第104話 マヤと

 エリン、ルリ、スティーブ、そしてヤナギが使っていた新しいタイプの銃が上市されると今までマシンガンをメインで使用していたAランクのハンターを中心に噂になり発売するとすぐにベストセラーになった。


 そうして連射タイプのAランクが皆こぞってこの銃に切り替えた話がハンターの中に広がるとBランクでも金銭に余裕のあるハンター達がこの銃を使用し始める。




「新しい銃、生産が追いつかないくらいに売れてるの」


「俺から見てもあれはいい銃だとわかる。ハンターの生存率が上がる銃を作ってくれてありがとうよ」


 リンドウの部屋で少し前まで濃厚な時間を過ごしたマヤは今は全裸の上に自分が着てきた白のシャツをだけ着てソファの隣に座っているリンドウに寄りかかりながらジュースを飲んでいる。


「試作品を最初にD地区のAランクハンターに配って正解だったわ。そのフィードバックを見て会社の上層部も正式生産を決めたらしいから」


「なるほど」


 試作品の感想はリンドウも含めハンターにとっては大事な仕事だ。それで生死が別れることもあるからだ。時には辛辣な意見も言うが一方で良い武器や防具には高い評価を与える。


「リンドウは戦闘スタイルは変えないのよね」


「ああ、俺は今まで通りさ。ロングレンジライフルと狙撃銃。これで続ける」


「3,200メートルのスナイプの命中率100%、こんなハンターはこの国にはリンドウくらいよ」


 そうして一休みすると再びリンドウを欲したマヤ。最後に一番の絶頂を与えられてベッドで失神してしまう。


「本当にすごいの。いつしてもらっても今までにない位に感じちゃう」


 失神から覚めたマヤがベッドの隣に寝ているリンドウにしがみついてきている。


「マヤの身体も抱くたびに感度が良くなってるじゃないか」


「そう?きっと誰かさんに開発されたからだわ」


 そう言ってしばらく微睡んでから起き上がると下着だけ身につけたマヤが夕食を作ってくれる。リンドウと付き合っている女は皆外見に似合わず家庭的だ。


 マヤが作ってくれた手料理を食べている時に、


「都市防衛隊からうちの会社が受注した武器が来週納品されるの。装甲車の上に取り付ける大型の砲台よ」


 料理を食べていたリンドウが顔を上げてマヤを見て


「重機マシンガンじゃないのか?」


 その言葉に首を振って


「もっと大型よ。強いていえば4層の壁の上に設置してある砲台の小型版って感じ。あれは銃口というか発射口が8つあるけど、作ってるのは発射口が2つのタイプ。そして7,000メートル先のターゲットを完全に破壊できる威力があるの」


 話を聞いていたリンドウはピンと来た。指向性電波を発している発信源の破壊用だ。

マヤは核兵器工場のことは知っているだろうが指向性電波が飛んでいることは知っているかどうか不明なので黙って聞いているとリンドウの頭の中を察したのか


「私は仕事柄かなりの機密に触れることができるの。あなたとエリン、ルリ、ランディのレポートも見たわ。荒野で強力な電波でドローンが干渉を受けたんでしょ?」


「その通りだ」


 マヤが知っているのならと頷くリンドウ。


「会社の上から極秘で電波の干渉先を破壊する銃の開発の依頼が来たの。ターゲットの形は不明だけど仮に塔だとしてそれを完全に破壊できる威力のある銃という注文だったわ」


「マヤもそのプロジェクトチームの一員なのか?」


「ええ。銃の基本デザインを担当してるの。最初はリンドウが持っているロングレンジライフルをベースにしようかと思ったんだけど塔の破壊となるとライフルのタイプだと1発では破壊できないかもしれない。色々調査して結局4層の上の砲台のミニチュア版を作ることにしたのよ」


「なるほど。それででかい砲弾を発射するタイプにしたんだな」


 リンドウの言葉に頷くマヤ。

 彼女の説明では鉄骨でできている塔なら高さ30メートル位までなら1発で倒せる威力があるという。


「銃の値段も砲弾の値段も桁違いに高い。実戦向きではないけど1度きりのミッションだからと都市防衛隊の担当者が言っていたわ」


「やつらは金はたんまりと持っているらしいからな」


 そう言うとマヤはリンドウを見て頷いてからリンドウの目を見る。


「うまくいくと思う?」


「銃が問題ないとすると電波の発信源を見つけられたら破壊することはできるだろう。射程距離が7,000メートルか。破壊した後そこから船に戻るまで逃げ切れるかどうかはわからないけどな。重要な施設には間違いなくそこを守っている機械獣の群れがいるはずだ。そいつらの能力が今俺たちが倒しているのと同じとは限らないからな」


 破壊できたとしても確実に生きて帰ってくる保証はないとリンドウは思っている。ただ破壊さえしてくれればハンターにとっては今以上の機械獣の進化が止まるだろうし、それがひいてはハンターの安全に繋がるだろうと思ったことを言う。


 リンドウの話を聞いているマヤもハンターの仕事の領分は十分に理解している。たまたまスナイパーがいなかったからラップトップの破壊というミッションをリンドウが遂行しただけで本来ハンターとは機械獣を倒して生計を立てる職業なのだと。


「そうなると今度はハンターの出番はなさそうね」


「冷たい言い方だが、電波の発信源だけは完全に破壊してくれと思ってる。そうしたら俺たちの出番はないだろう。それとその遠距離砲をAI側にコピーされない様に間違いなくその砲台が乗っている装甲車は帰ってきてもらいたい」


 リンドウの言葉に大きく頷くマヤ。そうして


「実はその砲台には仕掛けがあるのよ。これも砲台を注文した都市防衛隊からの要望だったんだけど」


 そう言ってリンドウの目を見るマヤ、


「砲台を支えている台の中には爆薬が入っているの。遠隔操作でボタンを押したら砲台どころか装甲車ごと吹っ飛ぶ量の爆弾がね」


「証拠隠滅か」


「そう」


「えげつないが悪くないやり方だ」


 都市国家防衛隊の中にもわかっている奴はいるんだなと感心する。


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