第107話 電波発信源破壊ミッション その3

「敵との距離1,000」


 ターゲットを破壊してから4時間。ひたすらに走っていた装甲車がようやく平坦な土地についた。装甲車がスピードを上げる。起伏で距離を縮められたがそれが却ってマシンガンの射程距離になっていた。


「距離変わらず。1,000メートル」


2分後ナビゲーターから報告がきた。


「よし!撃てるなら撃て!」


 屋根に乗っている兵士がマシンガンを連射するとバタバタと機械獣が倒れていく。しかし数が多いので後から後から機械獣が湧いてくる様にして追いかけてくる。


 平坦な場所に出たことでこちらから攻撃できる様になり途中で弾倉を交換しながらマシンガンを撃ちまくりながら上陸ポイントを目指す守備隊。装甲車は出せる最大のスピードで荒野をぶっ飛ばしている。


 激しく動く装甲車の上からの乱射で半分以上の弾は機械獣に当たらないがそれでも圧倒的な物量作戦が功を奏して100体近くいた機械獣の数は半分以下になってきた。とはいえ残りの機械獣が装甲車をしつこく追いかけてきている。屋根の上のマシンガンが絶え間なく火を噴いて機械獣を討伐しながら逃げる装甲車。


「こちら3号車。まもなく上陸地点に着きます。サポートは必要ですか?」


 先に返していた装甲車から連絡が入ってきた。


「先に船に乗ってくれ、そして船の上から援護を頼む」


「了解しました」


 3号車は砂浜に到着すると既に鉄板を下ろしていた小さい方の船に装甲車を乗せる。船は離岸せず、鉄板を砂浜におろしたままだ。3号車の屋根に兵士が登って上陸地点に向かってマシンガンを構えた。


「こちら2号車。あと30分で砂浜に着く予定だ。機械獣はまだ30体以上が追いかけてきている」


 そうして30分が過ぎて上陸ポイントに到着した2号車。機械獣は20体ほどに減っていた。装甲車が最後の起伏を超えて砂浜に到着すると速度を落として鉄板から船に乗りこんでいく。するとすぐに起伏越しに機械獣が現れた。


 待っていた様に3号車の屋根の上のマシンガンがその銃口を左右に振って近づいてきた機械獣を掃討する。砂浜の手前でバタバタと倒れる機械獣達。


「敵撃破。近くに敵影なし」


 2号車を乗せた船の鉄板が上がるとすぐに離岸する。その時になってようやく安心した守備隊の兵士たち。船の上で大きなため息があちこちから漏れてくる。


「こちらキール。無事に船に乗り込みました。犠牲者は無し。これから帰還します」


 その報告を聞いた本部。モニターを見ていた人々から安堵のため息が漏れる。


「砲台装甲車は失ったがなんとかミッションをやり遂げてくれたか」


「砲台装甲車の爆破は最初から選択肢にありましたからね。それよりもこれでとりあえず先端工業団地で生産される機械獣の進化は止まったんじゃないでしょうか」


 都市国家防衛本部の幹部連中のやりとりを聞いていた政府の担当者が


「とりあえずは一安心だがいずれは根本的な解決をしないとな」


 その言葉に頷く他のメンバー。




 守備隊が電波塔を破壊したという情報は政府経由でハンター本部にも流れてきた。本部は直ちに支部長を集めてオンライン会議を開き、その席上で守備隊が撮影した電波塔破壊の映像を見せる。


「3箇所に電波を飛ばしていたのか」


 映像を見ている支部長の誰かが発言する。


「砲台装甲車を爆破させるなんて、守備隊もやるじゃないか」


「技術があっちに流れるのを防いでるんだろうが思いきったことをやったな」


 砲台装甲車の破壊については支部長もよくやったという声が多く出ていた。彼らも技術がAIに流るのを危惧していたから帰れないのならあそこで破壊しておくのが正解だろう。

映像を見ていたD地区の支部長のツバキも発言こそしなかったものの他の支部長と全く同じ意見だ。


 動画が終わると本部長のピートの顔がスクリーンに映り、


「動画を見る限り電波塔は破壊されている。これで機械獣の進化が一定の期間は止まるだろう。破壊される前までどれだけの情報が流れていたかは不明なのでハンターにおいては引き続き十分に注意する様に指示願いたい」


 そう言うとG地区の支部長から


「最近のハンターの死亡状況について本部として集計している範囲で教えてもらえないだろうか。噂先行だがBランクを中心に死亡者が増えているという話を聞いているので」


 G地区の支部長の言葉に他の支部長からもお願いしたいという声が聞こえてきた。本部の別の担当者が画面に写り


「900メートルでマシンガンを乱射する機械獣が現れてから残念ながらハンターの死亡率は上がっている。ご指摘の通りBランクが多い。この機械獣の発見から昨日までの累計で全地区でハンターは45名死亡しておりその内41名がBランクだ」


 1地区あたり4名以上だ。多いな、多いという声がPCを通じていくつも聞こえてくる。


「それは大抵マシンガン獣にやられているのか?」


 同じG地区の支部長が本部に聞く。


「実際の現場を見ているのはほとんどいないがそうとしか考えられない。以前の死亡者は同期間でせいぜい2、3名だったのが一気に45名だ」


 報告を聞いて誰も言葉を出さない。すると再び支部長のピートの顔が映り、


「そう言うわけだ。注意喚起をよろしく頼む」


 そう言ってハンター支部長の打ち合わせは終わった。D地区のツバキはもちろん会議が終わると全てのD地区のハンターに再度マシンガン獣の注意を促し、決して無理をして討伐しない様にと念を押した。

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