッション完了のメッセージに同意をして報酬が振り込まれたのを確認すると解散になった。
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