第27話 都市防衛隊出撃 その2
数日後、D門にはこれでもかという程の車や装甲車、兵員輸送車のトラック、そして多数の兵士が集まっていた。全ての装甲車の屋根の上にはマシンガンが装備されていてそこには兵士が既に立っている」
「数だけ見たら圧巻だな」
リンドウがD門に集まってる都市防衛守備隊の兵士や装備をやや離れた場所から見ながら声を出すと、
「今回は5箇所の巨大廃墟遺跡にそれぞれ500人、合計2,500人の兵士を送り出すらしいわよ」
隣に立っているツバキが顔をD門に向けながら言う。いつものスーツ姿でビシッと決まっている。集まっている兵士を見ている一般の非戦闘員の中には防衛隊の方ではなくこちらを見てそこにいるエリンとルリ、そしてツバキを好色な目で見ている男も少なからずいる。もっとも彼ら非戦闘員は見るだけだ。もしちょっかいを出したらどうなるかというのは十分に知っている。
「兵士は大した装備してないわね あれじゃあ機械獣が複数体出てきたらな倒せないんじゃないの?見た感じだと持ってる装備ってハンターならBランクか下手すりゃCランクのよ」
ルリが言うと皆あれじゃあ無理だろうと他のハンターも言う。
Aランクの全員がリンドウがいる場所に集まってD門を見ていた。D地区のランクA全員が集まるのはほとんどなく、そこにいるBランク以下のハンターやの中には守備隊ではなくてAランクが集まっている方を見ている者も多い。こちらは純粋に高ランクのハンターを見ようと言う好奇心と畏怖の視線だ。
「あいつら500人よりここにいる俺達10人の方がずっと戦闘力が高いぜ」
スティーブが言う。周囲は黙っているがあながち誇張でもない話だ。
「あいつら、ほとんど実践経験がないはずだ。野垂れ死だな」
「それも人生さ」
ランディの言葉にヤナギが哲学者の様な回答をするが、そりゃどういうことだ?とスティーブは全く理解できていない。
「廃墟で死ぬのも彼らの人生だってことさ。守備隊隊に入った時点で人生が決まっちまった。今更どうすることもできない」
サクラとマリーはAランクとは言えこの中ではもっとも新米だ。2人とも黙って他のAランクハンター達の話を聞いている。周囲のAランクのハンター達が500人の兵士の装備を見てこれじゃあ勝てないと断言しているが彼女らにはまだその感覚がわからない。
エリンがその2人に近づいていき
「なぜ?どうしてって顔してるわね。そうね、はっきりとした理由はないけど今までの経験から彼らは勝てないってなんとなくわかるの。勝てないって意味はあなた達が思っている勝てないとはちょっと違うと思うけどね」
「違うって?」
聞いてきたマリーにエリンが、
「例えば500人乗り込んで敵を殲滅しました。でも400人死にました。これは勝ったとは言えないでしょ?都市防衛隊の本部はそれでも勝ったと言うかもしれないけどね。でも実際は勝つために貴重な兵士を400人失い、装備も失った。ハンターなら大失敗のミッションよ。私はいつもハンター基準で物を見るの。もう癖になってる。1人でも死んだらそのミッションは失敗ね」
「なるほど」
「守備隊がどれくらいの生存率を見てるのかは知らないけど、私たちの感覚だと500人なら1%の5人以内の死亡率ならなんとか成功したって言えるレベルじゃないかしら」
エリンがマリーとサクラに説明しているのを他のAランクのハンターが面白そうな表情で聴いている。エリンの話が終わると、
「エリンの言う通りだ。死んだら終わりさ。俺達は自分の命は当然だがチームを組んでる奴の命も自分の命と同じ位に大事にしている。味方の屍を乗り越えてなんてのは戦闘じゃないって思ってる。だからハンター同士は結束が固いのさ」
ランディがエリンの言葉に続けて言って、そして
「リンドウは何と今回は守備隊の大勢が死んでかつミッションは失敗して逃げ帰ってくるって断言してる。こいつの勘は当たるからな」
「俺は断言してるわけじゃないけどな。その確率は高いだろうとは思っているが」
「そこまで予想できるのなら助けないの?」
サクラがリンドウを見て言うが彼は冷たい目でサクラを見返すと、
「これは巨大廃墟の探索という名の下での都市防衛隊とハンター本部とのメンツをかけた戦いだ。そんなくだらない理由の戦いに口を出したり手助けしたりする気は全くない。実戦をほとんど知らない上の連中が書類やデータだけで決めた戦術に多くの兵士やハンターが振り回されるなんて俺はまっぴらごめんだ。お前達もAランクになったんだ。いつまでもお人好しじゃあ早死にするぞ。時には割り切らないとな。それが生き残る術だ」
きつい言い方だがリンドウの言葉は真理を突いている。サクラとマリー以外のAランクハンターとツバキは今のリンドウの言葉に大きく頷いている。
銃の訓練では得ることができないハンターという職業のものの見方を目の当たりにしている2人。今までは上から降りてきたミッションをこなして報酬を得るのがハンターだと思っていた。でもそれは違っていた。ハンターとは敵を倒すのはもちろん、そのミッションが自分に取って意義のあるものかそして生き残れるのかどうかを判断しなければならない職業なのだと。そうでないと早死にしてしまう職業なのだと。
黙ってしまった2人にルリが、
「堅苦しい話をしたけど、ミッションを与えられた時にはその意味をよく考えて受けるかどうかを決めたらいいわ。幸にしてここD地区の支部長のツバキは元Aランクハンター。他の地区は知らないけど彼女はハンターがどう言うものかを知ってるから無茶な要求はしてこないわよ」
「えらく私を買ってくれてるじゃないの、ルリ」
黙ってAランクハンターのやりとりを聞いていたツバキが言うと、
「そりゃあ同じ男に惚れている者同士だからね」
リンドウは横を向いていた。
「おっ、出るぞ」
シモンズの言葉で全員がD門に顔を向ける。大型トラックや装甲車が次々と門から広野に出ていった。
そうして最後のトラックが出ると誰かが、
「さて、何人戻ってくるか」
そう言って皆三々五々その場から散っていった。
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