第123話 懸念

 リンドウの部屋に泊まってたっぷりと楽しんだ2日後、3人は支部の車を借りて荒野に出ていた。新しい戦闘服に慣れるのと久しぶりに機械獣相手に鍛錬をするためだ。


 ルリが運転し、助手席にはエリン、後部座席にリンドウといういつもの指定席に座って荒野のD5地区を目指してく。途中のD4地区で野営をして翌日D5地区に入っていった3人。事前に決めていた廃墟に車を止めるとエリンとルリは地上に、リンドウは2階に上がって全体を見渡す。


「北に敵影だ。距離4,000大型が1体、これは2丁マシンガンタイプだ。小型が3体。準備はいいか?」


 インターコムからOKよという声を聞くとロングレンジライフルを構えていたリンドウが3,200の距離で背中に2丁のマシンガンを装備している大型を1発で倒す。同時に3体の小型が猛然と廃墟に向かって走り出してきた。


 狙撃銃に持ち替えたリンドウが1,500で1体を倒し、1,100でエリンとルリの銃が火を噴いて綺麗に2体を倒す。


「腕は鈍ってないな」


「そうね、戦闘服も気にならないわ」 


 その後もしばらく廃墟を起点として周辺にいる機械獣を倒していく。


「今のところ出会う機械獣は皆従来からいるタイプだよね」


「そうね、進化しているのはいないみたい」


 エリンとルリが廃墟の中で食事をとりながらやりとりをしている声が2階で周辺を見張っているリンドウの耳にも入ってくる。


「防衛隊がでかいアンテナを潰してくれたので進化が止まってるのならいいんだけどな」


「まぁもう少し時間が経たないとその辺がどうなったのか、分からないわね」


 リンドウの言葉にルリが答える。交代で食事をした後は車でD5地区を走り回って目に付く機械獣を倒していく3人。


 荒野で2泊して3日めの夕方にD門に戻ってきた。機械獣を多数倒したが全て従来からいるタイプだった。進化の跡は見られない。


 今日はリンドウが車を返し、支部に報告に行くことにしてエリンとルリとはシモンズの店で待ち合わせをすることにする。二人が4層のマンションに戻っていった頃、車を返したリンドウは支部のビルの中の支部長室でツバキと向かい合っていた。


「新しい迷彩服?」


 部屋に入ってきたリンドウを見たツバキの第一声だ。リンドウは頷くと迷彩服の裏地を見せて説明をする。


「いろいろと便利じゃない」


 いろいろという所を意味深に言ってくるツバキに、その通りだよなと答える。そうして3日間D5地区を巡回してきた報告をする。黙って聞いていたツバキはリンドウの報告が終わると、


「機械獣に進化がないとしたら今の体制で十分に対応可能ということでいいかしら?」


「そうなるな」


 ツバキもリンドウとは長い付き合いだ。返事をしているリンドウの言葉使いで彼が完全に同意していないことを理解する。


「何か心配事がありそうね」


「根拠はないんだけどな」


「リンドウの読みについては皆が認めている。懸念があるのならそれが根拠が無くても聞いておきたいわ」


 ツバキが言った通り、リンドウの読みについてはD地区のみならず本部長以下全地区の支部長が高い評価を出している。最前線で活動するトップの中のトップに位置するハンター、その彼の読みが今までことごとくハンター、いや都市国家を救ってきた事を知っているからだ。


 リンドウはしばらく頭の中で考えをまとめてからツバキに話しだした。


「確かに今回倒した機械獣は全て従来と同じタイプだった。これは守備隊が巨大アンテナを破壊したから新しい指示が出てないからだろう。ただ、いつまでもAIが対応をしてこないという保証はないからな。今までもそうだった。こちらが何かすると彼らも学習をして次の手を打ってきている。今回もそんな気がする。ひょっとしたら破壊したアンテナに変わる何かをもう作っていてそう遠くない日に全く新しい機械獣が登場するかもしれないとな」


「じゃあどうすればいいと考えてるの?」


 リンドウは顔を上げて真っ直ぐにツバキを見る。その深い黒い目で見つめられると下腹部が疼いてくる。さりげなく足を組み替える。


「破壊したアンテナのあった辺りを定期的に見てもらいたい。それが無理ながら工業団地でも良い。どちらかの場所を定期的に見てもらいたいんだ。破壊したからと安心していると取り返しのつかない事態になりそうな気がする」


「有るか無いかがわからない状態で都市国家防衛隊は送れないって言われたら?」


 リンドウはその可能性も十分にあると考えていた。


「俺個人としては守備隊が行かないのなら俺が行ってもいいと思っている」


「そこまで考えてるの?」


 ツバキもまさかリンドウがそこまで考えていたとは思わなかった様だ。びっくりした表情になる。


「何もなかった。その事実を確認したいんだ」


 リンドウが支部長室を出るとすぐにツバキは本部を呼び出し、今のリンドウとの面談内容、彼がすごく懸念しているということを報告する。


 報告していると途中からハンター本部の本部長であるピートも打ち合わせに参加してきた。ツバキの報告を聞き終えたピート。


「リンドウの読みには何度も救われている」


 そう言うとまずは本部から都市国家防衛隊と政府に派遣の話をする。そして守備隊が断ってきた場合にはハンター本部としてミッション扱いとして偵察隊を出すことにするという方針を打ち出した。


「ハンター本部から出す場合には機密保持も含めて前回のメンバー、リンドウ以外にエリン、ルリ、そしてランディという面子になるが」


「そうなったらこちらで3人を説得しましょう。もっとも彼らもトップハンターでしかもリンドウの読みについてはよく知っている。断るとは思えませんがね」


 ツバキの言葉にスクリーンの向こうで大きく頷く本部長のピート。そして


「もしハンター本部として派遣する場合にはもちろん船は確保する。そして派遣が決まった段階で一度彼らと打ち合わせがしたい」


「わかりました」


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