第106話 電波発信源破壊ミッション その2

 2台の装甲車を乗せている船のスピードが出ないので時間がかかり、都市国家防衛隊の兵士らを乗せた船は23日目に上陸ポイントに着いた。この上陸地点は海岸線が曲がっていることもあり船から見ると北に向かって砂浜に近づいていく感じになっている。


 上陸すると3台の装甲車は北西を目指していく。起伏の多い未開の地であることもあり複数のドローンを交互に飛ばして前方の安全を確認しながらゆっくりと目的地に向かって進んで行く。


 そうして平均時速30Km程で進んでいった3日目の昼前、起伏の低い部分からドローンを飛ばして前方を確認していた防衛隊のドローンが山を捉える。山というが木は生えていない。禿山の上に低い塔が立っており、そこには電波を送受信信するであろう大きな丸い皿状の設備が、パラボラアンテナが3基見える。その設備はそれぞれ別の方を向いていて、そのうちの1台は東南、つまり先進技術工業団地に向けられている。


 3台の装甲車が周囲を警戒しながらゆっくりと起伏の頂上に登ると肉眼でも視界の先に山が見え、山の上に電波塔が立っているが見えた。


「あの山の山裾までの距離と山の高さは?」


 リーダーのキールに聞かれた兵士の1人が装甲車内のコンピューターを見ながら返事をする。


「山裾まで20Km、山の高さは800メートルです」


 守備隊はすぐに装甲車に備え付けられているカメラで撮影した画像をリアルタイムで都市国家に送信する。


「こちら掃討隊。目標を発見。距離20Km。山の高さは800メートル。アンテナは3基あり内1基が工業団地に向いている」


「こちら本部。映像を見ている。敵の存在はわかるか?」


 ドローンを操作している兵士からこの距離で確認できないと報告があり、そのままの内容を本部に伝えるキール。


「わかった。慎重に進んでくれ。何かあったらすぐに連絡を」


 通信を終えるとドローンの画像を見ながら装甲車をゆっくりと進めていく。前方に飛ばしているドローンからの映像を見ていた兵士が声を上げた。


「山裾に敵影確認。機械獣多数が徘徊しています」


 装甲車を泊めてドローンの画像を見るキール隊長。


「砲台の射程距離の7Kmまで近づいた時には我々も機械獣に探知されそうな距離だな」


「ええ。おそらく探知されるかと」


 ドローンの画像には大型小型合わせて100体以上の機械獣が山裾を巡回している姿が映っている。


 山上にある電波塔を確実に倒すには山裾から5,000メートルまで近づかないとならない。遮蔽物のない荒野では敵からも丸見えになるだろう。


 キールは本部にこの状況を説明した上で


「砲台を発射し目標を破壊後に砲台を積んでいる装甲車ごと爆破します」


「うむ。止むを得ないな。許可する」


 本部とのやりとりを終えると探索チームの全員に


「今本部と話しした通りだ。我々は5,000メートルまで近づいて砲弾を発射する。おそらく大量の機械獣がやって来るだろう。砲弾発射後は速やかに砲弾装甲車の兵士を別の装甲車に乗せて現場を離脱する。あの数では2台のマシンガンでも掃討できない。船が待っている場所まで逃げ切る必要がある」


 そうして砲台が乗っている装甲車、これが1号車だ。とキールが乗っているもう1台の装甲車(2号車)を5,000メートルまで近づけることとし、別の1台(3号車)には人員、予備燃料などを積みこんでいく。重量が増えて重くなった装甲車に


「先に船に戻ってくれ。あとは2台でやる」


 そう指示すると3号車の装甲車は向きを変えて上陸したポイントに向かって走り出した。残った2台の装甲車は砲台が乗っている装甲車には運転手と射手の2名、もう1台の装甲車には運転手、射手、そしてPCを見ているナビゲーターとキールの4名が残った。


 準備が終わるとキールが進軍の指示を出すと2台の装甲車はゆっくりと荒野を進み出した。ナビゲーターの兵士から距離の報告が絶え間なくされてくる。


「距離9,000、8,000、7,000」


 7,000で車を泊めて様子を見る。機械獣はまだ気づいていない様だ。キールは気を引き締めると


「3号車、状況は?」


「現在時速60Kmで上陸地点に向かって走行中」


「了解した」


 そう言って時計を見て


「1時間後に前進する」




「発射準備」


 1時間後、キールが指示するとその場で停止していた1号車の天井についている砲台が動いて砲身が上を向き、山の上にあるターゲットを捉える。


「いいか。機械獣が襲ってきても発射するなよ、こちらの指示を待て」


「了解しました」


 討伐隊の2台の装甲車に備え付けているカメラが撮影している画像をリアルタイムで都市国家の防衛隊本部のモニターに映し出されている。


「よし微速前進」


 2台の装甲車がゆっくりと前進を始めた。砲身はセットしたターゲットに向かったままで装甲車が動くと砲身もゆっくりと動いて常にターゲットを捉えている。


「距離6,000 まだ気づいていません」


「そのまま前進。1号車、いつでも撃てる準備はできているな?」


「はい。常にターゲットを捉えており、いつでもOKです」


 そうして2台の装甲車はそのまま前進を続けていき、


「5,200。敵が気付きました。一斉に向かってきます」


 叫び声が聞こえてきた。キールは直ぐに


「5,000まで近づけ、そして発射する」


 向かって来る機械獣に向かう様に200メートル前進する2台の装甲車


「ターゲットまでの距離5,000」


「1号車、撃てるか?」


「撃てます」


「よし、発射!」


 その合図で砲身から2発の弾道が飛び出した。弾道は2発とも禿山の上にある電波塔に命中、電波塔が破壊されるのが肉眼でもモニターでも確認できた。


「ターゲット破壊、直ちに1号車の二人はこっちに来い」


 キールの指示で1号車に乗っていた2名の兵士が車から飛び降りて2号車に乗り込んできた。


「全速力で飛ばせ」


「機械獣接近中、距離2,500」


 ナビゲーターの声が聞こえる中2号車が全速力で走り出した。キールはモニターを見ながら1号車の自爆装置のスイッチを押した。


 大きな爆発が起こり1号車の車体が吹っ飛び、砲身も含めて装甲車もろとも瓦礫になたのを確認する。


「こちらキール、ターゲット破壊。また1号車も完全に破壊しました」


「こちら本部。全てモニターで確認した。あとは逃げ切ってくれ」


 装甲車は全速力で上陸ポイントに向かって走っていく。屋根には兵士が登ってマシンガンを構えて背後から迫ってくる機械獣に狙いをつけているがスピードも出ているし起伏があるのでなかなかターゲットを捉えられない。


「機械獣との距離2,200、縮まってきています」


 装甲車の後部カメラから見ると起伏で見え隠れするもののかなりの数の機械獣が追ってきているのが見えた。


「機械獣との距離1,800」


「撃てるなら撃て、ただし無駄撃ちはするな」


 キールが叫ぶとその直後から散発的にマシンガンが火を噴いた。


「起伏が多くてなかなか命中しません」


 屋根の上の兵士から声がしてくる。


「平坦なところまで待て」


 装甲車が大きくバウンドしながら起伏のある荒野を疾走する。


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