第28話 都市防衛隊出撃 その3


 守備隊が出て言ってもハンターの日常は変わらない。外で日銭を稼ぐ者、ハンター支部のビルの地下で身体を動かしたり射撃練習をする者、そして何もしない者。


 日々のルーティンをこなしているリンドウはこの日は武器屋に顔を出して頼んでいたロングレンジライフルを受け取り、予備の弾丸もまとめて手に入れてから狙撃銃と新しいライフルを2丁持ってD門の外に出ていた。


 そうして重たい銃ケースからそれぞれロングレンジライフルを取り出すと1,000メートル先にある廃墟の壁に向かって試打をしながら補正をする。模擬弾なので威力はないと言うものの1,000メートル先の壁に当たると壁が大きく削れる。


 2丁の銃の補正が終わると満足して銃をケースに戻すと狙撃銃で1,000メートルの射撃練習をする。彼のレベルだと1,000メートルでの命中率は100%だ。


 腕は鈍ってないと自己満足してD門に戻ってきたところで端末に着信が入る。銃を地面におろして端末を見るとツバキからだ。


「今どこにいるの?」


 リンドウが通話状態にするとすぐにツバキの声が聞こえてくる。


「外からD門に戻ったところだ。どうした?」


「今本部から連絡があったの。廃墟探索に出た守備隊は5地区全てで全滅したそうよ」


「全滅?5箇所全部で2,500人が死んだのか?」


「そうよ。それで政府から本部に依頼が来てるの。詳細は会った時に説明する。Aランク全員に声をかけてるの。3時間後にオフィスに来て」



 都市防衛隊、政府の直轄の軍隊で時に短く守備隊と言われてることもある。都市国家の防衛を主たる任務とし、その兵士の数は約2万人、事務方を入れると3万人を越える大きな組織だ。


 都市国家では最大の戦力を保有しているがほとんど実戦での経験のない兵士ばかりで構成されている。主たる任務は4層にある砲台の管理、都市国家内の治安維持、そして最近できた前線基地の管理。戦闘についてはこの前線基地に常駐している兵士がたまに近づいてくる機械獣を処理している程度である。それも塀の上に設置したマシンガンを撃ちまくるだけだ。都市国家の多くの国民からは都市防衛隊は軍隊というよりも国家内の治安維持、つまり警察のイメージが強い。


 装備、武器は全て支給品で戦闘服も同じだ。ハンターの様に銃は選べず、またゴーグルを所持しているのも階級が上の兵士だけで一般兵士は端末を持っているだけだ。


 その都市防衛本部が今回の巨大廃墟の調査に手を挙げたのは政治的なもので、都市防衛隊の具体的な成果が見えないので予算の減額を検討しているという情報を入手した都市防衛本部の上層部が政府に対して然るべき成果を見せるために巨大廃墟の探索に手を挙げたという背景がある。


 ハンター本部が手を挙げなかったことでほくそ笑んだのは都市防衛本部のお偉いさん方だ。廃墟の探索だし装備も充実していると1地区当たり500人で十分だろうと兵士を振り分けてそれぞれの巨大廃墟に向かわせる決定をした。現場を知らない書類しか見ない上層部の決断が誤っていたことがすぐに証明される。上が無能なら派遣される兵士たちも指揮官を含めてほとんどが実戦経験がない者ばかりだった。


 D6地区の先にある遺跡を調査するために出陣した500名は道中は何の問題もなく遭遇するBランクやAランクの魔獣を討伐していた。小型機械獣に対しても装甲車の上からマシンガンを撃ちまくる何の戦法もないただの武力行使だがそれでも倒せていたので巨大廃墟に近づいた頃にはほとんど全ての兵士がこの任務は簡単だと思っていた。


『D地区の巨大廃墟に到達した。これから内部の探索と敵の排除を開始する』


 無線を通じて本部に連絡を取ったこの部隊の師団長であるミケルソンは廃墟前で兵士をトラックから下ろすとそのまま瓦礫の隙間から舞台を全て廃墟の中に侵入させる。


 中は倒れたビルや瓦礫の山それに凹んだ道路。直ぐに装甲車は前に進めなくなった。


「装甲車はここで待機、周囲を警戒しろ。他は10人のチームで廃墟の探索を開始する。敵と遭遇したら排除せよ」


 威力の高い装甲車のマシンガンを使用できなくなったがミケルソンは全く気にしていなかった。400人以上の兵士がいるという安心感から安易に考えていたのだ。


「レーダーは何か捉えているか?」


 ミケルソンの声に1人の部下が、


「申し訳ありません。建物が多く倒れておりレーダーの感度が非常に落ちています」


 言われて周囲を見ると倒壊寸前の高いビルや斜めに倒れているビルが乱立している。


「仕方ないな。周囲に注意して探索するんだ」


 廃墟に入って1時間立ったが部隊はまだほとんど調査できていなかった。瓦礫の山が兵士の進軍の邪魔をし、そもそも実戦経験のない兵士たちはおっかなびっくりで前に進んでいたからだ。


 それでもいくつかの瓦礫を超えて進軍していく兵士たち。


「機械獣なんて全くいないじゃないか。ハンターの奴らガセの情報を流して来たのか。戻ったらとっちめてやらないとな」


 そうして探索を始めて4時間が過ぎて日が暮れて来た。


『これから野営に入る。今の所機械獣との遭遇なし』


 定時連絡を終えると上の指示で廃墟の瓦礫の中で野営の準備をする兵士たち。今まで全く機械獣と遭遇していなかったこともあり緊張感がなくなっていた兵士は雑談をしながら廃墟の中で明かりをつけて携帯食を食べる。そして食事が終わるとごく少数の見張りを除いて全員がテントの中で睡眠を取った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る