第79話 ミッションになる

 都市国家防衛本部の探索部隊が持ち帰った画像を分析している情報分析本部。研究員達がさまざまな角度から映像や地形を分析し、そうしてまた分析、検討をし、その結果を再度確認するという作業を繰り返して最終の分析結果がまとまったとの連絡があり政府、情報分析本部、都市国家防衛本部、そしてハンター本部のTOP達が2層にある政府機関の施設に集まった。


「情報分析本部における工業団地の最終分析が終わった、詳細の説明を頼む」


 会議の進行役である政府の担当者の1人が発言すると情報分析本部から来ている上級分析員が立ち上がって参加している各自のPCにデーターを送信してから説明を始めた。


「探索部隊が撮影してきた画像をさまざまな角度から分析してまいりました。分析に時間がかかったのは出た結論を何度も検証したためです。なんと言っても核兵器開発予定地区がありますので作業は慎重にも慎重を重ねて行ってまいりました」


 続けて、


「我々の分析ではこの施設は2系統あり、それは核兵器を開発する施設と機械獣を製造する施設。今から私が説明するのはあくまで核兵器を開発する施設に限った話だと了解願います」


 そこで一旦言葉を切って参加者を見回し、


「まずこの建物のこのエリア、ここが地図にあった核兵器開発予定地区です。そしてそこにはすでに何がしかの建造物が見られます」


 各自のPCの上に赤い点で囲まれたエリアが現れた。そこは確かに何か出来ている形跡があるが天井部分の一部が屋根が残っていて全景が見えない。


「この地区を今度は横から撮影した動画がこれです」


 PCの画面にはゆっくりと飛ぶドローンから撮影されている画像が流れる。じっと画面を見ている参加者達。分析員は


「結論からいいますと、核兵器の開発はある程度進んでいたと思われます」


 その言葉にPCの画面から顔を上げる参加者達、


「ただし幸いにしてまだ完成しておりません。全体で50%程度の進捗になっておりますが核融合施設もまだ稼働してないことがわかりました」


 その言葉に室内に安堵の空気が流れる。


「とは言えこのまま放置しておくと間違いなく核兵器の開発は進むことも確認できました。この核兵器開発は現在進行形で進んでおります。あくまで推測ですが我々に残されている期間は4ヶ月から半年程。最短で4ヶ月経つと核融合装置が稼働すると思ってください」


 説明する分析員以外発言をする者はいない。皆が分析員の説明を聞きながらPCのスクリーンを食い入る様に見ている。


「逆に言えばこの核開発地区の施設を無力化できればこの工業団地では核兵器の開発は不可能となります」


 そこでようやく都市国家防衛本部から参加している1人が発言をする。


「ロケットでこの施設を破壊したら良いってことか?」


「いいえ、それでは出来ないのです」


 即答で否定する分析員。どうしてだ?という顔をしている他の参加者。


「核融合施設はまだ稼働していませんが、稼働できる状態に近いというのが我々の認識で、その施設に爆弾など大型兵器をぶつけた場合にはそのショックで核融合が起こるという可能性を否定できないからです。核兵器の規模がわかりませんが、かなりの確率で核爆発を起こした場合には核の灰がこの都市国家に向かってきます」


 万が一の可能性だが爆発のショックで核爆発が誘導される可能性があるという分析員の言葉に今度は都市国家防衛本部の別の担当者が


「じゃあ我々は手をこまねいて見ているだけなのか?」


 その言葉に首を左右に振ると、


「我々は何とかこの施設を無力化できないかあらゆる画像を分析しました。そして爆弾じゃない方法でこの核兵器開発エリアの施設を完全に無効化できる方法を見つけました」


 おおという声が会議室で上がる。分析員がPCを操作すると参加者各自のPCにある部分のアップの画像が現れた。


「この施設の中にあるラップトップPC。これが核開発における頭脳です。このラップトップを破壊できればこの核兵器開発施設は死にます」


「スナイプだな」


 ハンター本部から来ている担当者が発言するとその通り、ピンポイントスナイプでこのラップトップのみを破壊してもらいたいと言う。そう言ってから


「ただこのラップトップの位置が極めて微妙な位置にあります」


 そう言ってPCをいじると全員のPCの画面がゆっくりとズームアウトしていく。見えていたラップトップが小さくなっていき、代わりに周囲の光景がはっきりと見えてきた。


 そしてそれが大きくなった時に誰かが


「このポジションでないと無理なのか」


「そうです。このポジション以外でPCを完全に破壊することは出来ません」


 それはラップトップの本体が完全に正面を向いているアングルからズームアウトしたものだが途中で工場の配線や配管が画面に写り、そして最終的には工業団地の北にある壊れた壁から荒野に出た先になっていた。


「真北の方角ではラップトップが横からしか見えず、これでは命中させたとしてもどの程度破壊できるかがわかりません。しかもターゲットが非常に小さくなります」


 PCの画面が変わると今度は地図が現れた。それを見ると工業団地にある核兵器開発予定地区から北西の方角に線が伸びている。


「この線上が狙撃地点となります。ただし工業団地の周囲1,000メートルはマシンガン獣が徘徊しておりますのでその外側になります。そうして計算したところ最もスナイプに適した地点はここになりました。


 次の画面に線上に赤い点が現れた。


「ここがターゲットに最も近くてかつ団地から1,000メートル以上離れている安全な狙撃ポイントです」


「その狙撃ポイントからターゲットのラップトップまでの距離は?」


「3,500メートル」


 その距離を聞いて唸り声を上げる参加者達。政府から来ている担当者が参加者を見て


「このラップトップを破壊できればこの地区における奴らの核兵器開発は終わる。なんとしても破壊してもらいたいという政府の強い希望だ」


「とは言っても3,500メートルか」


 誰かが呟くと分析員が


「そしてラップトップでもここ弾を当てる必要があります。直径約5センチの範囲内に」


 3,500メートル先の5センチの的


「1発撃つと間違いなく工業団地を警備している機械獣達が気づいて攻撃してくるな。射撃チャンスはせいぜい2回か」


 都市国家防衛隊からの参加者の言葉にはハンター本部から。


「1回と考えた方がよいでしょう。それでもスナイプの後逃げ切れるかどうかはギリギリのタイミングになりますね」


「3,500メートルのスナイプ。この都市国家でできそうなのはいるのかな?」


 政府の担当者の発言に都市国家防衛本部は残念ながらうちにはいませんと即答する。担当者はそのまま顔をハンター本部の方に向けると


「うちには3,200でスナイプするハンターが1人いる。ただそのハンターでも3,500は未経験だろう。できるかどうかは分からない」


「そのハンターの腕は?」


「超がつくAランクハンターだ。おそらく全ハンターの中でも1、2を争うほどの腕がある。もっとももう1人のハンターは乱射タイプだからスナイプという点で見れば彼がNo.1のハンターであることは間違いない。3,200でほぼ100%の命中率だ」


 その言葉に感嘆の声が漏れる。


「じゃあそのハンターにスナイプを頼むしかないな」


 政府関係者はそう言うと参加者を見渡して、


「すぐに3,500メートルでのスナイプをする銃及び弾丸を製造する様にこちらからメーカーに指示する。都市国家防衛本部は探索船の運用を頼む。それから足の速い装甲車も用意してくれ」


 頷く都市防衛本部の担当者達。


「ハンター本部ではそのスナイパーの確保及び装甲車で一緒に移動するメンバーの選択をお願いしたい。必要なものは政府で用意する。もちろん報酬もだ」


 ここで一旦言葉を切ると、間を開けてから、


「そして最後にそのスナイパーのハンターが希望することがあれば基本は全部受けてくれ。我々は彼に運命を託すことになるのだからな」


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