第118話 インタビュー その1

 大規模襲撃から2ヶ月が経った。D地区に戻ったリンドウらAランクのハンターの査定が終わって報酬を渡したツバキが支部長室のオフィスで不在の間に溜まっている書類と格闘していると彼女のPCに呼び出しが入る。


 PCを切り替えるとツバキも知っている本部の職員の顔が映る。


『忙しいところ申し訳ない』


「いえいえ、それでどうしました?」


 そうして職員が話し出したのは今回の大規模襲撃の際に最前線で対応したハンターを取材したいという話しが都市国家に2局ある放送局の内の民放局の方から来ているらしい。


 TV局からはランクAのハンターをどなたか紹介してくれないかと言っている。本部としては推薦するならNo.1のハンターであるリンドウと考えているがどうだろうかという話だ。


 聞いていたツバキは


「本部としてはハンター個人がTV局のインタビューを受けるのは構わないということなのですね?」


 とまずは本部の立ち位置を確認する。


『ハンターを取材してその仕事を理解してもらうのは我々の仕事の宣伝にもなる。また理解者が増えると予算が取りやすくなるというメリットもある。本部としてはハンターへの取材は問題ないと考えている。もちろんミッションの詳細については一切口外できない。通常の活動をしているハンターの取材やインタビューならOKだという返事をしている』


 本部職員の説明に頷くと、


「なるほど、わかりました。では一度リンドウに聞いてみますが当人が受けないことも予想されますが?」


『当然だな。これについては強制はしない。リンドウが断れば他のハンターに当たってみる。まずはリンドウに聞いてみてくれないか?』


 端末での通話を終えるとツバキはリンドウにメッセージを送った。



「断る」


 ツバキと向かい合ってキッチンで食事をとりながらリンドウがツバキの顔を見てきっぱりという。


 ここはリンドウのマンションの一室だ。ツバキから話があると仕事の後でやってきて、今はいつもの手料理を二人で食べながら話をしている。二人ともほぼ全裸だ。リンドウは迷彩服のズボンだけで上半身は裸。ツバキは全裸に白のシャツを羽織っている。前のボタンは留めていないのでシャツがはだけてつい先ほどまでたっぷりとリンドウにしゃぶられた乳首や乳房が丸見えになっている。


 ツバキは部屋に来るなりリンドウの身体を求め、それにリンドウも応えそして満足してからようやく夕食を作ったツバキ。そうして食事が始まるとTV局のインタビューの話を持ち出した。


「有名になんてなりたくないしな。それにハンターなら他にいくらでもいるだろう。俺でなくても良いはずだ。名前や顔を売りたい奴らに取材させろよ」


 心底嫌な表情をしながら言う。


「わかった。私から断っておくわ」


 ツバキもこの話を当人にする前から目の前のリンドウは受けないだろうと思っていたので彼の言葉にも驚かず、また説得もせずにあっさりと引き下がる。目の前に座っている男は有名になりたくてハンターをしている訳ではない。これはほとんどのAランクハンターもそうだが、彼らは名声よりも金、あるいは機械獣を倒すという戦闘そのものが好きなのだ。


 戦闘狂とまでは行かないが機械獣を倒して対価を得るというこの仕事が好きでハンターをしている。名声や地位に興味のあるハンターはAランクにはほとんどいない。


 ツバキもそれをわかっているのであっさり引き下がり、そのまま食事の後はリンドウの部屋に泊まって朝までたっぷりと楽しんでからすっきりとした顔をして自宅に戻っていった。


 そしてハンター支部から本部に対してリンドウがこちらの申し出を断ったということをメッセージとして送信し、本部からは他のハンターに当たってみると返事が来てこの仕事は終わったと思っていたツバキ。

 


 ところがその後思わぬ展開になる。


 リンドウに断わられた本部は各支部に同様の話が持ち出して、支部長経由でそれぞれの地区のAランクのハンターにTVの取材の話をしたが全地区より回答がありAランクのハンター全員が断ってきたのだ。


 断ってきたハンターのほとんど全員が同じ回答で、目立ちたくないというのと、ハンターを取材するならランクNo.1のリンドウだろうという声だった。Aランクハンターの中でもリンドウがNo.1であることはすでに周知の事実となっていた。


「そういうことでリンドウしかいないのよ」


 呼び出されたD地区の支部長室でツバキが目の前に座っているリンドウに話かける。ぶすっとした表情でそれを聞いているリンドウ。


「頼むから勘弁してくれよ。取材なんて真っ平御免だぜ」


「全地区のAランクハンターが取材受けるのならリンドウしかいないって言ってるのよ。ここはみんなの気持ちを汲んでもらって受けてもらえないかしら?」


 本部からはもう一度リンドウに話をしてなんとか受けてもらえないかという要請がきている。ツバキは本部の事情まで説明をしてリンドウを説得する。


 そうして結局ツバキに押し切られる形でリンドウがTV局の取材を受けることになった。

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