第140話 リンドウの読み その2

 会議が終わって4人がハンター支部の会議室を出るとツバキは自分の執務室に戻り、そこから本部のピート本部長との緊急Meetingを要求した。


 すぐに本部長がPCのスクリーンに顔を出してきた


「お忙しいところすみません」


「いや大丈夫だ。D地区からの要請は常に最優先扱いにしているからな」


「ありがとうございます」


 ハンター本部の本部長であるピートはD地区のリンドウを非常に高く評価しており、そのD地区を管轄しているツバキの評価も同様に高い。普段は手順を踏んでMeetingの申請をしてくるツバキがいきなり直で打ち合わせをしたいということは重要な案件に間違いないとピートは確信し、すぐにツバキの要請に応えたのだ。


 PCの画面に映るピート本部長にツバキは今の支部でのハンター4人との打ち合わせの内容を詳細に報告していく。ピートは途中で口を挟まずそして最後までツバキが説明をし終えると、


「政府がリンドウを欲しがっていてね。あれほど先を読める能力を持っている人間はいないから政府機関の中枢で使いたいと言っている」


「困りますね」


「もちろんだよ、ハンター本部としてそれはできないときっぱりとお断りしてるさ」


 そう言ってから


「それにしても毎回彼には驚かされるな。いや、見事な読みだ」


「リンドウは一介のハンターという括りから完全に外れています。彼は超一流のハンターであると当時に超一流の戦略家でもあり超一流の分析家でもありますね」


「全くその通りだ」


 そう言ってから


「政府や関係機関に相談する必要があるが個人的にはそのミッションはやるべきだろうと私も思う。この都市国家の周辺の状況を仔細に掴めることは今後の政府を含めた国家の活動方針にも大いに参考になるだろうし」


「やはりやるとしたらハンター本部の主導になりますか?」


 ツバキの言葉にスクリーンの向こう側で頷くピート。


「守備隊は今は西の工場の破壊ミッションに全力を注いでいる。破壊したあとも定期的な観察が必要だろう。これはまだ確定ではないが守備隊は船の上陸地点の浜辺の近くに前線基地を作る計画を持っている」


「なるほど。となると山の北側の地区の探索には人員、装備を割けませんね」


「その通りだよ。従ってハンター本部が主導権を持ったミッションになるだろうね」


 そう言ってから


「今の話はすぐに政府機関に上げて彼らと打ち合わせをさせてもらう。都市国家にとっても重要なミッションになるだろう。政府、関係機関からゴーサインが出れば支部長会議を開いて討議する。メンバー、装備、長期に渡る移動の燃料や食料をどうするかなど詰めなければならない点は多い。とはいえあまり時間もかけたくないな」




 ハンター支部を出た4人は4層にあるレストランに来ていた。このレストランは周辺のより価格が高めだがテーブルとテーブルとがかなり離れていてプライベートの会話をしても問題ないというが売りの店だ。店に入ると時間帯もあったのか店内は空いていた。それでも念のために他の客がいるテーブルから離れた場所にある席に座って料理を注文する、ランディは当然の様にビール付きだ。


「わかっちゃいるけどよ、相変わらず先の先まで見てるよな」


 美味そうにビールを飲んでからランディが口を開いた


「で、行くとしたらどんな感じになると思ってるの?」


 ルリがリンドウに聞いてくる。


「どうだろう。燃料車が1台。食料、武器を積んだ車が1台。そして屋根にマシンガンを装備している装甲車が最低でも3台、人員は15、6名から20名ちょっとってとこか」


「大掛かりになるわね」


「仕方ないだろうな。未知の場所だし」


 ミネラルウォーターを飲みながらルリと話をする。


「指名されたた行くの?」


「どうするかな。また長期のミッションになるだろう。簡単に返事はできない」


 リンドウはそう言ってから3人を見て


「それとランクAが20名以上も都市国家から長期間不在になっている間に3回目の大規模襲撃があるかもしれない。それも考えないとな」


 その言葉にまたあっ!となる3人。しばらくしてからそうだよね、こっちの都合なんて関係なしにあいつらがやってくることだってあるよねとルリ。


「一度リンドウの頭の中を見てみたいぜ、どうなってるかよ」


 俺には到底その読み筋は思いつかないぜと言ってランディはビールを飲み干すと店員におかわりを頼んだ。


 エリンは今のやりとりを聞いてまたびっくりしていた。支部での発言にも驚いたがミッションに行っている間の襲撃の可能性なんて考えもしていなかったからだ。おそらくAランクハンターの中でも誰も考えていないだろう。確かに何がおこるかわからない。北の探索と同様にここの防衛も考えているリンドウの頭の中はどうなってるのかしらと正面に座ってゆっくりと食事をするリンドウの顔を見ながら食事をしていた。


「いずれにしても」


 と食事をしていたリンドウが言うと他の3人が食事や酒を飲むのを止めてリンドウを見る。


「俺達4人のうち1人か2人はミッションに参加することになるだろう。工業団地と西側の工場を知ってるのはこの4人だけだからな」


「地図があっても?」


「ルリもわかるだろう?地図は万能じゃないって。土地勘というのが最後は効いてくるんだよ」


「確かにな。俺達なら北側のルートを進んでいってあの山を見つけたとしたら、その時点で西の工場の場所や東の工場の場所のおおよその予測がつく。しかも映像で北に向いているアンテナの向きもわかっている。山が見つかれば北にある何かを見つけるのは難しくない」


 ランディの言う通りだ。とリンドウ。ルリが続けて


「となるとリンドウじゃない」


「そうは限らないだろう。ここにいる4人なら誰が行っても同じさ」


 リンドウはそうは言うものの内心ではこの件を言い出した自分は参加すべきだろうと腹はくくっていた。


「逆に言うとこの4人全員が行くことはなさそうね」


「D地区から4人はないだろうな。その辺りはツバキや本部も考えるだろう。ツバキあたりは最近D地区がハンターミッションを率先してやってるから今回は1人にするって言いかねないぜ」


 ランディの言葉に十分ありえるなと頷く3人。


 ハンター本部本部長のピートは政府機関および分析情報本部、都市国家守備隊に対して都市国家から北側ルートでの山の北側を探索する必要があると提案し、その理由を説明する。その探索の目的と期待される成果についての説明を聞いた関係機関は全ての部門がハンター本部の提案に同意し、このミッションがハンター本部の下で行われることが決定した。もちろん政府や分析情報本部も全面的に協力する。そして都市国家防衛隊とも常に情報を共有していくことになった。


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